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しおりを挟むウェストブルック侯爵家のタウンハウスでの時間はとても楽しかった。
レディ・ウェストブルックは小柄で上品な雰囲気の年配女性で、突然訪ねて来た私達を快く歓迎してくれた。
気さくで優しい夫人なのだが、侯爵が言っていたようにとてもお喋りだった。
優雅な指先でティーカップを持っているが、喋り通しで紅茶は未だに一度も口を付けられていない。
ウェストブルック侯爵の妹と紹介されたエドウィナは、私よりも5つほど年下のとってもキュートな女の子だ。
侯爵と同じ燃えるような赤い巻毛はバラの花束のようで美しい。
レディ・ウェストブルックはお転婆な娘に育ってしまったと困ったように話してくれたが、私は好奇心旺盛なエドウィナがとても好きになった。
冒険心がある事は自分の世界を広げてくれるし、勇敢さは誰かを助ける事が出来る。
最初は落ち着かない様子だったジゼルも今では穏やかにレディ・ウェストブルックと話をし、ようやく四人が打ち解けあって他愛のない話に花を咲かせていると、何やら屋敷の玄関の方から大きな物音と何人かの話し声が聞こえて来た。
廊下を荒々しく闊歩する足音が私達居る部屋の向こうで止まると、マホガニーの大きな扉が開き____
悪魔のような憤怒の表情したローランドが入ってきた
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
~30分前~
ローランドは一度ライサムの屋敷に立ち寄ってみた。
もしかしたら彼女は出ていったのではなく、僕に会いにライサムの屋敷に来ているのかもしれない。
もうそれを願う他ない。
波止場に行ってみたが、今日出港するどの船にもオフィーリアは乗っていなかった。
もちろん波止場周辺も探してみたが案の定彼女らしき人影は無く、目ぼしい情報も何も得られなかった。
探すべき場所は全て探し尽くしてしまった。
コートの内ポケットに手を入れ、そこにある物に触れる。
本当にこのまま彼女を失ってしまうのだろうか‥‥?
そんな事になれば僕は生きていけない。
屋敷に入って執事に来客がある事を知らされると同時に応接間へと向かったが、暖炉の前の椅子にくつろいだ様子で座っていたのはオフィーリアではなくリチャードだった。
「なんだ、僕で残念そうじゃないか」
「今はお前の相手をしている場合じゃないんだ。
とんでもない事が起こってしまった。 悪夢よりたちが悪い。
オフィーリアが___」
「ミス・ラルーが行方不明なんだろう?
僕に感謝してくれよローランド。彼女は無事に回収しておいた」
「なんだって?」
頭がおかしくなったような気分で、一瞬リチャードの言っている言葉の意味が理解出来なかった。
彼の言葉を一言一句違わず頭の中で反芻してようやくその意味を理解すれば、訳知り顔で椅子に座るリチャードに詰め寄り襟首を掴んで椅子から引きずり上げた。
「彼女は今どこに居る?
どうしてお前が彼女を匿っていたんだ!! 僕がどれほど探し回ったと思っている?」
「ローランド、落ち着け!
‥‥‥匿ってた訳じゃない。街で友人と無防備に出歩いていたから声を掛けたんだよ」
「街だと‥‥?」
てっきり既に街を出た思って周辺の村まで馬を走らせていた時、オフィーリアは呑気に街を出歩いていたという訳か。
「今はウェストブルックの屋敷で母達とお茶をしている筈だ。‥‥‥‥あ、おい!ローランド!」
彼女の場所を聞き出すや否や掴んでいたリチャードの服の襟を離して椅子の上に放り出し、勢いよく部屋を飛び出した。
速度を落とさないまま屋敷の外に出ると、丁度良く屋敷の門の前へ一頭の馬が駆け込んできた所だった。
鞍から身軽に降り立ったアラステアは最初何かを尋ねようと口を開きかけたが、ローランドの鬼気迫る表情を目にするなり全てを理解したように持っていた手綱を僕の手へと渡す。
「この馬は僕の自慢の馬なんですから、乱暴に扱わないでくださいね。
‥‥‥‥ 姉上は今どこに居るんです?」
「ウェストブルックの屋敷だ。何としてでも連れ戻してくる」
「僕も後から追い掛けます」
アラステアが乗っていた馬の鞍に今度は僕が跨り、手綱を振って馬をウェストブルック侯爵家のタウンハウスへと駆けさせた。
優秀な馬ばかり揃っている事で有名なラルー家で、中でも一番足の速いアラステアの馬は、確かに他の馬とは一線を画す速さだった。
頭の良い馬は僕の焦りと恐れの感情に応えるように風を切って道を駆け、侯爵家の屋敷まで到着するのにさほど時間は掛からなかった。
飛んできた馬丁の少年に手綱を預け、一段飛ばしで玄関ポーチを上ってドアに作り付けてあるノッカーで屋敷の使用人に来訪の合図をする。
ドアを開けたウェストブルック家の執事は既に何やらリチャードから言付けられているようで、僕を見るなりオフィーリアが居る部屋を教えてくれた。
そして教えられた応接間の前まで行き、マホガニー製の大きな扉を開ければ____
もう会えないのかと絶望し、
どうしてもっと早く自分のものにしてしまわなかったのかと心の底から後悔し、
一日中必死に探し回ったオフィーリアが、蕩けた蜂蜜のような琥珀色の瞳を驚きに見開かせながら椅子に座って此方を見つめていた
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