【R18】「お前を必ず迎えに行く」と言って旅立った幼馴染が騎士団長になって王女の婚約者になっていた件

望月 或

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5.二人の別れ、そして――

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「…………え?」


 ホークレイの言葉の意味が一瞬分からず、私は聞き返していた。

「“やるべきこと”があるんだ。絶対に、“為すべきこと”が……。本当はもっと早くこの村を出る予定だったんだが、お前との時間が楽しくて、幸せで……。ずっと引き延ばしにしてた。でも、このままじゃダメだって……いい加減、覚悟を決めた。この村を出て、城下町に行くよ。……ゴメンな、ルカ」

 最後に謝るホークレイに、私はカタカタと震える唇で、また問い返していた。

「……村長さんは、いいって……? 跡を継がないの……?」
「……最初は反対されたけど、最終的に許してくれた。父さんの跡継ぎは弟がいる。アイツは俺なんかと違って、立派な村長になるだろう。だからこの村は大丈夫さ」
「……もう……もう、会えないの……?」

 私は自分が言った言葉に、堪らず涙をボロボロと零していた。
 ホークレイはそんな私の顔を見ると、苦しそうに顔を顰め、荒々しく唇を塞いできた。
 何度も何度も唇を重ね合う。けれど、私の涙は止まってはくれなかった。


「……全てが終わったら、お前を迎えに行くよ、ルカ。きっと、“為すべきこと”には長い時間が掛かるだろう。けれど、それが終わったら必ず迎えに行くから。だから……待っていてくれ、俺を」


 長い口付けの後、ホークレイは強い口調でそう言った。


「その時に、今まで言いたくても言えなかった言葉をお前に言うよ。お前と俺の気持ちは同じ方を向いていると思ってるからさ……。きっと俺の言葉に頷いてくれると信じてる」
「……レイ……」
「それまで、他の男の誘惑にはぜってーに乗るなよ。約束な?」
「……うん……。うん……!」


 泣きじゃくる私に、ホークレイは小さく苦笑し額と頬に優しくキスをすると、ゆっくりと立ち上がる。そして、木の根元に隠すように置いてあった旅用の荷物袋を肩に掛けた。


「じゃ、行ってくる。それまで元気でな、ルカ。病気や怪我すんじゃねぇぞ」
「……うん、レイも……」
「おぅ。――っと、忘れてた。コハクにもよろしく伝えておいてくれ」
「……コハク、忘れないで……」
「ははっ、悪ぃ悪ぃ。――次に会った時は、さっき以上のオトナなヤツを最後までするからな? お前、まだ成人じゃないからずっと我慢してたんだ。だから覚悟しとけよ、ルカ」
「……っ!」


 ボボッと真っ赤に染まった私の顔に、ホークレイはニヤリと笑って手をヒラリと振ると、踵を返し歩き始めた。


 私は彼の背中が見えなくなるまで、流れ出る涙も拭かず、その後ろ姿をいつまでも見送っていた。




 ――そして、その後彼からは何の音沙汰もなく――



 彼が村を出てから、“六年”の歳月が流れた――



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