上 下
38 / 47

38.いざ、パーティー会場へ

しおりを挟む



 あれよあれよという間に、祝賀パーティー当日がやってきた。


「……よし、出来た。とてもキレイだよ、フレイシル」


 フレイシルの姿を改めて見て、アディは満足気に大きく頷いた。
 手伝いに来ていたアディのメイド仲間であるセラも、称賛の言葉を出す。


「元々が美人さんだから薄くお化粧しただけだけど、更に美人さんになったわね。これは男性共の目線が釘付けになりそうだわ……」
「上等だよ。前に出た舞踏会で、色々言われて嫌な思いをしたんだ。その姿で全員見返してやりな」


 アディの言葉に、フレイシルは拳をグッと握りしめて頷いた。


「フレイシル、準備は出来たか? そろそろ行くぜ」


 トントンとノックの音がし、アディが返事をするとセリュシオンが扉を開け入って来た。

 正礼装姿の彼はいつも無造作に流している灰青色の髪を整え、黒色に銀の刺繍が入ったテールコートもビシッと着こなし、いつも以上に格好良さと色気が増していた。
 セラも思わず感嘆の息を吐いて見惚れてしまうほどだ。
 そんな彼が、フレイシルを見てビタリと固まった。


 銀色の長い髪を後ろで纏め、セリュシオンの髪の色と同じ灰青色の、彼女のほっそりとした身体の線に合った、見る者をウットリさせるであろう美しいドレス。
 そして、あちこちで神秘的に光る、彼女の瞳と同じ薄桃色の装飾品達。


 それらは、フレイシルとアディが相談し合って決めたものだ。
 ドレスは腕の良い人気店のオーダーメイドなので、自分達の理想通りに仕上がって大満足だった。

 そして、フレイシルに薄く施した化粧は、彼女を普段より更に美しく魅せていた。


 呆然とフレイシルを見つめているセリュシオンに、アディとセラは怪訝に顔を見合わせる。


「おかしいね……。アタシの予想じゃ、『フレイシルすっげーかわいー! めっちゃくちゃキレイじゃん!』とか言いながら抱きついてくるかと思ったのに……」
「どうしたのかしら? 辺境伯の刻が止まってるわ……」


 暫くして、ハッと我に返ったセリュシオンは、次にド真剣な表情を作って、とんでもない言葉を告げた。


「今日は行くの止める。中止だ中止」
「……はあぁっ!? 何で急に――」
「コイツのこんなキレイで可愛過ぎる姿を男どもが見たら、全員寄ってくるに決まってんだろ!! そうなれば、オレは男どもを残さず塵と化し瞬殺しちまうだろう……。コイツのこの眼福な姿を見られるのは、男じゃオレ一人だけだ! 他の男どもが見るのはぜってぇに許さねぇ!! 今日は一日、部屋に篭もってオレだけがコイツのこの最ッ高の姿を拝みまくる!! 祝賀パーティーなんて超クソ喰らえだっ!!」
「はああぁっっ!?」


 真面目な顔つきでそうのたまうセリュシオンに、セラは驚きの顔、アディは心底呆れた顔で彼を見た。


「何を言うかと思えば……ホンット独占欲丸出しの嫉妬に塗れた面倒臭い男だね!? 主役が行かなくてどうする気だい! さっと行ってこい!! ――カイ、主を馬車に押し込みな! 会場ではちゃんと主を見張ってるんだよ? フレイシルに近付く男どもを殺させないように!」
「承りました、アディ。ご安心を。――ほら主様、子供みたいなこと言ってないで行きますよ。フレイシルさん、参りましょう」


 フレイシルはカイに微笑んで頷くと、立ち上がりセリュシオンの傍に駆け寄る。
 そして彼の手を取ると、手のひらに文字を書き始めた。


「ん? 『シオンさん、すごく格好良くて素敵です。本当の王子様みたい』……? ヘヘッ、そっか? お前に言われるとめっちゃくちゃ嬉しいわ。はははっ」


 途端、だらしのない顔になるセリュシオン。
 フレイシルは彼に頷いて返すと、アディとセラにペコリと頭を下げ、ニコリと花が咲いたように笑った。


「あははっ、いってらっしゃい、フレイシル。女どもがアンタに嫉妬して何かしてきたら、倍にしてやり返してやりなよ!」
「カイ、お前フレイシルを一瞬でも見んなよ! この天使のような姿と顔はオレだけのモンだっ!」
「はいはいはい。フレイシルさん、行きましょう」


 ギャーギャー騒ぐセリュシオンをカイは無理矢理引き摺り、フレイシルはアディ達にグッと握り拳を見せると、彼らの後をついていった。


 嵐が去って静かになったフレイシルの部屋で、アディは「やれやれ……」と盛大に溜め息を吐いた。
 セラが、呆然としながら口を開く。


「……アレ、本当にオーガステッド辺境伯……? いつも冷酷で無表情で冷静沈着のイメージを持ってたけど、それが見事にガラガラと瓦礫のように崩れ去ったわ……」
「あぁ、以前の主はそうだったね。滅多に笑わないし、笑ってもちょっとだけ。表情も動かさない。けど、フレイシルがここに来てからドンドンと変わってったね。喜怒哀楽をよく見せるようになったよ。まぁ……あんな感じでかなり鬱陶しい時もあるけど、昔の『無』の主より全然いいよ」
「そうね……、前の辺境伯は乱暴な口調も相まって怖くて近寄り難かったけど、今は何かすごく親しみが持てるわ。――そう言えば最近、カイさんとどう?」
「へ? どうって? カイと何かあるのかい?」


 本気でキョトンとして訊いてきたアディに、セラは額に手を当て溜め息をついた。


「……はぁ、こっちは全然まだまだね……。カイさん、ちょっとは実行に移しなよ……。どれだけ片想い拗らせてんのよ……」
「? 何一人でブツブツ言ってんだい?」
「ふふっ、何でもないわ! 私は二人を陰ながら見守り続けるわ……。そう……例え何年……何十年経って、二人がお爺ちゃんお婆ちゃんになろうとも……」
「へ?? 何だい、ヘンなセラだね……」


 アディとセラは、後片付けをしながら談笑に花を咲かせたのだった。



 そのパーティーで、フレイシルにとって大きな波瀾が待ち受けているとも知らずに――




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

「……あなた誰?」自殺を図った妻が目覚めた時、彼女は夫である僕を見てそう言った

Kouei
恋愛
大量の睡眠薬を飲んで自殺を図った妻。 侍女の発見が早かったため一命を取り留めたが、 4日間意識不明の状態が続いた。 5日目に意識を取り戻し、安心したのもつかの間。 「……あなた誰?」 目覚めた妻は僕と過ごした三年間の記憶を全て忘れていた。 僕との事だけを…… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります

柚木ゆず
恋愛
 婚約者様へ。  昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。  そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...