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エピローグ②物置部屋の肖像画
しおりを挟む客間へ案内されるなりカサンドラはこっそりと部屋を抜け出し、先ずは歴代のウィリアムズ伯爵とその家族の肖像画が飾ってある回廊へと向かう。
絢爛豪華な回廊を隅々と見て回ったけれど、私の目当ての肖像画は無かった。
その事実にカサンドラは酷くショックを受けたものの、諦めずに屋敷を歩き回って目的の物を探す。
「マイ・レディ。いったい何をお探しになっているのでしょう?
せっかくの美しい御髪が埃だらけになってしまわれて………」
良く見知ったメイドのルネッタが協力してくれていたのだが、物置き部屋をひっくり返す勢いのカサンドラにとうとう苦言を呈した。
せっかくの見事なブロンドの巻き髪には無惨に埃を被っており、ルネッタが埃を払い除けてくれる。
「肖像画を探しているのよ、ルネッタ。どうしても見つけたいものなの。何処にあるのかしら………」
その時、使われていないキャビネットの後ろに埃を被った額縁がある事に気が付いた。
もしかすると……。いいえ、絶対に。
カサンドラにはどうしてか、まだ見ぬその額縁に望みの肖像画があると確信していた。
そして舞い散る埃も気にせずに額縁を引っ張り出して表を見るとーーー
カサンドラの濃いブルーの瞳から溢れ出した涙が頬を伝った。大切な肖像画に涙が落ちないように煤だらけの手で頬を拭い、描かれている人物を良く見つめた。
そこには燃える炎のような髪を後ろに撫で付けて整え、ハンサムな勇ましい顔を此方へ向けている男が描かれている。
こちらを睨み付けているかのように見える鋭い瞳はサファイアのような濃いブルー。
肖像画の男の瞳は無機質で何も映していない。
当然だ。だってこれは絵なのだから。
けれどカサンドラは、この肖像画の彼がその鋭い瞳を愉快そうに煌めかせるのを知っている。
彼の整った唇がユーモアに富んだ小言を言う事も。
こんな埃だらけで打ち捨てられたような場所に居ていい男性ではない事も。
「やっと見付けたわ」
「この肖像画を探していたのですか、マイ・レディ?」
ルネッタが私の手に持った肖像画を覗き込み、ほぅと小さく溜め息をついた。
「素敵な肖像画ですね。随分と古い物のようですが」
「彼は偉大なる英雄ロイスよ。
口煩くて過保護過ぎるし、とても威張っているようだけれど……困難を共に乗り越えてくれる私の良き相棒なの」
「……どういう事でしょう…?」
困惑した様子のルネッタににっこりと微笑むと、カサンドラは再び手元の肖像画の方を見た。
そして今度は精緻に描かれた肖像画に向けて、訳知り顔でニヤリと茶目っ気たっぷりに微笑む。
ロイス、会いたかった。
貴方の居場所はこんな物置き部屋ではなく、あの美しいヒース・コートでしょう。
連れて帰ってあげるわ、ロイス・ハンサム。
私に感謝してよね
ーfinー
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