「君を愛することはない」? では逆に全力で愛しますとも! お望み通り好きにやらせて頂きますね?

望月 或

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第二章 怪しく暗躍する影と二人の絆

20.楽しいお買い物……の筈が!?

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 結局、親切な誰かが旦那様の理性を上げるものを持ってきてくれる筈はなく……。

 その日の夜も、また……。
 …………。

 ……。

 いやいや本当にお元気ですね旦那様!?
 その体力をちょっとでも分けて欲しいですよ!?


 けれど私の体調と次の日のお出掛けを考慮してくれて、一回で終わってくれました!
 旦那様はものすごーく名残惜しげだったけれど!
 その代わりガッチリ拘束されて就寝したけれど!
 少しでも離れると引き戻され、更に密着されたけれど!

 旦那様の甘えん坊具合が日に日に増している気がする……!



 そして迎えたお買い物の当日。
 何故か出掛ける直前まで後ろ髪を引かれるような感じの旦那様をお見送りした後、ヴォルターさんから一人の女性を紹介された。
 珍しい黒色の髪で、長い髪を後ろに結んでポニーテールにしている、勝ち気そうな顔つきの美人さんだ。


「本日奥様のことを護衛をさせて頂く、レスカといいます。昨日まで仕事でこの家をずっと離れていたもので、御挨拶が遅くなり申し訳ございません。ちなみにわたくしの娘です」
「えっ!? ヴォルターさんの娘さんっ!? ヴォルターさん、御結婚されていたのですかっ!?」


 私が心底驚きながら訊くと、ヴォルターさんは恥ずかしそうに微笑んだ。


「えぇ、妻はこの家の料理長をやらせて頂いております」
「あの料理長さんがヴォルターさんの奥さんっ!? いつも美味しいお料理をありがとうございます!!」
「ははは、そう仰って頂けると妻も喜びますよ。頭をお上げ下さいませ。――レスカ、奥様に御挨拶を」


 二重の驚きに思わず叫んで一礼すると、ヴォルターさんは笑ってレスカさんに声を掛けた。
 レスカさんは頭一つ分低い私を見下ろすと、ニコッと気持ちの良い笑顔を作って言った。


「堅苦しいのは苦手なんだ。年下だし呼び捨てでいいよな? よろしく、ユーシア。私はレスカだ。今日一日大船に乗ったつもりでいていいぞ」
「こら、レスカ! 奥様に向かって……!」
「あ、いえ、全然構いませんよ? 私もその方が気が楽ですし……。こちらこそよろしくお願いします、レスカさん。頼もしくて素敵です」


 まさに『姉御』って感じの人だなぁ。“レスカ姐さん”って呼びたい!
 料理長さんは薄茶色の髪の色だから、ヴォルターさんは今は白髪だけど、昔は黒髪だったのかな?


「あははっ! 素直でいいヤツだな、お前」
「全く……。申し訳ございません、奥様。これはいつもこんな調子で……」
「ふふ、全く気にしていませんよ? 今日一日楽しく過ごせそうです」
「買い物がてら、美味い店も教えてやるよ。じゃあ早速行くか!」
「はい!」
「レスカ、くれぐれも奥様に御迷惑をお掛けするんじゃありませんよ」
「分かってるって、父さん。よし、行こうかユーシア」
 

 レスカさんは笑うと、私の手を取って歩き出した。
 そして私達は町に下りて買い物を楽しんだ。レスカさんは話し上手で、色んな話を聞かせてくれた。
 彼女は二十五歳で、一年前に結婚したそうだ。お相手は旦那様の護衛をしている方で……。
 護衛の方とはまだお会いしていないことを伝えたら、今度紹介してくれるって。楽しみだなぁ。

 レスカさんオススメのお店で美味しいお昼ご飯を食べ、お菓子作りの材料も理想通りのものを買えたし、屋敷の皆にお土産も買ったし、今日は本当に大満足な一日だったな。


 ウルグレイン家の屋敷は、町から少し離れた丘の上にある。その道中に小さな森があるんだけど、魔物もいない静かな森なので、結婚する前は私一人でもそこを突っ切って町に行っていたのだ。

 帰りも、その何も無い森を楽しくお喋りしながら通り過ぎる――筈だった。


 ――女性の悲鳴が森中に響き渡る前までは。


 私達は、その甲高い叫び声を聞いて顔を見合わせる。


「今のは、女の人の悲鳴、ですよね……?」
「あぁ。――まさか、誰かに襲われているのか!? ユーシア、走るぞ。私から離れずに付いて来いっ!」
「は、はいっ!」


 レスカさんはそう言うやいなや、声のした方角へと走り出す。私も慌てて後を追った。
 速度をグングン上げてもピッタリとくっついてくる私に、レスカさんは感嘆の声を上げた。


「本当に離れずに付いてくるから、試しに結構本気で走ってみたのに、まだ付いて来られるなんてすごいな!」
「えへへ、走るのは得意な方なので……」


 フワのお蔭でね!

 そして目的の場所に辿り着き、私達は驚愕した。
 ピクニックに来ていたのであろう、親子らしき人達が三人、大きな樹の下でピットリと寄り添っている。


 その周りに大量に群がっているのは、この森にいる筈のない魔物……ゴブリン達だった――



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