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30.ホークレイの過去
しおりを挟む「……決定ですね。では、これから四名を斬首致します。その瞬間を見たくない方は、速やかにここから退室をお願い致します」
ホークレイは薄く笑みを浮かばせながら、腰に差してある鞘からスラリと長剣を抜いた。
退室する者は……誰もいなかった。皆、呆然としながら――或いは固唾を呑みながら事の成り行きを見守っている。
「いっ、イヤッ、そんなのイヤよぉ!! た、助けてぇ……っ!!」
「イヤだイヤだッ! 僕はまだ死にたくないぃッ!!」
「かっ、金ならやるから、考え直してくれ、な? なっ!?」
「ヒイィィィッ!!」
四人が様々な悲鳴を上げて床にへたり込み、ジリジリと後退っているが、ホークレイは微笑を崩さず彼らを追い詰める。
「まずは一番の大罪を重ねた王から参りましょうか。貴方には急所を外して何度も何度も斬り上げて突き刺して、恐怖と痛みと絶望を感じさせて首を刎ねて差しあげましょう。貴方の所為で苦しんできた人々全員に向かって、地獄で土下座し続けなさい」
「ひっ、ヒエエェェェッッ!!」
王が情けない叫び声を上げて失禁をする。
ホークレイが残酷な笑みを貼り付けたまま、無情にも剣を振りかざして――
「ダメッ!!」
私はヒラリと舞って王とホークレイの間に躍り出ると、懐から白銀の扇を素早く取り出し、一言念じてそれを大きくさせた。
そして、ホークレイの一振りを受け止める。
ガキンッ!! と、扇と剣がぶつかり合う大きな音が響いた。
――ぐぅっ! 一撃が重い……っ!!
この扇じゃなかったら、絶対に吹き飛ばされた……っ!
「…………」
ホークレイは、自分の一撃を受け止めた私を、信じられないといった顔で見下ろした。
「……ルカ? お前……、護身術を習っていたのか……?」
扇でホークレイの剣を跳ね返し、防御態勢で彼に向かって扇を構える。
「……は、はは……。何だよ、メチャクチャカッコいいじゃねぇかよ……。くそっ、惚れ直しちまったじゃねぇか……」
「……剣を今すぐに下ろしなさい、騎士団長!」
貴族達が見ている手前、私は『騎士団長』のホークレイに『王族』として命令する。
「……貴女こそ、そこをおどき下さい、リュシルカ王女殿下。怪我をされてしまいますよ? 最悪、貴女が先に天に召されることになるかもしれません。それが嫌ならその場からすぐに逃げることです」
……やっぱり聞いてくれないか……。
ホークレイは剣を優美に構えたと同時に、私を無視して王に斬り掛かった。
「させないっ!!」
私は再びヒラリと舞うと、彼の前に飛び出し扇で剣を受け止める。
金属がぶつかるような甲高い音が部屋に響いた。
「……その素早さと身のこなし……。あぁそうか、お前の母さんは昔踊り子だったな……。厄介なコハクさえこの場にいなければ、簡単にコトが為せると思ったのに……。ははっ、とんだ伏兵がいたもんだ。――なぁルカ? カッコ良くてゾクゾクくるぜ……」
「ホークレイ、お願い……。剣を下ろして……」
「いくらお前の頼みでも、それは出来ない。これ以上、俺の“為すべき”ことを邪魔しないでくれ。俺の“悲願”はもう目の前なんだよ……。だから、さ……。――どけッ!! ルカァッ!!」
ホークレイの渾身の叫びと共に、彼の剣が私の扇を弾き返した。
「くぅっ……!!」
扇が飛ばされそうになるのを何とか留め、私は再び防御の態勢でホークレイに向き合う。
「大丈夫ですか、リュシルカッ!?」
そこへ、騒ぎを聞きつけたコハクが部屋に飛び込み駆け寄ってきた。
「――コハクッ、今だけ王達をお願いっ!!」
「……やれやれ、何だかフザけた展開になってますね……。リュシルカの頼みですし、今だけですよ」
「……お前達がどれだけ邪魔をしようとも、俺はそこで無様に這い蹲っている王族どもを必ずこの手で殺す。極限まで苦しめてな……。それで俺の“悲願”は達成されるんだよ……!!」
ギッと鋭く睨みつける視線を向け、剣を下げる気配が全く無いホークレイに、私は深く息を吐く。
そして頭をスッと上げ、姿勢を正し、凛と声を張り上げて言った。
「どうか剣をお収め下さい。アグウェル王国第一王子、ホークレイ・シン・アグウェル殿下」
「…………っ!!」
私の言葉に、ホークレイはさっきよりも強く驚いた表情で、身体をビクリと強張らせた。
「……何故……、それ……を……」
「城の書庫で調べたの。十七年前、この国の王に滅ぼされてしまった国があったと。そこは希少な“オリハルコン”が採れる、国民は百人もいかず、とても小さいけれど皆が仲良く豊かな国だったと。“オリハルコン”は、国の壊滅後何故か全く採れなくなったと綴られていたわ」
「お、“オリハルコン”……? ま、まさか――」
その鉱物の名前に、王が反応する。
「……あぁ、そうだよ。テメェが“オリハルコン”欲しさに滅ぼした国の、唯一の生き残りが俺だよ。俺はその時八歳で、たった一人命からがら逃げて、イーナ村に辿り着いた。そして村長に拾われた。村長は俺を息子として育ててくれたんだ」
……そうなると、ホークレイがイーナ村に来たのは、私が五歳の時だ。
まだ小さかったから、村長のお家に突然一人子供が増えても何の疑問も持たないし、村長の息子だと信じ切っていた。
お母さんもそのことは知っていたと思うのに、何も言わなかった……。
きっと、ホークレイが気兼ねなく過ごせるように黙っていたんだ。
「……し、しかし……。あの王と王妃に全然似ていないではないか……」
王の震える言葉に、ホークレイは馬鹿にしたように鼻で嗤った。
「はっ、何だ? 父上と母上の顔を覚えていたのか? てっきりテメェのことだから、滅ぼしたことも綺麗サッパリ忘れてると思ってたぜ。俺は祖父に似たんだよ。父上と母上が年を取ってから出来た子が俺だ。だから俺は沢山二人に可愛がられた。沢山俺に愛情を注いでくれた。俺は二人がすごく、すごく大好きだった……。――それをテメェは殺したッ!! 躊躇無くッ!! 抵抗もせず、話し合いをしようとした父上達をッ!! たかが……たかが鉱物欲しさでッッ!!」
「ひっ、ヒイィッッ!」
目を血走らせたホークレイの凄まじい激昂に、王はまた情けなく悲鳴を漏らした。
「……だから俺は心に固く、固く誓ったんだ。俺の国を滅ぼした王と、王の血が入った王族を全員殺すと。それが無念にも死んでいった、父上や母上、そして国民達の餞になると信じて」
「――本当に?」
「は?」
私の問い掛けに、ホークレイは怪訝な顔をし訊き返す。
「ホークレイのお父様とお母様は、本当にあなたにそんな復讐を望んでいるの?」
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