伯爵令嬢カサンドラの償い〜罪悪感でどうにかなりそうなので、過酷な土地で罪を贖ってみる〜

りんめる

文字の大きさ
上 下
26 / 84

26.悪態をつきたくもなる

しおりを挟む



当然ながら、雪道を長距離歩くのは容易では無かった。 
このグリーンのローブはとても厚手で防寒対策はしっかりとされているけれど、冷たい空気を完全に凌ぐ事は不可能なので、ローブの下にはフロックコートも着込んだ。
それでも体は芯まで冷えきって震えが止まらない。無意識に唇も震えて歯がカチカチと鳴る。


簪を外してしまった自慢のフワフワの髪は、今は雪の水分を含んで重たく背中に垂れていた。
母が知ったら、美しいプラチナの髪を痛めてしまうなんて神への冒涜にも等しいと言って嘆くだろう。
カサンドラも自分の髪をとても大切にしているけれど、この時ばかりは短く切り落としてしまえたら良いのにと思ってしまった。


何度も足を取られて倒れ込んだし、息をする度に体中が痛くて仕方がない。
はぁ……と呼吸した事で急に冷たい空気が肺に入り込み、思わず咳き込んでしまった。

‥‥本当に死んでしまいそう‥‥。    

 意識は朦朧としていたが、それでもカサンドラは気絶しそうになる度に唇を噛み締めて意識を取り戻した。 此処で気絶したらどうなるか、私も良く分かっている。


これは命にしがみつくというより、カサンドラの意地とプライドでしか無かった。
その証拠に胸の内では何度も何度もあの男への悪態をついていて、自分の行く末など考えていない。

このまま私が死んだら、あの悪魔の思う壺だわ。 喜ばせるだけよ。
そんな事、絶対にさせない‥‥。
此処で惨めに死ぬなんて出来ない‥‥! 
あの人嫌いよ! 大嫌いよ! 
あのまま私を追い掛けてきて、雪の中惨めに迷子になれば良いんだわ!
泣き喚いて助けを呼ぶの。想像するだけでなんて愉快なのかしら!


一際強い風が吹いて、カサンドラの心中での悪態を止めた。
ローブの前を掻き合わせて冷たい風をやり過ごし、風に吹かれてずれたフードを目深に被る。
人の気配は全くない。 後ろから追い掛けてくる足音も。


結局馬車で一時間の道は、カサンドラの足では三時間程掛かってしまった。
既に真夜中を過ぎ去っている。

凍えて命を落とさなかったのは本当に奇跡だった。 よほど神のご加護があったに違いない。


やがて漸くグレスティンの町の建物から漏れでる灯りと、丘の上に偉そうに鎮座するヒース・コートが見えてカサンドラは心底安堵した。

‥‥あぁ、神様‥‥本当にありがとう‥!


本当なら今すぐにでも駆け出したかったが、寒さのせいで大分体力を消耗していた。
それでも速度を早め、真っ直ぐ私のヒース・コートへと向かった



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

侍女から第2夫人、そして……

しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。 翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。 ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。 一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。 正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。 セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。

【完結】ひとりぼっちになった王女が辿り着いた先は、隣国の✕✕との溺愛婚でした

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
側妃を母にもつ王女クラーラは、正妃に命を狙われていると分かり、父である国王陛下の手によって王城から逃がされる。隠れた先の修道院で迎えがくるのを待っていたが、数年後、もたらされたのは頼りの綱だった国王陛下の訃報だった。「これからどうしたらいいの?」ひとりぼっちになってしまったクラーラは、見習いシスターとして生きる覚悟をする。そんなある日、クラーラのつくるスープの香りにつられ、身なりの良い青年が修道院を訪ねて来た。

【完結】 嘘と後悔、そして愛

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
伯爵令嬢ソニアは15歳。親に勝手に決められて、一度も会ったことのない10歳離れた侯爵リカルドに嫁ぐために辺境の地に一人でやってきた。新婚初夜、ソニアは夫に「夜のお務めが怖いのです」と言って涙をこぼす。その言葉を信じたリカルドは妻の気持ちを尊重し、寝室を別にすることを提案する。しかしソニアのその言葉には「嘘」が隠れていた……

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...