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3.姉妹の夜の習慣

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「ウソみたいだろ。付き合っていないんだぜ、それで……。チューもしてるのに、野外で堂々と乳繰り合っているのに。お互いに告白していないってだけで……。付き合っていないんだぜ。な、ウソみたいだろ? ――って、感じですかね?」
「だ、誰の真似よそれは……。そ、それに、ち……ちちくりって……!! い、言い方……っ!」


 私は顔を熱くしながら、コハクをジト目で睨む。
 今は夜だ。就寝の前にベッドの上で寝転びながら、コハクと他愛のないお喋りをするのが日課となっている。
 小さい頃から彼女と私の部屋は一緒なので、自然とそうなったんだ。


「少し前から来て様子を見てましたが、奴め、ずーーっとリュシルカのおっぱいを吸って触ってましたね。もうしつこいくらいに。ヤツはおっぱいフェチに違いない。おっぱいフェチ野郎に決定です」
「えぇっ!? みっ、見てたのっ!? それに、お、おっぱいって……!! 言い方言い方っ!! ――ていうかフェチって何っ!?」
「おっぱいがとっても大好きってことですよ。――やってることが恋人のソレなんですし、もう付き合ってるでいいのでは?」
「えぇっ!? け、けど、ホークレイに一度も『好き』って言われてないよ? 確かに、私なんかを好きになる要素なんて欠片も無いし……。私から『好き』って言うのも恥ずかしくてすっごく勇気いるし……。それにもし私から告白して、『俺そんな気無い』って言われたら、暫く立ち上がれない……」
「……あんなコトしておいて、それは絶対に無いと思いますが……。全く、リュシルカの自己評価が低いのは困り者です。この国の第一王女みたいに、もっとワガママになってもいいんですよ?」
「う……。そ、そこまではちょっと……」


 私達の住むドヨナズク王国の第一王女であるミミアン様は、私達と同じくらいの年齢で、とてもワガママなことで全国民の間では有名だ。
 欲しい物は王様に泣いてでも頼んで買って貰い、王女様のお部屋は宝石やドレス等々、様々な物で溢れ返っていると噂だ。

 気に入らない侍女は容赦無く怒って解雇し、王女様の周りには格好良い男の人を侍らせているという噂もある。
 王様は一人娘である王女様に弱く、何でも言うことを聞いているらしい。


「第一王子も王女と同じく碌でも無い噂しか聞かないし、この国の行く末は不安しか無いですね。何かあったら、すぐにでも比較的治安の良い隣国に逃亡しましょう」
「あっ、じゃあ、お母さんが言ってた国もいいんじゃない? とても小さな国だけど、皆仲良くて、王様も王妃様も優しく居心地良くて、お母さんが『旅の踊り子』の頃、よくその国に寄ってたって」
「いいですね、そこは第一候補に入れましょう。どこに行くにしても、お母様とリュシルカは、私が必ず守りますから」
「ふふっ、コハクはすごく強いから、とても心強いよ。変わった武器を難なく使いこなせてるもんね。何だっけ? その武器の名前――」
「クナイですよ。飛び道具にもなるし、接近武器にもなるし、便利ですよ。野宿時のフライパン代わりにもなりますし」
「すごいなぁ、万能武器だ」

 私はそこで、大きな欠伸が出てしまった。

「ふふ、そろそろ寝ましょうか。明日も早いですしね。……奴の所為で」

 眉間に皺を寄せチッと舌打ちするコハクに、私は苦笑する。

「コハクとホークレイは息ピッタリなのに、いつも言い争ってるよね」
「げっ、奴と息ピッタリなんて止めて下さい。背筋に寒気が走ります。私はリュシルカが大好きなので、奴に貴女を取られて目の敵にしているんですから。でも、リュシルカが奴と一緒にいて幸せなのなら、心から応援しますよ。奴が目の敵であることは変わりませんが」
「コハク……」

 胸が嬉しさと彼女の愛しさで一杯になり、私より少し背の高い彼女の身体をギュッと抱きしめた。


「私もコハクのことがすごく大好き。ずっと一緒だよ」
「ふふっ、ありがとうございます。その素直さを奴にも出せばきっと喜びますよ?」
「うっ、それとこれとはまた別問題……」


 私が言葉に詰まるとコハクが楽しそうに笑い、その可愛い笑みにつられて笑ってしまう。

「私のクナイを貸しますから、ヤツがまたヘンなことをしてきたらそれで思いっ切り叩いて下さい。殴打も出来るんですよ」
「わ、わぁ……。ホントに万能武器だねぇ。で、でも大丈夫だよ、ありがとね。――じゃ、寝よっか。おやすみ、コハク」
「えぇ、おやすみなさい、リュシルカ」


 私は武器を貸す気満々のコハクに、笑顔でやんわりと断ると、ランプを消して目を閉じた。
 明日、朝からホークレイに会える嬉しさに胸を踊らせながら。



 ――その日が、彼との長い別れになることを知らないまま――



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