【完結】トラブルメーカーはすみれ色の瞳に恋する

りんめる

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エピローグ

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~2週間後~


私の巻き起こした”ちょっとした騒ぎ”のせいで何の相談もなく結婚を早めてしまった事に両親はひどく仰天していた。
けれど既に特別結婚許可証はローランドが騒ぎのあった翌日の朝一番で役所に届けてしまったので、父がどんなに結婚準備期間は必要だと小言を言っても意味がない。



絶望から一変。愛するローランドの妻となれて浮かれていたものの、それからの二週間は殆どローランドと会う事は叶わなかった。

突然結婚してしまったので、私もローランドも大急ぎで結婚式や披露宴の準備をしなければならないからだ。
ローランドは私を迎える準備をするべく、一足先にライサム領に戻ってしまった。


私はと言うと結婚式と結婚披露パーティーはローランドの領地で行う為、先ずは首都の街で高名な仕立て屋にウェディングドレスを注文した。

これからは首都の大都市へは今ほど頻繁に訪れる機会は無くなってしまうので、ウェディングドレス以外にも幾つかドレスを仕立てて貰い、ボンネットや靴も買い揃えた。


ライサムの地で暮らすようになれば、せっかく友人となったジゼルとも余り会えなくなってしまう。
なんて寂しいのかしらと嘆いている私に、優しいジゼルは手紙を出すと言ってくれた。


生まれ育った屋敷を一週間前に出発し、家族と共にライサムの地へと旅立った。



家族を乗せた馬車の御者がライサム領に入り、ライサム・アビーが見えて来た事を告げた。
私はローランドの屋敷を見ようと馬車から身を乗り出し、そして感嘆のため息をもらした。

なんて美しいのだろう。 
ライサム・アビーは物語から飛び出てきたような中世のお城だった。

そのお城はなだらかな牧草地に囲まれ、辺り一面緑に覆われている。
石造りの大きな建造物は静謐な湖に面しており、水面には城や小塔が鏡写しになっていた。


残りの一週間はライサム・アビーで本格的にパーティーの準備をした。
最初の週よりはローランドと一緒に過ごせたが、毎日次々と訪れる招待客の対応に追われていてゆっくりお茶をする時間は無かった。




そして今、披露パーティーを終えて自室で一息ついた所だった。
母が選んだ豪華で動きにくいドレスもようやく脱ぎ捨てる事が出来た。

私に与えられた部屋の窓からは美しい湖が見える。
夜着にも関わらず窓を開けてバルコニーに出てみると、水面に満月が反射していて夜なのにとても明るい。


不意に寝室への続き部屋の扉がノックされ、夫のローランドが部屋に入ってきた。
二週間前に負った頭の怪我も今ではすっかり良くなっている。


こうして彼の事を夫と呼べるのはなんて幸せな事なのかしら___。


「そんな薄着で夜風に当たっていては風邪を引いてしまう」

「でも眺めずにはいられなかったのよ。
美しい景色だわ‥‥。ライサムはとても素晴らしい場所なのね」

「君の育った場所より、ずっと田舎で驚いたかい?」

「そうね。私が生きてきた中で、一番素敵な場所で驚いたわ」

「君が喜んでくれて何よりだ。
‥‥ずいぶん体が冷えてるじゃないか」


背の高いローランドに背後から抱き締められ、背中に逞しい胸の筋肉の感触と温もりが伝わってくる。
体が冷えているなんて嘘に違いない。
だって今の私の体は火照り、このまま死んでしまうのではないかと錯覚する程に心臓が高鳴っているのだから。


「この二週間、また君が逃げ出すんじゃないかと気が気じゃなかった」

「まぁ、どうしてそんな事を考えたの?
私は既に貴方の妻なのよ。逃げ出す筈がないでしょう」

「‥‥‥二週間前なら僕もそう思っていたんだ」

まだあのちょっとした騒動の事を言っているのだろうか?

「そう眉を寄せるなよ。ようやく君を僕のものに出来るんだ。
この場から動かない気なら、君を引きずってでも部屋に連れて行くつもりだ」

「きゃ‥‥っ‥!」

そう言うが早いかローランドは軽々と私を両腕に抱きかかえ、急にバランスを崩された私は反射的にローランドの首に両腕を回してしがみつく。


ローランドの方を見上げてみると、彼もまた私の方を見つめていた。
その表情はとても優しげで‥‥‥幸せそうだった。
以前は何処か影を潜めていた淡い紫色の瞳は、朝露に濡れながら新たに咲き出したすみれの花のように輝いていてとても美しい。


私の一番好きな花。 私の一番好きな色。



私の初恋の人の瞳の色。



「愛しているわ、ローランド。
貴方に出会う為に私は今まで生きてきた気がする」

「‥‥僕も同じだよオフィーリア。
愛がどんなものなのか、ようやく知る事が出来た」


二人はどちらからともなく顔を寄せ合い、満月の明るい月明かりの中でキスを交わした。


オフィーリアを抱き上げたままバルコニーから部屋に戻り、そして開いたままになっていた続き部屋の扉を通って二人の寝室へと消えていった。






ーendー

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