【R18】「お前を必ず迎えに行く」と言って旅立った幼馴染が騎士団長になって王女の婚約者になっていた件

望月 或

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28.とある騎士団長の独白

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「ホークレイ~、ワタクシを情熱的に抱きしめて欲しいですわぁ」
「今は騎士の鎧を装着しておりますので。ミミアン様に冷たい思いをさせるわけには参りません」
「えぇ~? いつもいつもそればっかりぃ。もぉ~つまんないですわぁ」


 ……あぁ。五月蝿いな、この女。


「ホークレイ、今は二人きりですのよぉ? ワタクシに熱~いキスが出来る絶好の機会ですわぁ」
「申し訳ございません。婚前にそのような行為はよろしくないと私は思います」
「まあぁ! 本当にお固いですのねぇ。そういうところもお顔に似合ってステキですけどぉ、ちょっとぐらいなら良いと思いますわぁ」


 ……顔の良い奴隷の男達を買って卑猥な行為をさせているくせに、まだ足りないと言うのか、このふしだらで阿婆擦れ女は。


「あら、ホークレイ? どこへ行きますのぉ? ワタクシも一緒に行きますわぁ、ウフフッ」


 付いてくるな、離れろ。
 その腕をどかせ、虫酸が走る。


 ――あぁ……髪と瞳の色も、性格でさえも王に似たこの女を殺したくて殺したくて堪らない。
 だけど我慢だ。今はその時じゃない。
 “為すべきこと”を果たすには、『王女の婚約者』の立場が必要なんだ。


 ……チッ、いい加減腕が腐りそうだ。
 この女の温もりなんか微塵もいらない。


 あの日のアイツの温もりを……忘れさせないでくれ――




**********




 六年ぶりにアイツの顔を見た時、別れた時以上に美人になっていたアイツに思わず息が止まり、時間を忘れて見惚れてしまっていた。
 髪を整え化粧もしているからか、眩いばかりの美しさで。

 肩までだった黄金色に光る髪が、腰まで伸びて更に輝いていて。
 俺の好きな神秘的なエメラルドグリーンの瞳も、あの時のまま、輝きを失わずに煌めいていて。


 ――六年間、アイツに一度も手紙を出さなかったのは。
 アイツからの便りを見てしまったら、愛しさが溢れて止まらなくなり、絶対に会いたくなるからだ。
 会ってしまったら、もう二度と離れたくなくなってしまう。“為すべきこと”の為に、それだけは何としても避けたかった。


 案の定、アイツの姿を見た瞬間、六年前に留めていたアイツに対する愛しさが、堰を切ったようにとめどなく溢れてくるのを感じた。

 けれど、王の血がアイツに入っているという事実に、憎しみも膨らみを増していく。


 ――どうして、アイツなんだ。
 よりによって、何でアイツなんだ。
 あの王の血が、何故アイツに――


 幾度も幾度も自問しても、答えなんて見つかる筈もない――



 第一王女に女友達か浮気相手かと訊かれた時、アイツのことを初対面で通した。
 そうしないと、この女のやっかみがアイツに向かい、辞めさせられた側近や心を病んだ侍女みたいに、酷い嫌がらせを受けると思ったからだ。

 俺の言葉を聞いて、ショックを受けたような顔になったアイツに、心が突き刺されたようにズキリと痛む。

 愛しさと憎しみと切なさが心と頭で激しくせめぎ合い、思いっ切り叫び出したくて仕方なかった。



 そうしてアイツのことを常に考えていたら、昔のように触りたくてれたくて堪らなくなった。
 六年前の別れ際にアイツに掛けておいた追跡魔法を発動する。

 今は……城下町にいるのか。オズワルドのヤツが連れ出したのか?
 しかも、城下町の中心から外れた路地裏にいるじゃないか。一体どういうことだ?

 俺はすぐに路地裏に向かおうとしたが、ふと考え、鎧から騎士団の制服に着替え直す。
 もしかしたら、アイツを抱きしめる機会があるかもしれない――

 そんな淡い期待を胸に、俺は路地裏へと急いで向かった。



 アイツを取り囲んでいたゴロツキどもを峰打ちで気絶させ、危険な状況の中この場から離れたオズワルドを責めると、アイツが俺の前に立ち、この男を庇ってきた。


 ……どうしてこの男なんかを庇うんだ?
 お前は俺のことだけを考えていればいいんだ。
 俺のことだけを見ていればいいんだ。


 それに、この男の顔。顔を紅潮させて、コイツに見惚れやがって。
 コイツが自分を庇ったからって惚れちまったのか?
 コイツは男女関係無く、誰にでも優しいんだ。カンチガイするんじゃねぇ。

