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21.事件解決

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「こ、コハクッ!?」
「無事ですか、リュシルカッ! ――騎士団長殿……貴方、入口の扉に強力な施錠魔法を掛けて、彼女に何をするつもりだったのですか。解くのにかなり時間を要しましたよ?」


 コハクがキッと鋭くホークレイを睨みつけ、言葉を投げる。


 強力な施錠魔法っ!? だから鍵を開けても全然開かなかったのね……。ホークレイ、魔法使えたんだ……。
 というか、それを解けるコハクもすごいね!?


「何を……って、解毒ですが? 集中して行いたかったので、誰も入らせないようにしただけですが」

 ホークレイはそんなコハクの睨みなど意に介さず、肩を竦めて答える。

「ただの解毒なのに、何故貴方は鎧を脱いでいるのですか? リュシルカは下着姿になっていますし」
「繊密な解毒法をするのに動き難い鎧は邪魔でした。彼女がこの格好なのは、着衣を緩める必要があったのです。それ以外は、私は彼女に何もしていませんよ? そうですよね、王女殿下?」
「……はい……」


 ホークレイの問い掛けに、私は頷くことしか出来なかった。
 彼は満足そうに頷き返すと、鎧を装着し始めた。


「けれど、解毒法は必要なかったようですね。――いえ、最初から必要なかった、と言えば正しいでしょうか?」
「……っ」
「ふふ、貴女達の魂胆はお見通しですよ。私はこのことに関して何も言いませんから、貴女も余計なことを言わない方が今後の為ですよ?」
「……それは脅しですか……?」
「さぁ、どうでしょう? 私は行きますから、王女殿下のドレスを着させて、貴女達もここから早々に退室されて下さい。毒物混入事件が解決するまでは、御自分のお部屋で待機することになると思いますが、何卒御理解頂けたらと思います。――では、失礼致します」


 鎧を装着し終えたホークレイは、微笑して優雅に一礼すると、部屋から出て行った。


「……チッ、何なんですかアイツは。気持ち悪いくらいに上機嫌でしたね。盛大に声高らかに鼻唄でも歌い出すかと思いましたよ。――リュシルカ、本当に奴に何もされていないですか?」
「う、うん。大丈夫。ありがとう、コハク。来てくれて……」

 私の返答に、コハクは訝しげな目を向けた。

「……本当に? 目の前に、奴に対して最高級霜降り肉の如く極上のおっぱいがあるのに、法外おっぱいフェチのあの野郎がそれを触らなかったと? 少しでも?」
「ご、極上のおっぱいって……」

 ……勘の良いコハクには、全て嘘をつくことは出来ないよね……。

「……実は……やっぱり触られた」
「やはり!! あの年中お盛んおっぱいフェチ野郎めがっ! すぐに両腕を斬り落とせば良かったですね、失敗しました」
「だっ、大丈夫。その……少しだけだったから。コハク、お願いだけどドレスを着させてくれる? ずっとここにいたら変に思われるだろうし、早く部屋に戻ろう?」
「そうですね、了解しました。今夜は色々とお疲れでしょうから、もう休みましょう。毒についての話は明日しましょうか。その間に調査も進展していると思いますし」
「うん、分かった」


 そして私はドレスを着ると、コハクと一緒に急いで自分の部屋に戻った。
 シャワーを浴びる為、コハクにドレスを脱ぐのを手伝って貰い、一人浴室に入る。


「…………」


 ホークレイの“熱”が、私のお腹の中に確かにあるのを感じる。
 お腹を押さえると、私はその場に蹲り、大きな息を吐いた。


 ……“刻まれて”、しまった……。

 無理矢理されて、最初は本当に怖かったけれど。
 優しい声音で怯える私に何度も声を掛けてきて。
 不安がる私をギュッと抱きしめてくれて。
 苦しげな表情をしながらも、ゆっくりと少しずつ挿入れてくれて。
 初めての私を労ってくれた……。


 ……私を抱きしめる、その力強い腕。
 あの頃と変わらない、彼の温もり……。
 欲情の熱を込め、あの頃のように私を深く見つめてくる紫色の眼差し。
 彼が触れる部分全てが熱を帯びたように熱くなって。

 そして、注がれた……彼の沢山の“熱”――
 

 ……あぁ……。
 あんなに強く決意したのに……。

 ――もう、ホークレイを忘れることなんて出来ないよ……。


 けれど、彼は私を『殺す』、って――
 あの憎しみの目は、“本気”で私を憎む光を帯びていた……。 
 『殺す』という言葉も、恐らく“本気”なんだろう。


 でも、彼は私に異常な執着を見せていて――



 ……彼は一体、何を考えてるの……?



「…………」

 ……ダメだ。
 色々あり過ぎて、今日は何も考えられない……。もう寝よう……。


 素早く頭と身体を洗った私は、浴室から上がると真っ直ぐにベッドに向かい、早々に就寝したのだった――




**********




「毒をスープに入れた犯人は、リュシルカのお世話をしていた侍女の一人であると特定されたそうです。平民がいきなり王族に成り上がっていい思いをしているのが悔しくて、腹いせに入れたとのことです。彼女は牢に入れられました。一応この毒物混入事件はそれで解決したということですね」
「そうなの……」
「その毒は即効性があり、飲むとすぐに腹痛や頭痛が起こり、下痢や嘔吐が止まらなくなるそうです。少量だと危険性は少ないのですが、大量に摂取すると命の危険性がある毒です。スープには少量が入っていたらしいので、リュシルカの恥を晒す為に入れたのでしょう」
「……コハク、周りの皆の様子はどうだった?」
「犯人は毒の効果を知っている者です。リュシルカが倒れた時、皆が吃驚仰天の中、毒の効果が違うと怪訝な表情をした者が一人だけいました」


 コハクの話を聞きながら、私は息をついてゆっくりと頷いた。


「ミミアン王女――ね?」
「そう、仰る通りです。可哀想に、侍女は替え玉にされてしまったのでしょう。全く外道極まりないですね」
「うん……彼女は何も悪くないのに……。彼女が何もしていないという証拠が無い限り、牢から出るのは難しいよね……。王女から食べ物の差し入れがあったら、絶対に食べないようにしなきゃ……」
「そうしましょう。それに今回、このような事件が発生したので、暫くは王族の夕食会は無しになるでしょう。その点では良かったですね」
「うん……」


 昨日の毒物混入事件は、その翌日の夕方に解決した。犯人がすぐに特定出来たのが大きかったようだ。
 きっと、ミミアン王女が裏で手を回したのだ。
 自分に疑いが掛からない内に早く解決させたかったのだろう。


「一晩中解決の為に走り回ったオズワルドさんは、本当にお疲れ様だね……」
「逆にどこまで貧乏くじを引き続けるのか興味が湧いてきますね」
「もう、コハクったら……」


 そんなことを話していると、噂の本人であるオズワルドさんが、部屋をノックして入ってきた。

 目の下に大きな隈を作った、見るからにゲッソリとした顔で……。



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