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23.不審な呼び出し
しおりを挟む私は朝から、王城の一番大きな書庫に来ていた。
あの時言った、ホークレイの言葉がずっと気になっていたからだ。
『あの王の血が入っているお前が、憎くて憎くて堪んねぇんだよ……ッ!!』
彼は“本気”で、心から憎悪しながらそう言った。
それは即ち、あの王――この国の王をすごく憎んでいる、ということだ。
王が彼に酷く憎むような何かをした……? それとも、彼の大切な家族――村長や村長の奥さん、彼の弟に酷いことを……?
そこまで憎むのなら、結構大きな出来事だった筈……。
そんな事件があったのなら、その当時の記事が作られている筈だ。
彼が何も言ってくれないのなら、こちらが調べるしかない。それが無駄骨折りになったとしても、何もしなくてずっとモヤモヤしているよりは全然いい。
彼が、王の血を引いている私を――王を憎む原因を、少しでも知りたかった。
何も知らないで殺されるなんて、そんなのは絶対に嫌だ。
理由が分かれば、もしかしたら彼の行動を止められるかもしれない――
ホークレイは、今日一日魔物退治の為に外出しているみたいだから、今が調べられる絶好の機会だ。
私は片っ端から、二十五年前からの記事を読み漁り――そして夜が深くなる頃、とある記事を見つけたのだった。
**********
「すっかり夜遅くなっちゃいましたね……。オズワルドさん、最後まで付き合って下さってありがとうございます。こんなに遅くまですみませんでした……」
「いえいえ、全くお気になさらずに。リュシルカ様の護衛がボクの仕事なんですから」
コハクと並んで歩きながら、私はすぐ後ろにいるオズワルドさんにお礼を言うと、彼はニコリと笑ってくれた。
「――失礼致します。副団長殿、騎士団長殿が至急お呼びですので、訓練場までお越し下さい」
すると、前から侍女が音も無くやってきて、オズワルドさんに一礼しながらそう言うと、再びサッといなくなってしまった。
「ええぇっ!? この時間に訓練場ぁっ!? まさか団長の地獄の鍛練が待ってるのぉっ!?」
「御愁傷様です。骨は拾っておきますので御安心を」
「その返し止めてぇっ!? ……うぅっ、行って参りますが、お二人で大丈夫ですか……?」
「私の部屋まで後少しですし、大丈夫ですよ。オズワルドさん、本当にお疲れ様です……」
「リュシルカは私が必ず護りますから。『遅い!』と怒られる前に行って下さい」
「は、はいぃ……」
オズワルドさんはメソメソと嘆きながら、訓練場への道をトボトボと歩いて行った。
「……コハク」
「えぇ。あの侍女、デイビット王子の侍女ですね。オズワルドさんは気が付かなかったようですが。王子の侍女が、騎士団長に言伝を頼まれるなんて、然々有り得ないです」
「うん。きっと何かあるね……。気をつけて行こう」
「はい。――ん? リュシルカ、こちらへ。早く!」
「え? コハク?」
コハクは私の手を取ると、廊下の死角に屈み込み、身を潜めた。
(見て下さい、アマンダ王妃です。腕を組んで寄り添って歩いている男は……見たこと無いですね。ただ、美形の男というのは分かります)
(あっ、王妃のお部屋に一緒に入って行った……)
(これからよろしくやるんですかね。あの王といい王妃といい、本当に碌でも無い奴らばかりですね。王女も、若い男を買って部屋に連れ込んでいるという噂もありますし……。こうなると王子も怪しいものです。全員下半身ユルユルですか。全く汚らわしい)
(こ、コハク、言い方言い方……!)
王妃が部屋に入ったのを見届けると、私達は死角から出て、自分の部屋へと向かった。
そして私達は、扉の前でピタリと立ち止まる。
「……コハク」
「大丈夫です、私はいつでも。――入りましょう」
「うん」
私は扉をゆっくりと開け、中に入ると扉を閉める。
「――第二王女。貴様の命を戴きにきた」
そこには案の定、窓から差し込まれる月の光に照らされて、四人の刺客がそれぞれ武器を構え立っていた――
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