伯爵令嬢カサンドラの償い〜罪悪感でどうにかなりそうなので、過酷な土地で罪を贖ってみる〜

りんめる

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21.城塞都市、グランドリーチへ

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今さらだけれど我が国、ブランシェルシア王国は地図の北に位置した国だ。
なので一年を通すと寒い時期が多い。

王都ブランシェルは王国の南に位置し、我がウィリアムズ領は王都の南西部にある。
カサンドラの生まれ故郷『ウィルアール』から王都までは馬車で半日程度の距離だ。


そしてヒース・コートのある場所、つまりは今私が住んでいる町のある場所は、王国の北に位置するグランヴィル領だ。

ヒース・コートのある町、あのお節介だけど気の良い人達の住む町『グレスティン』は、グランヴィル領の中でも北端に位置する。
だから気候も土地も過酷な場所なのだ。


そして今、カサンドラが乗り合い馬車に揺られながら向かっているのはグランヴィル領の中でも大きな街『グランドリーチ』だ。
グレスティンからグランドリーチまでは馬車で四時間程かかる。

カサンドラは窓の外へ視線を向け、漸く見えてきた街の入り口に胸を高鳴らせた。
まだ日が暮れるには早いので、今到着すれば用事を済ませた後に街を見て回れるかもしれない。

カサンドラはグリーンのローブに付いたフードを改めて深く被り直しながら、逸る心の内で一刻も早く到着するよう願った。




グランドリーチはグランヴィル侯爵の居住区も存在する城塞都市だ。
中世からある建物は殆んどが尖塔が付いており、外壁や窓の造りもとても美しい。
街中に張り巡らせた道に沿うように建物がひしめき合っている。
けれど一際目を引くのは、他の建物よりも一回り程大きい時計塔だった。


カサンドラは乗り合い馬車を下り、街の中心部らしい通りを歩いてみた。
クリスマスまであと二日。
当然だけど大通りは人で溢れていて、人にぶつからないようにするのが精一杯だった。

通りを歩きながら何とか郵便局を見つけ、無事に郵便馬車にクリスマスカードを送って貰える事になった。
目的地にはいつ頃到着するのかと訊ねた所、クリスマス当日には届いているだろうと言われてホッと安堵した。

カサンドラはクリスマスカードに宛名だけ記入していた。自分の居場所は勿論、何のメッセージも書いていない。
あの美しいカードにメッセージは不要な気がしたから。 

きっとカードを見るだけで、私が心から両親の幸福を願っている事が伝わる筈だから。




一夜の滞在場所を決める為、まずは泊まれそうな宿を探さなければならない。
私としては、窓から壮大で美しい時計塔が見える宿に泊まりたい。
丁度良さそうな宿を見つけたのだが__


「すまんなぁ、お嬢さん。
此処は女一人だけで泊まらせる訳にはいかねぇんだ」

「どうしてですの?」

「何かあっても、うちは責任とれねんだよ。 ほら、クリスマスで浮かれてる野郎も居るだろ?」

「ええ、そうね」

「そんな奴等には、美しい娘さんは目の毒って事だ」

店主にそう脅されてゾッと背筋に冷たい物が伝い落ちる。
確かに不埒で愚かな男性の目に止まるのはゴメンだ。
身の危険を感じながら滞在する事は出来ない。

カサンドラは残念な思いで宿屋を出て、次の宿屋へと入った。


ここならきっと平気よ!

「ごめんなさいね。今日はもう部屋が一杯なのよ。もう少し早く来てくれたら良かったんだけど‥‥…」

‥‥‥この宿はどう?

「ダメダメ! うちは女一人の客は泊まらせない決まりなんだ!」

お願い‥‥どこか泊まれる宿を‥……


「あんた、男を狂わせる相をしてるね。 悪いけど、そんな不吉なお嬢さんはお断りだよ」

「なんですって?」


そんなの納得がいかない。
私がまだ小娘だと思って、適当な事を言って追い払おうとしているのかしら?

カサンドラは腕を組み、眉を寄せながらカウンターの向こうに座る年配の女性を見つめた。

「どうしてダメなんですの?  心配しなくても、代金はきちんとお支払いしますわ」

「言った通りだよ、お嬢さん。不吉な相を持つ娘は泊められない」

「‥‥わかりましたわ」

諦めて扉へ向かいかけたカサンドラの背中に、女店主のかさついた声が掛けられた。


「あんたの美しさは毒だねぇ。惑わす魔女でありながら女神のようでもある。
あんたを愛した哀れな男が破滅しない事を祈ろう」


カサンドラは反論したい気持ちを、唇をきつく噛み締める事で堪えた。
宿を探しているだけなのに、どうしてこんなにも酷い扱いを受けないといけないの?


カサンドラはローブのフードをきちんと被り直し、ある決意をして通りを歩き出す


もう断られるのはうんざりだ。もう沢山よ!
女一人では嘲笑されて断られるなら、私にも考えがある。


何としてでも宿に宿泊してやるわ




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