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26.一難去ってまた一難
しおりを挟む「きゃ……っ!」
ドレスの胸元が豪快に破け、その勢いでシュミーズも少し破けてしまい、私の両胸が露わになる。
デイビット王子はそれを見て、いやらしそうに笑いながら喉をゴクリと鳴らした。
「うわ、ホントに見事だな……。形もいいし……。田舎娘にしてはかなり上質じゃないか? これは触り心地も抜群なんだろうな……」
「や、やだ、止めて……。触らないで……」
「ははっ、その怯える表情もいいなぁ。ゾクゾクくるね」
王子がニタニタと笑みを浮かべて、両手を突き出して私の胸を強く掴んだ。
「ギャアアァァァッッ!!」
瞬間、王子が壮絶な絶叫を上げ、床に落ち激しく転げ回る。
「え……?」
私はその奇行に驚きながら王子を見ると、何と両手が黒く焼け焦げていて、そこからプスプスと煙が立ち上がっていた。
「……え、え……? な、なに……?」
「――騒がしいですね。一体何があったのですか?」
不意に扉の方から声が聞こえ、そこには腰に片手を当てた鎧姿のホークレイが立っていた。
……え? どうしてホークレイが?
確か扉に鍵が掛かっていた筈だよね?
それに王子の悲鳴が聞こえたとしても、来るのが早過ぎる……。
まるでさっきからそこにいたかのような――
「おや? 王子殿下、両手に酷い火傷を負っていますね。早く医務室に行かれた方がいいですよ」
「ああぁぁッ!! 熱い熱い痛い痛いぃッッ!! お、お前ぇッ! 僕に何をしたぁッ!?」
王子に血走った目でギロリと睨みつけられ、私は何とか首を左右に振る。
「え……。わ、わたしは……わたしは何も――」
「彼女に掛けられた防衛魔法が発動したのですね。魔法が掛けられた身体の一部に直接触れると、その触れた箇所が瞬時に燃え、大火傷を負うという」
「は、はあぁっ!? だっ、誰がそんな高度な魔法をコイツに……!?」
王子の驚愕な表情にホークレイは目を細め、美麗な顔に微笑を浮かばせ答えた。
「……さぁ、一体誰でしょうね? ――それよりも王子殿下、一刻も早くその手を治療された方がいいですよ。両手が使い物にならなくなる前に」
「……クソッ!!」
「あぁ、火傷の理由はよくお考えになってから説明された方がよろしいかと。『妹を襲おうとして大火傷を負った』、なんて馬鹿正直にお話なさらぬよう。貴方様の尊厳の為にも……ね」
「ぐぅっ……!!」
王子は唇を強く噛み締めると、部屋から飛び出して行った。
「……さて……」
シンと静かになった部屋の中で、ホークレイは私の方を見ると、無表情でゆっくりと近付いてきた。
「……あーぁ。まんまとやられちまったなぁ、ルカ?」
「…………」
「昨日の今日だし、警戒して王子の部屋に入ったんだろ? けど、不意打ちに魔法石を投げられちゃどうしようもねぇよなぁ。お前、魔法石なんて存在知らなかっただろうし。知ってたとしても、対魔物用を人間相手に使うなんて思ってもみなかっただろうしな。ちなみにその麻痺は軽度のモンだし、暫くすれば自然と解けるから安心していいぜ」
「…………」
逃げ出したいのに、まだ身体が痺れて動けない。
「あーぁ、こんな格好にされちまってさぁ……」
「っ!?」
そんな私を、ホークレイは軽々と抱き上げてきた。
「やっ、は、離し……っ」
「このままその格好でここにいたら、王子の侍女が来てあらぬ噂が立てられるけどいいのか?」
「……っ」
「なぁ? こういう場合、何て言うんだっけ、ルーカ?」
「……あ、ありがとう……」
「ふはっ、すーなお」
ホークレイは表情を崩して吹き出すと、私を抱きかかえたまま歩き出した。
「ほ、ホークレイ。あの、わたしの部屋に……。き、着替えなきゃ……」
麻痺の所為なのか、さっきから上手く口が回らない。
ホークレイは私の言葉に反応せず、人目を気にするように足早に廊下を歩く。
着いた先は、騎士団長室だった。彼は素早く部屋に入ると、鍵を閉めて何かを小さく呟いた。
……施錠魔法!? またっ!? 何で!?
そのままホークレイは奥の部屋に行き、私をベッドに降ろす。
そして、目の前で乱暴に鎧を脱ぎ出した。
だから何で脱ぐの!? 脱ぐ必要なんて無いじゃない!
鎧を脱ぎ終わり、長袖のシャツとスラックス姿になったホークレイは、私のもとへ来ると、破かれたドレスを脱がし始めた。
「っ!? ホークレイッ!?」
「そんなに破かれてんならもう使いもんにならねぇし、あの王子の汚ぇ手垢塗れのヤツなんていらねぇよ」
嫌悪を顔に表し、そう言いながら私のドレスを脱がしたホークレイは、それを横にあった暖炉の中にバサリと放り投げ、火を点けた。
ボッと音がし、ドレスが鮮やかな赤い火に呑まれて焼かれていく。
「…………」
私はそれを呆然として眺めるしかなかった……。
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