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第一章 愛さないと決めた男と愛すると決めた娘
5.最高に幸せな日々
しおりを挟むクッキーのことをヴォルターさんから聞いて、私は思わず飛び上がって喜んでしまった。
まさか全部食べてくれるとは露程も思っていなかったからだ。その上「美味しい」の言葉も貰えるなんて!
はしゃぐ私を、使用人さん達は温かな目で微笑みながら見ている。この家の使用人さん達は、本当に優しい人達ばかりだ。
ランブノー家にも二人ほど使用人はいたけど、皆私に対してとても意地悪だった。
擦れ違いざまの悪口は当たり前、足を引っ掛けられ転ばされたり、失敗の押しつけや掃除の押しつけは日常茶飯事。
あぁ……この家の使用人さん達の爪の垢を煎じて飲ませたい!!
そして私は、陰ながらウルグレイン伯爵のサポートに走った。
彼の健康状態を毎日ヴォルターさんから聞き、お疲れのようなら疲労回復効果のある香を彼の部屋に焚き、クッキーと紅茶も用意して。
彼の仕事で、私にも出来る仕事は回して貰って処理して。少しでも彼に休息の時間が取れるように。
擦れ違う時は、ニコリと笑顔を向けて話し掛けずに通り過ぎた。
だって、一切関わらないって言われているしね。私から関わって嫌な気持ちにさせたくないもの。
けれど最近、擦れ違う度に、ウルグレイン伯爵が何とも言えない表情でこちらをジッと見てくるのが気になっている。それも私がいなくなるまで。
まぁ、見てくるだけで何も言ってこないので、私の方も笑顔のまま何も言わないで通り過ぎている。
ヴォルターさんと使用人さん達は、嫌な顔一つもせずに私のことを手伝ってくれるし、こんな私なんかと話し相手になってくれるし、ここの生活に十二分過ぎるほど満足している。
着ていた一着しか服を持っていなかった私に、皆さん泣きながら服を沢山買ってくれて。事ある毎にお菓子を沢山くれて。
ここには罵声を浴びせてくる人も、殴って蹴ってくる人もいない。まるで極上の天国にいる気分だ。
――あぁ、最高に幸せだなぁ……。
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