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2.罰ゲームではありませんでした
しおりを挟む「おはようございます、文香さん。この時間帯に登校されると思っていましたよ」
貴重な体験をした日の翌朝。
図書室の小説の続きが読みたくて、足早に学校に向かうと、校門に寄り掛かり腕を組んで立っている長身の人物がいた。
その姿勢がモデル並に様になっている人物は、私を見つけると嬉しそうに声を掛けてきた。このイケボの持ち主は、忘れもしない……生徒会長だ。
昨日のようにニコニコとエンジェルスマイルを浮かべ、私の手をサッと取ると、さも当たり前のようにギュッと恋人繋ぎをし、スタスタと校内に向かって歩き出す。
まだ登校時間まで早いとはいえ、部活で朝練している生徒もちらほら見える。
ヒィ……! ぜ、全員目を真ん丸くさせてこっちを見てる……!!
「……え。あ、……の」
「一限の授業が始まるまで、アナタと一緒に過ごそうと思いまして。図書室でいいですよね? 文香さん、いつも朝はそこで本を読んで過ごしているでしょう?」
何故知っている!?
絶句している私の手を引っ張り図書室に連れて行き、私を椅子に座らせた生徒会長は、自分も正面の椅子に座ると机に頬杖をつき、何も言わずニコニコとこちらを見ている。
ど、どどどういう対応をすればいいんだ私はっ!?
……取り敢えず、生徒会長を見返す。
「…………」
「…………」
見つめ合っている内に、一限の授業の予鈴が鳴ってしまった。
「……おや、もうこんな時間ですか。あっという間でしたね。――あぁ、本、読めなかったですね。でも俺は、アナタの顔を間近で眺められて十分に満足でしたよ。ではまたお昼にお会いしましょう。授業遅れないようにして下さいね?」
生徒会長は椅子から立ち上がると、微笑みながら私の頭をそっと撫でて図書室から出て行った。
私はというと、呆けた表情のまま生徒会長を見送っていた。
……ちょ……ホント何なんだ一体!? 罰ゲームはまだ続いているのかっ!?
絶叫したい衝動を何とか堪えて、私はフラフラと自分のクラスへと歩いて行った。
それからも、何故か生徒会長の態度は変わらなくて。
朝、昼、生徒会の仕事が終わった後の放課後……と、一緒にいる時間が多くなり。
朝は相変わらず二人でいても無言の時間が殆どで、大抵ただ見つめ合ってるだけなんだけど。
お昼はいつの間にか一緒にお弁当を食べるようになって。
お昼時間の間だけ開放される屋上で、母の作ってくれたお弁当を無言でモグモグ食べている私を、生徒会長はすぐ隣で何故か微笑ましく見つめていて。
生徒会長、お昼は簡単に購買のパンで済ませているので、お弁当のおかずが欲しいのかな? と思い、首を傾げながら、お箸で唐揚げを摘んで生徒会長の口元に持っていくと。
「…………っ」
彼は驚いた表情を見せ、すぐに顔を伏せ口に手を当てるとフルフルと身体を震わせて……。
「……何その行動。可愛過ぎて激ヤバなんだけど。天使かよくそっ!」
何やら意味不明な言葉を小さく早口で呟いた生徒会長は、すぐに顔を上げ、差し出された唐揚げを嬉しそうに食べていた。
唐揚げが好き過ぎて震えがきたのかな? 今日帰ったら、母に唐揚げのリクエストしておくか。
……それにしても長い罰ゲームだな……。本当に付き合っている気持ちにさせられるよ……。
でもそんな気持ちになっては生徒会長に申し訳ないよね。
周りの生徒達も、新手の罰ゲームを生徒会長がやらされてると思っているようだ。
私と恋人繋ぎをして一緒に歩く生徒会長を、不憫や憐憫な目で見つめる生徒達。
そして生徒会長のお蔭で、学校での私の存在感が大幅にアップしたようで……。
「――ねぇ、あのさぁ」
自分の席に座っていると、興味本意なのか、それとも一言物申そうとしたのか、同じクラスの女子生徒が声を掛けてきた。
わっ、初めてクラスメイトに声を掛けられた……! でも表情がなんか怖い! これはきっと良くないことを言われる!