 お前もお前だ。俺以外の男を、片隅でも心に入れるな。


 ……あぁ……何もかも気に入らねぇ。


 沸々と苛立ちが募った俺は、ここから去ろうとするアイツを捕まえ、適当な理由を探して強く抱きしめた。
 昔と変わらない温もり、いつまでも触れていたい柔らかさ、甘く唆られる匂いに、己の気持ちが向上していくのが分かる。
 荒んでいた心が、スゥッと解かれていくのを感じた。 


 我慢出来ず服の中に手を差し込み、直接胸の大きさを確認する。
 六年分の成長も多少はあるが、俺が大きくさせた膨らみのままで、柔らかさも弾力も同じで、安心と同時に歓喜が湧き起こった。

 俺以外の奴が直接コイツの胸を触ると、別れ際に掛けた防衛魔法が発動するが、服の上からだと発動しない。
 それを心配していたが、やはりコイツは俺に一途だった。俺の言葉を信じ、ずっと待ち続けてくれた。


 コハクが止めなければ、コイツの唇に確実にキスをしていた。オズワルドの前でそれは危険な行為だったので、正直止めてくれて助かった。
 コハクのヤツがムカつくことをほざいたが、コイツは今までも、これからもずっと俺のモンだ。


 何があろうと、俺はお前を絶対に逃がしはしない。




**********




 アイツに触れる機会は、幸運にもそれから程なくして訪れた。
 毒を飲んで苦しむフリをするアイツが可愛くて可笑しくて、笑いを堪えるのに必死だった。

 解毒をするという理由を付け、コイツを騎士団長室に連れて行く。
 コハクが中に入ってこられないように、更に施錠魔法を掛けておいて正解だった。
 毒が効いてないのがバレると思ったのだろう。俺が鎧を脱いでいる間に逃げ出そうとしたので、もうそういう気が起きないようにドレスを脱がせる。
 肌の露出が多い下着姿のコイツは、とても可愛くて、綺麗で、扇動的で。
 俺の中の欲が一気に前に飛び出したのを感じた。


 第一王女との婚約のことを訊いてきたので、俺は言葉を濁した。“為すべきこと”も訊かれたが、同じくだ。
 今はまだ何も言えなかった。いくらコイツにでも言えない。
 俺が必ず“為す”と決めたことを、止められたり、邪魔をされたくなかったからだ。

 コイツに止められたら、きっと“躊躇”が生まれてしまうから。


 ……それがいけなかったのだろう。
 自分は信用されていないと思ったんだろう。


 コイツは俺を突き放してきた。
 俺と“他人”になろうとした。
 俺を“忘れよう”とした。


 ……フザけるな。
 そんなこと、させるもんか。
 お前は俺だけのモンなんだ。
 他の野郎なんかに絶対に渡すもんか。

 お前が俺を“忘れる”というのなら。



 俺の“全て”をお前に刻んで、一生……死んでも俺を忘れなくさせてやる――





 俺の『レイ』という愛称は“特別”なモノだ。この世ではたった一人、コイツにしか呼ばせていない。

 初めての行為で、俺の好きなエメラルドグリーンの瞳から、透明で綺麗な涙を流し。
 その俺の“特別”な愛称をうわ言のように何度も呼び。
 俺の背中に小さな手を回し、必死にしがみついてくるコイツが、とても可愛くて、狂おしい程愛しくて愛しくて堪らなくて。

 コイツの中が、一瞬で意識を持っていかれるくらいに最高に気持ち良くて。
 結合部に、コイツの“初めての証”である赤いものが付いていることに、高揚感が増して。


 無理矢理抱いてしまった罪悪感は勿論あったが、長年こいねがっていたコイツとついに“一つ”になれて、この六年間の中で、一番の至福の時間だった。




 ――なぁ、ルカ。
 俺は、“為すべきこと”を終えたら、お前を必ず殺すよ。
 あの王の血が入っているヤツは全員根絶やしにする。


 そう、心に固く決めたんだ。
 この“決意”は、決して揺らぎはしない。


 その前に、お前を抱いて、抱いて……抱いて。
 壊れるくらいに抱き潰して。
 お前をうんとめちゃくちゃに気持ち良くさせて。
 俺のことだけしか考えられなくさせて。

 死ぬ最期の瞬間まで、俺のことを想い続けてろよ。
 死んでからも勿論だ。



 ……そんで、さ。
 俺も、すぐにお前の後を追うよ。


 お前のいない世界なんて、生きていてもつまんねぇし。
 お前に二度と会えない世界なんて、こっちから願い下げだ。



 迎えには行けなかったけど、あの世では一緒に……なんて、決して……絶対に叶わないことを願っても……さ。


 夢見るくらいは許されるだろう?



 ――なぁ、ルカ?



 俺は、お前のことを誰よりも愛しているよ。


 心から、お前のことを。




 これからも。

 死んでも。


 ずっと、さ――



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