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22.ホークレイの嫉妬

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「おっ、オズワルドさんっ!? ものすごい顔ですよ!? 大丈夫ですかっ!?」
「リュシルカ様、コハクさん、御機嫌よう……。いやぁ、昨晩から一睡もしてなくてフラフラですよ、あっはっは」

 オズワルドさんは頭を掻き笑っているけれど、本当に言葉通りフラフラとしていて……。

「わ、笑い事じゃないですよ!? 私のベッドを貸しますから仮眠して下さい! 今すぐにっ!!」
「いやいや、そんな恐れ多い――」
「ほら早く!! コハク、手伝ってっ!」
「……こういう時のリュシルカは、何を言っても聞かないですからね。オズワルドさん、観念して今すぐ寝て下さい」
「か、観念って――」


 私はオズワルドさんの背中をグイグイと押すと、コハクに手伝って貰って無理矢理ベッドに寝かせ、布団をバサッと肩まで掛ける。


「こ、これは……。すごく良い匂いにフカフカの布団……気持ち……いい……。あぁ、駄目……だ……。抗え……な――」


 オズワルドさんはニヘラと笑みを浮かべると、そのまま意識を失うように眠ってしまった。


「余程眠たかったんだね、可哀想に……。心ゆくまで寝かせてあげよう」
「ここで運悪く騎士団長がこの部屋に来てしまったら、どんだけこの人貧乏くじ引きまくってるんだって感じになりますね」
「そんなまさか! 彼は用が無いのにここに来るわけがないよ。常にミミアン王女の隣にいるのに――」


 その時、トントン、と扉からノックの音が聞こえ、私とコハクは顔を見合わせながらも「はい」と返事をした。


 ……入って来たのは、騎士団の制服姿をしたホークレイだった。

「…………」

 彼の顔を見た時、昨日の情事が瞬時に思い出され、私の顔全体がボッと熱くなる。
 ホークレイはそんな私を一瞥し、微かに笑ったような気がした。

 そして、ベッドの上で布団に包まれながら気持ち良さそうに寝ているオズワルドさんに気が付いてしまい、露骨に顔を顰める。


「……こっ、これは……その! オズワルドさん、昨日から一睡もしていなくて、目の下の隈がすごくて、とても辛そうで……。だからここで仮眠させているんです! 毒物混入事件の早期解決も、オズワルドさんが色々と駆け回ってくれたお蔭もあると思うので、暫く寝かせてあげて下さい。お願いします……!」


 私が慌てて説明し、ホークレイに頭を下げると、頭上からフッと笑った気配がした。

「リュシルカ王女殿下は相変わらずお優しいですね……。いいでしょう、彼の功績を認めて今回だけはお咎め無しにします」

 ホークレイの返答を聞き、私はホッと胸を撫で下ろす。

「けれど王女殿下。赤の他人の男を、不用心に御自分のベッドに寝かせてはいけませんよ? どんな噂が立てられるか分からないですからね?」
「あ……っ! ご、ごめんなさい、気を付けます……」
「……貴女はその辺りのことを少し教育しなければいけませんね……。コハク殿、王女殿下のお時間を三十分程頂きます。貴女はその時間、この部屋から離れていて下さいますか?」
「は? どうして――」
「何も変なことは致しませんよ。その証拠に、オズワルドがすぐそこで寝ているでしょう? そんな状況で、王女殿下に不敬なことなど出来ませんよ。彼女に常識を少し説くだけです」

 コハクは不服そうだったけれど、オズワルドさんがいるから大丈夫だと判断したのか、部屋の扉を開けた。

「三十分経ったら戻りますから」

 そう言うと、部屋の扉を閉めて出て行った。
 ……私は、何故か嫌な予感が止まらなかった。


「さて……」


 ホークレイはふぅと長く息をつき、彼から離れようとジリジリと後退っていた私の手首をいきなり掴んで自分の方へ引っ張ると、強く抱きしめてきた。
 そして後頭部を手で抑えられ、問答無用とばかりに唇が塞がれる。すぐに滑った舌が入ってきて、濃密な口付けが始まってしまった。


 えっ!? 何で!? オズワルドさんがすぐ傍にいるのに……!!


 私は驚き、ホークレイの胸を両手で押して離れようとしても、彼の腕にガッシリと抑えられ身動きが取れない。
 お互いの舌が絡み合う音を響かせ、私の息が上がる頃、一本の唾液の糸を垂らしながら、ようやく唇が離れた。
 私は力を失い、クタリとホークレイの胸に身体を預ける。そんな私に彼はくつくつと笑い、更にきつく抱きしめてきた。


「……ん……。ど、どうして……こんな――」
「オズワルドは寝たら滅多なことじゃ起きないんだよ。色々試して確認済みだ。――それに俺さ、すっげー嫉妬深いの、知ってた?」
「え……?」
「村でも、お前を好意的に見てくる野郎どもに牽制を掛けて諦めさせていたのに、当のお前は俺以外の男を自分のベッドに寝かせてさ……。俺がそれを見て何とも思わないと思った?」
「……あ……」
「それにお前さぁ、日に日にオズワルドと仲良くなってねぇ? そんなんさぁ……許さねぇよ。だから嫌だったんだよ、コイツがお前の専属騎士になるなんて……。お前は俺だけのモンだって、も少しキツく分からせた方がいいみたいだな? ちなみに俺も全く寝てねぇんだ。だから癒やしをくれよ……ルカ?」
「あ……待――んんっ」


 ……そうして私は、オズワルドさんがスヤスヤと熟睡している中、ホークレイに唇を激しく奪われ続け、胸も休み無く揉まれ続け……。
 オズワルドさんがいつ起きるかという緊張感と、押し寄せる快楽と、ホークレイの嫉妬の重さに心が悲鳴を上げ、泣きそうな目に遭ったのだった……。


「……今後、こういうことを決してなさらぬよう。私は貴女を見ておりますから」


 外からノックの音が聞こえ、私は息も絶え絶えの状態で解放される。
 美麗に微笑みながら恐怖の捨て台詞を残し、コハクと入れ替えにホークレイは去っていった。


「……あの過剰おっぱいフェチ野郎、リュシルカに会う度上機嫌で帰っていきますね。今頃廊下でフンフン音符マーク飛ばしながら鼻唄でも歌ってるんじゃないですか?」
「え……あ、あれが上機嫌……? そ、そう……?」
「……リュシルカ? 疲れているようですが大丈夫ですか? オズワルドさんが側で寝ている中、まさかおっぱいが襲われることはなかったと思いますが……。奴のお説教が堪えました? 後ろからクナイで思いっ切りブン殴ってきましょうか?」
「だっ、大丈夫、大丈夫だよっ」
「そうですか? 御要望とあればいつでも承りますからね。……それで結局、奴は何の用事でここに来たんですか?」
「……あ、そう言えば……。何の用事だったんだろう……?」
「は? 言っていかなかったと? ホントに何しに来たんですかアイツは?」
「さ、さぁ……?」



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