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5.二人の別れ、そして――
しおりを挟む「…………え?」
ホークレイの言葉の意味が一瞬分からず、私は聞き返していた。
「“やるべきこと”があるんだ。絶対に、“為すべきこと”が……。本当はもっと早くこの村を出る予定だったんだが、お前との時間が楽しくて、幸せで……。ずっと引き延ばしにしてた。でも、このままじゃダメだって……いい加減、覚悟を決めた。この村を出て、城下町に行くよ。……ゴメンな、ルカ」
最後に謝るホークレイに、私はカタカタと震える唇で、また問い返していた。
「……村長さんは、いいって……? 跡を継がないの……?」
「……最初は反対されたけど、最終的に許してくれた。父さんの跡継ぎは弟がいる。アイツは俺なんかと違って、立派な村長になるだろう。だからこの村は大丈夫さ」
「……もう……もう、会えないの……?」
私は自分が言った言葉に、堪らず涙をボロボロと零していた。
ホークレイはそんな私の顔を見ると、苦しそうに顔を顰め、荒々しく唇を塞いできた。
何度も何度も唇を重ね合う。けれど、私の涙は止まってはくれなかった。
「……全てが終わったら、お前を迎えに行くよ、ルカ。きっと、“為すべきこと”には長い時間が掛かるだろう。けれど、それが終わったら必ず迎えに行くから。だから……待っていてくれ、俺を」
長い口付けの後、ホークレイは強い口調でそう言った。
「その時に、今まで言いたくても言えなかった言葉をお前に言うよ。お前と俺の気持ちは同じ方を向いていると思ってるからさ……。きっと俺の言葉に頷いてくれると信じてる」
「……レイ……」
「それまで、他の男の誘惑にはぜってーに乗るなよ。約束な?」
「……うん……。うん……!」
泣きじゃくる私に、ホークレイは小さく苦笑し額と頬に優しくキスをすると、ゆっくりと立ち上がる。そして、木の根元に隠すように置いてあった旅用の荷物袋を肩に掛けた。
「じゃ、行ってくる。それまで元気でな、ルカ。病気や怪我すんじゃねぇぞ」
「……うん、レイも……」
「おぅ。――っと、忘れてた。コハクにもよろしく伝えておいてくれ」
「……コハク、忘れないで……」
「ははっ、悪ぃ悪ぃ。――次に会った時は、さっき以上のオトナなヤツを最後までするからな? お前、まだ成人じゃないからずっと我慢してたんだ。だから覚悟しとけよ、ルカ」
「……っ!」
ボボッと真っ赤に染まった私の顔に、ホークレイはニヤリと笑って手をヒラリと振ると、踵を返し歩き始めた。
私は彼の背中が見えなくなるまで、流れ出る涙も拭かず、その後ろ姿をいつまでも見送っていた。
――そして、その後彼からは何の音沙汰もなく――
彼が村を出てから、“六年”の歳月が流れた――
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