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13.ようやく、前へ

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「あの浮気クズ野郎、六年経ってもおっぱいフェチは健在でしたか。第一王女のおっぱいに飽き足らず、リュシルカのおっぱいにまで手に掛けるとは……。しかも服の上からじゃなくて、おっぱい直触り! それも悪びれもせず堂々と! どんだけおっぱいに飢えて触れば気が済むんですかね、あのおっぱいフェチ大魔人は。これ以上のおっぱい被害が出ないように、奴の両腕をスッパリ斬り落とした方が良さそうですね。この世の全てのおっぱいを守る為に」
「こ、コハク……。お、おっぱい連呼しないで……。恥ずかしいよ……。でもホントビックリしたよ……。き、キスされるんじゃないかと――」
「いえ、あれは私が止めなければ確実にしていましたね。リュシルカに会って未練が出てきて二股しようとしたんでしょうか。いっぺん死んで地獄を味わってこいゴミクズがッ!! ですね」
「あ、あはは……」


 私は、ホークレイが口の動きだけで言った言葉を、コハクには伝えられずにいた。
 もしかしたら私が見間違えたのかもしれない。婚約者がいるのに、あんな台詞が出るはずがないもの。

 うん、そうだきっと……。絶対に……そうだよ……。 


「……今夜も疲労の理由で、王族で食べる夕食を断っちゃったけど、そろそろ出席しなきゃだよね……」
「そうそう、それなんですが、『三日後の夕食会は必ず出席するように』と、国王から言伝があったみたいですよ。現在、タイミング悪く第一王子と第一王女が水面下で王位継承争いをしている状況です。この国の王位は、男女兄妹関係なく、王の子の中で最も優れた者が取るしきたりなので、意図せずそれに加わってしまったリュシルカに、恐らくはでしょうね」
「はぁ、だよね……。ってなると、やらなきゃなのね……。恥ずかしいけど、やるしかないのね……」

 私はフカフカのベッドに頭から突っ伏すと、大きく溜め息をつく。

「ふふ、頑張って下さいね。私もちゃんと仕事しますから」
「うん、私の羞恥が最高潮になる前にお願いね……。――あっ、そうか!」

 私はある考えが閃き、ガバリと勢い良く上半身を起こした。

「ん、どうしましたリュシルカ?」
「ミミアン王女様が女王になれば、彼女の夫になるホークレイはとても偉くなるよね? ホークレイが言った、“為すべきこと”ってそれだったのかな? 大きく出世してこの国で偉くなりたい、って。だから王位継承争いに突然加わってきた私を憎んでいる……。こう考えると色々と納得がいくよ」
「村長の座は俺には低過ぎる! もっと高みを目指すぜ俺は! 国王に俺はなる!! って感じですか。男って生き物は、どうしてこうも出世欲が高いんですかねぇ。けどそうなると、『迎えに行く』って言葉は何だったんだってなりますね。最初から迎えに行く気ゼロじゃないですか」

 露骨に顔を顰めるコハクに、私は私なりの考えを伝えた。

「ホークレイが村を出て行くって言った時、私沢山泣いてたから、慰める為に咄嗟に出たんだと思うよ。ホークレイは優しいから、その時は私のこと突き放せなかったんだね。それに六年も経てば、いい加減嘘だったと気付くか、諦めるか……そのどちらかだよね? ずっと気付けなかった私がバカだったんだよ」
「いえ、そんなことは――」
「ホークレイと再会した時、彼、私と初対面だって言ったよね? きっと、『俺はお前のこと忘れるから、お前も俺のことを忘れろ』っていう、彼なりの優しさだったんだと思うよ。――うん、そう考えたら何だかすごくスッキリしたよ。前に進めそうな気がする」

 口から考えを直接出すことによって、色々と気持ちが整理出来た私の心は、いつの間にかとても晴れやかになっていた。

「個人的には幾つか疑問点はありますが、リュシルカがそれで納得出来たのならいいです。奴のことはさっぱりスッキリ水に流して、海の藻屑と化してしまいましょう」
「ふふっ。うん、そうだね……。けど、私は王位なんて全く興味が無いのにな……。それで憎まれても困るよね……。早く村に帰って、お母さんとまた一緒に暮らしたいよ」
「仰る通りです。落ちてくる火の粉を振り払って、王がリュシルカのことを飽きたらさっさと村へ帰りましょう。こんな場所に長居は無用です」
「うん、それまで頑張ろうね。――じゃ、コハク、おやすみなさい」
「おやすみなさい、リュシルカ」


 三日後の夕食会のことを思うと憂鬱になるけれど、ホークレイのことが本当に吹っ切れそうな私は、清々しい気持ちで布団に入った。



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