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第二章 怪しく暗躍する影と二人の絆
33.これからも、貴方を
しおりを挟むお義母様の姿が完全に消え、私と旦那様とお義父様がその余韻に浸っていると、
「おーい」
と、セトラさんがこちらを呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、何と王子の首根っこを捕まえ、ズルズルと砂浜を引き摺って歩いてくるではないか!
「空中でコソコソと逃げようとしてたから、石をブン投げて落ちたところを捕まえてやったぜ」
ヒェッ! セトラさんの投げる威力と命中率がやっぱり半端無い……!
「よくやった、セトラ」
旦那様は頷くと、ジタバタと暴れる王子に『拘束魔法』を掛けて動けなくさせた。
「王子、覚悟はいいだろうな? 貴様はユーシアを殺害しようとした殺人未遂の罪、封印された魔獣を使って世界を壊滅させようとした罪で牢獄に入るだろう。王位継承権の剥奪は免れないだろうな。島流し、一生強制労働も覚悟しておいた方がいい」
「はっ! 誰が大人しくそんなクソつまらねぇことするか!! 俺は絶対に逃げてやる!! だって俺は何でも出来るんだからな。他国でまた楽しいことを探してやるさ。アンタらの目が届かないところでな!!」
狂ったように嗤う王子に、旦那様は無言で氷のように冷ややかな顔を向けると、何故か王子に掛けていた『拘束魔法』を解除した。
「……? 何だ、今逃げてもいいのか? なら――」
「あぁ、そうか、抵抗するのか。俺はこのままじゃ殺されてしまうな。必死になって対抗しなければ。――これは『正当防衛』になるよな、セトラ?」
「おぉ、それはもう立派な『正当防衛』だな」
「よし」
「……ユーシア、お前は耳を塞いでいろ」
「え……?」
レスカさんが視界を覆うように私を強く抱きしめ、同時に耳も塞がれる。
それをも超えるような王子の劈くような悲鳴が、長い間広い空へと響き渡っていた……。
##########
「――じゃあフワは、まだ君の中にいるんだな?」
お互い眠る準備が完了し、私はベッドの上で旦那様の両腕に包まれて寝転んでいた。
「はい。旦那様のお母様が魔力を分けて下さったお蔭で、フワが消えずに済みました」
「そうか……」
旦那様が何故かフッと笑うと、私の頭を撫でながら言った。
「実は、君はフワの生まれ変わりだと思っていたんだ。けど、フワは君の中にいたんだな」
「えっ!? い、いつからそう思っていたのですか……?」
「色々とそういった手掛かりを見せていただろう? レモンクッキーと二番摘みのダージリンティーもそうだ。俺をジークと呼ぶのもな」
「……あぁ……」
隠そうと思って全く隠れていなかった……。
「――フワ。一足す二は?」
「にゃあにゃあにゃあ」
旦那様の唐突な質問に、私の口から自然と鳴き声が出る。
「ちょっ、フワッ!?」
『……あ、ゴメン。つい昔のクセで』
「――ははっ! 本当にいるんだな、フワが」
旦那様が吹き出すと、私の首筋に顔を埋めてきた。
「……旦那様。お義父様はあれで良かったのですか……?」
「あぁ。騙されていたとはいえ、世界を壊滅させる魔獣復活の幇助をしてしまったんだ。自ら牢獄に入ったが、情状酌量する余地は十分にある。すぐに出てこられるだろう」
「……はい、そうですね」
「第一王子も牢獄に入り、次期国王は第二王子になるだろう。彼は第一王子と全く違い、よく出来た男だ。この国の未来もきっと大丈夫だろう」
「はい」
第一王子は、旦那様の『正当防衛』で両手両足を複雑骨折したので、逃げる心配はまず無いだろう。
自慢の顔も、見るも無惨なすごいことになっていたし……。
プライドの高い彼は、あの顔で逃げ出そうと微塵にも思わないだろう……。
旦那様、容赦無さ過ぎです……。
…………。
“何でも出来る自分”から“何も出来ない自分”になった王子は、これからどんな思いで生きていくのだろうか。
願わくば、愚かだった己を顧みて改心をして欲しい――
そんな物思いに耽けながら、旦那様の輝く金の髪を優しく撫でる。
彼は私の首筋に唇を這わせると、そのまま唇を重ねてきた。
長く深い口付けが終わり、トロリとした状態で旦那様を見上げると、彼は何故か小さく苦笑していた。
「旦那様……?」
「いや、こういう行為をずっとフワに見られていたと思うと、気恥ずかしくなってな」
『今更だよね』
「今更だと言っています」
「ははっ、だよな」
旦那様は可笑しそうに笑うと、私の服を脱がしに掛かってきた。
……旦那様、開き直りが早過ぎます……。
「……ジーク」
「! ――あぁ」
「私はこれからも全力で貴方を愛します。心の底から貴方に愛を貫き通します。とことん愛して、とんでもなく巨大な愛を捧げます。これからも好きにやらせて頂きますから、覚悟していて下さいね?」
「…………っ」
旦那様は目を大きく見開いて、微笑む私をジッと見つめる。
そして、本当に嬉しそうに顔をクシャリと綻ばせた。
「あぁ、望むところだ。ドンときてくれ。俺はそれ以上に君を愛すから」
私達は声を立てて笑い合うと、再び自然と口付けを交わしたのだった――
※あとがき※
ここまでお付き合い下さり、本当にありがとうございました!
お気に入りに登録して下さった皆様にも、深く深く感謝を申し上げます。
完結までに間に合わなかった余話を一つ、出来上がりましたらコソリと載せておきますので、宜しければお時間が出来た時にでも覗いてみて下さいませ。
改めまして、お読み下さり誠にありがとうございました!
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