「あーっ! ちょっと待って! 罰ゲームを止めたり少しでも中断させちゃうと、国の超とってもエライ、でも一目見るだけで身体がガタガタ震えるくらい超とってもコワイ人に目を付けられて、社会的に抹殺されて骨も残らないってウワサよ! 下手なことは言わない方がいいって! それにこの子も被害者なんだから……。あ、ゴメンね? 気にしないでね、鈴村さん。――ほら行くよ!」
「わっ、引っ張らないでよ! 分かった、分かったってば! ゴメン鈴村さん、何でもない!」
……と、別の同じクラスの女子が割って入って止めてくれて、私に申し訳さそうに謝ると、物申そうとした彼女をどこかへ連れて行ってくれた。
あの子達……私の名字、覚えててくれてた……。嬉しいな……。私もいい加減、クラスメイトの名前覚えなくては……。
……それにしても。
どうやらこの罰ゲームは、国で超偉く皆が震え上がるほど超怖い人にやらされているという話になっているようだ。
いやいや尾ひれつけまくってない!? こんな、国を巻き込んだ壮大な罰ゲームってある!? 絶対に違うよね!?
……でも、皆は何故か信じているみたいだし、そう思ってくれていた方が私は都合がいい。女子生徒達のやっかみや嫉妬の対象になるのは、本当に勘弁願いたい。
生徒会長とは、放課後に、その……デートらしきものもするが、行き先は全て私が決めている。
「文香さんの行きたい所でいいですよ」
と言ってくれるのだが、私が行きたい所は本屋か図書館しかない。
それでも文句を言わずに、生徒会長は無言で本を読む私の正面でニコニコと笑みを浮かべ、時には一緒に本を読んでくれている。
何て優しいんだ生徒会長。自分もやりたいことがあるだろうに、忙しい身で私に付き合ってくれて。本当に申し訳ない。
早くこの罰ゲームが終わってくれることを祈る。
――そして、告白されてから二週間目の放課後。
何故か誰もいない保健室に連れて行かれた私は、生徒会長にベッドに押し倒されてしまいました。と同時に、メガネを外されてしまいます。
……あ、気持ち的にとても恥ずかしいのでここからは何となく敬語でお願いします。
「……ずっと、我慢していました。日を追う毎に、アナタのその潤んだ唇しか目に入らなくなって……。もう、俺が……限界です。当分の間、ここには誰も来ないので……。大丈夫、キスだけです。アナタとの初めては、アナタの承諾をちゃんと得てから……ね?」
そう仰った生徒会長は、目をスッと細め、形の整った口元に笑みを浮かばせます。そして、返事も聞かずに私の両手に自分の指を絡ませながら唇を塞いでこられ……あ、ちなみに私、これがファーストキスでした……はい。
……え、あの。これも承諾を得て欲しかったですけど……。
しかし、何故ここに暫く誰も来ないことを知ってるんだ? まさか……保健室の先生を買収したとか?
い、いや、さすがに生徒会長でも、そんなこと出来るわけ……ないよね?
そんな不穏なことを考えていると、最初は啄むだけのキスが、次第に触れ合う時間が長くなり、ついには舌を差し込まれ……イヤらしい音が出るほどの濃厚な口付けが私を襲います。
えっ、学生同士のキスってもっとライトなものかと思ってたけど……こ、こんなに激しいものなの……!?
恥ずかしくて目を閉じているので、生徒会長の表情がどうなっているか分かりませんが、興奮しているような息遣いは聞こえてきます……。
私は初めてなもんで、漏れ出す声を抑えるのに非常に苦労しましたよ!
少しだけ瞼を開くと、生徒会長は眉間に皺を寄せ黒翡翠の瞳を細めていて、
「何だよその顔……ヤバ過ぎ。めちゃくちゃ可愛過ぎて理性が破裂しそう……。――我慢しなくていいんですよ? その鈴を振らすような可愛い声を俺に聞かせて下さい」
なんて、最後は蕩けるような笑顔で砂糖菓子のような甘い言葉を言ってきたけど……。
“ちょっと待て、忘れちゃ困るよここ学校”(字余り)
よって断固拒否!!
生徒会長の唇が私の首筋に移動してきて、それが首中を這う度擽ったさの余り身を捩らせたけどガマンガマン……!!
長く感じたその濃密な時間がやっと終わり、
「……ふふっ。文香さん、とっても可愛かったですよ。文香さんのファーストキス、俺が貰えてすごく嬉しいです」
なんて言って、妖艶を漂わせる微笑みでもう一度キスをしてきた時。……そこでようやく、罰ゲームじゃないことを理解しました。
ここまで罰ゲームだったら非常にとんでもないことだ! 度が過ぎまくってる!
しかし何故これが私のファーストキスだと知ってるんだ生徒会長!?
……どうやら生徒会長の中では、彼が告白したあの日から、私と正式にお付き合いしていたようです。
え、待って。
私、返事していないんだけど……。
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