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第一章 愛さないと決めた男と愛すると決めた娘
1.最低な家族とオサラバ!
しおりを挟む「ララーナ、落ち着いて聞いて欲しい。ウルグレイン伯爵から縁談の申込みが届いた」
「……はあぁっ!? ウルグレイン伯爵って、一年間で四人の縁談相手に逃げられたっていう、あのウルグレイン伯爵のことぉ!?」
「そうだ。うちには娘がいて爵位を持っているから、恐らく……とは思っていたが、ついにきてしまった」
「イヤッ!! そんなの絶対にイヤよぉッ!! 逃げて来た令嬢達の噂を聞いたけど、顔を合わせていきなり『君を愛することはない』って睨みつけられて、その後ずっと放ったらかしにされたっていうじゃない!? 姿は見たことないけど、そんな冷酷で人でなしなヤツと結婚したって幸せになれるワケがないじゃない!!」
「うーむ……。でもなぁ、ララーナ。お前を手放すのは非常に心苦しいが、王族との関係が深いウルグレイン伯爵家との結び付きはワシらにとって利益が多いんだ。この好機を逃す訳には……」
姉と父の会話を、私は雑巾で床を磨きながらしっかりと聞いていた。
その会話の内容は、私にとっても好機だ。
この流れからすると、姉のことだから、きっとあの台詞を言ってくれるはず……。
さぁ姉よ、早くその台詞を言っておくれ……!!
「だったら、あそこで這いつくばって床磨きをしている欠陥品を嫁がせればいいのよぉ。アレでも一応このランブノー男爵家の娘でしょぉ?」
「あぁ、あの欠陥品がいたか。うむ……確かにそうだな」
よっしゃキタァーーッ!!
そして父よ、期待通りの肯定をありがとう!!
私は浮き立つ心を顔に出さないよう必死に抑え、代わりに姉の嬉しがりそうなショックを受けた表情を作り頭を上げた。
姉は案の定、そんな私の顔色を見て意地悪くニヤリと笑う。私を虐めるのを生きがいにしていると言っても過言ではない彼女らしい、醜く歪んだ顔だ。
「由緒ある我がランブノー男爵家の血筋は、貴重な回復魔法を持って産まれてくるのだが、あの欠陥品はそれを一切持たずに産まれてきたからな。魔法のマの字も使えやしない。アレを手放しても痛くも痒くも無いな」
「そうよぉ、あんな欠陥品なんてウチにはいらないわぁ。回復魔法を使えるアタシだけで十分じゃない? ねぇお父サマ、お母サマぁ?」
「えぇ、そうザマスね。アタクシには、アタクシによく似たアナタだけがいれば十分ザマスよ。――あぁ、どうしてあのような欠陥品がアタクシのお腹から産まれてきたのかしら? 本当不思議でならないザマスわ」
「そうだな。ララーナには、ワシらの意のままに操れる貴族の婿を探そう。そうすれば、我がランブノー男爵家は末永く安泰だ。クックック……」
「ふふ、もうお父サマったらぁ。顔が良くて優しくて頼りになって器量の良いヒトじゃないとイヤよぉ?」
わー、本人の目の前で言いたい放題だわー。
でもこれでようやくこの家から出られる!
家中の掃除をさせられたり罵詈雑言を浴びせられたり殴られたり蹴られたりご飯を貰えなかったりから解放される……!
やったねっ!!
――っと、待て待て。嬉しがるのは早いわ私。
相手との婚姻を確実に確定させる為に、この喜びは胸に秘めて、思いっ切り悲痛な顔を作って、と――
「フフッ、今の話聞いてたでしょぉ? アンタは女を女として見てない冷酷なウルグレイン伯爵の五人目の縁談相手になるのよぉ」
「…………」
「――プッ、アハハハッ! そーんな悲しい顔したって結論は変わらないわよぉ? 最後にアンタのそんなマヌケ面が見られてホンット満足だわぁ。ププッ」
「早速先方に承諾の返事を出そう。早馬でな。――ユーシアよ、今すぐこの家から出てウルグレイン伯爵家に向かえ。決して伯爵に迷惑を掛けないように従順にしていろ。戻って来ることは許さんぞ。ランブノーの名に泥を塗ったら容赦しないからな」
「流石にその使用人の服じゃ行かせられないザマスね。この家の質を疑われてしまうザマスわ。ララーナのお古のドレスを一着あげるから、それを着てさっさと出て行くザマスよ。欠陥品のアナタに対してこーんなに優しい母を、一生敬っていくザマス。だからアナタを日常的に叩いていたことは、絶対に人に言ってはいけないザマスよ。――まぁアナタの戯言なんてだーれも耳を貸さないでしょうけど。オホホホッ」
……母のザマス口調、最後まで慣れなかったな。それももう聞くこともなくなるし、とても清々しい気分だわ。
よし、善は急げですぐに支度をしよう! 今まで何も買って貰えなかったから特に持って行く荷物も無いし、さっさと部屋を片付けてこの家からオサラバだ! イヤッホーーッ!!
――そして私ことユーシア・ランブノーは、地獄のような家から晴れて開放され、ルンルン気分でウルグレイン伯爵家に向かったのだった。
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