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32.“終わり”の終わり
しおりを挟む一人を除いて、誰も言葉と音を出さない、静かな空間の中で。
ホークレイの嗚咽だけが、部屋に響いている。
……扇は、もう光らない。
きっと、もう二度とあの“奇跡”は起きないだろう。
たった一度きりの“奇跡”――
私は何故か、心の中でそう確信していた。
「……リュシルカ。取り敢えずオズワルドさんを呼んで、このクサレ外道ども四人を牢にブチ込みますか」
「コハク……。こんな状況にもその言い方、流石だね……。うん、そうだね。そうしよう」
コハクに呼ばれ、部屋に入ってきたオズワルドさんは、ホークレイが涙を流して泣いているのにビックリし、王達の情ない姿にもビックリし、やがて貰い泣きし始めた貴族達にもビックリしていた。
ビックリ続きで固まっているオズワルドさんに事情を説明したところ、憤慨しながら王達四人の首根っこを掴んで、引き摺りながら牢まで連れて行ってくれた。
「――さて、クサレ外道どもが捕まって、この国は一体どうなるんでしょうね?」
「そこは偉い人達に任せようよ。私達に関与出来ることじゃないし。悪い方向にはいかないと思うよ。貰い泣きしてくれている貴族さん達がいるなら、きっと」
「ふふ、そうですね。――あの泣き虫おっぱい野郎はどうします?」
「ほ、ホークレイのこと? ……うん、そうだね……。暫くそっとしておこう――」
そう言いかけた私の肩とお腹に、後ろから二本の腕が回され、ギュッと強く抱きしめられた。
「えっ、ホークレイ!?」
ホークレイの顔は、私の肩に押し付けられていて、その表情を窺い知ることは出来ない。
「……ルカ。殺そうとしてゴメンな……。他にも色々と……本当にゴメン……。償いは何でもするから――」
「あ、ううん。別に気にしてないよ? 大丈夫」
「軽っっ!? ――いやいやいや、リュシルカ。殺されそうになったのに、少しは……というか、結構気にした方がいいですよ? 償いをするって言ってるんだから、しっかりさせればいいじゃないですか」
「でも、結局は殺されなかったから、それでいいかなって」
「やれやれ……。全く、相変わらず優し過ぎますって」
「……ホントにな」
「貴方が言わないで下さいよ。殺そうとした大張本人が。リュシルカが許しても、私はずっと根に持ち続けますからね」
「……葉っぱでも持ち続けてろよ」
「夜な夜な枕元に立って、朝まで恨み言を言い続けてやりましょうか」
「ふふっ」
懐かしい二人のやり取りに、私は嬉しくて笑ってしまった。
「ねぇ、ホークレイ。あなたが良かったらだけど、この国を第二の故郷にしたらどうかな? だって、イーナ村にホークレイの第二の家族がいるじゃない。あっ、もしだったらこの国の王様になっちゃう? 今なら王様いないし、跡継ぎも誰もいないし、騎士団長の立場ならなれるよきっと。そうしたら国民皆がホークレイの家族だよ!」
ホークレイは、私の言葉に思わずといった風に顔を上げ、充血した両目を真ん丸くさせて私を見ていたけれど、やがて可笑しそうにプハッと吹き出した。
「ははっ! 俺の家族、とんでもねぇ人数だな」
「リュシルカ、大きく出ましたね……。一応、貴女も王の血を引いているから跡継ぎの対象なんですが……どうされます?」
えぇっ!? そんなの絶対に嫌っ!!
「私、王様とか全く興味無いし、人の上に立つ器じゃ無いし、やり方も分からないし、謹んで辞退させて頂くよ。それならホークレイの方が適任だよ」
「可愛い女王様誕生も見てみたかったですが……、無理強いは出来ませんしね。それに、ホークレイが王でもいいかもしれませんね。貴方、国の王子だったのなら、幼い頃から『帝王学』を習っていたのでしょう? この国に『帝王学』を学んだ者はもう誰もいないですから、このまま勢いで王になってしまえば?」
「勢いでって、お前……。簡単に言うなぁ……。それによく『帝王学』なんて知ってるな? けど、血反吐吐きながら騎士団長まで上り詰めたんだし、お前の言う通り頂点の王になるのもアリかもな。父上みたいな立派な王になりたいっていうのが、子供の頃からの夢だったし」
「貴方も大概ですね……。けれど、あのクサレ外道どもがこの国を地まで落としましたから、それから這い上がるのはかなり大変ですよ?」
「ふん、上等。障害が多い方が燃えるしな。それに、俺にはリュシルカがついてるし。コイツがいれば俺は千人力なんだよ。な、ルカ?」
「え?」
突然こちらに矛先を向けられ、私は驚いてホークレイを見た。彼は口の端を持ち上げて私を見返してくる。
「な、何が……?」
「俺がもしも王になるんなら、お前は王妃になるに決まってんだろ? 何トボけた顔してんだよ」
「へっ、えぇえーーーっっ!?」
それを聞いた私の素っ頓狂な叫びが部屋を飛び出し、城中に木霊したのだった……。
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