空白

成瀬 慶

文字の大きさ
上 下
13 / 14

長いスピーチ(中)

しおりを挟む
「高1の正月
初詣に行こうって約束した
同時期に蒼汰からも誘われていたから
僕は丁度いいって思いました

親友に彼女を紹介しようって・・・思った
蒼汰にも自慢したかったのかな・・・久実さんの事を・・・

それまでも
片思いの時から
ずっと話を聞いてもらっていたから
付き合いだした頃も

“親友として挨拶しときたいから会わせろよ!!”

って、言われていたから
その日、三人で行こうって約束した

そしたら
久実さんは気を使って

「自分の友達も連れていくね」

って言って
ま、古臭い言い方をすると
wデートの様な感じで会うことになった

駅で待ち合わせをして
合流して
蒼汰は久実さんに僕の親友として挨拶してくれたよね・・・

でも
そこで
思いがけない事が起こった

久実さんは
蒼汰は・・・
同じ目で同じ呼吸でお互いを見ているのに気が付いてしまった

何かを打ち消す様に
二人は目が合う度に逸らしたり
していたけど
その空気感は独特なもので

人が
一目で恋に落ちていく場面をみせつけられているようだった

二人の
今までにない表情でお互いを見てた僕は
それを割くように話をし続けていたけど
二人には・・・あまり入っていけなかった
一人からまわり
それを
久実さんのお友達も気が付いていたのかな?
一生懸命に相槌うって
笑ってくれたりしてくれて

今思えば
誰と誰のデートか?わかんない状況だった気がします

その一日中
二人はずっとそんな感じだったよね」

そう言って
二人を見ると
蒼汰は無表情でこちらを見ているけど
久実はこちらをまだ見れないでいた

「あの初詣に来てくれた久実さんのお友達も
今日来てるのかな?

来てるなら改めて・・・

「あの日は有難う
おかげで・・・助かりました
君の相槌なかったら
僕は・・・もっと辛かったから・・・助かりました」

あれから
色々と勘ぐってしまったりしたけど
全部、強引に打ち消して
見て見ぬふりしてた
バカらしいけど
信じたくなかったんだ
僕の大好きな久実さんに
僕の大親友が恋するなんてある訳ない
僕の事を“好き”だと言ってくれた久実さんが
僕にだけ心の内を話してくれた久実さんが
僕の親友に恋するわけがない

たった
一度しか会ってもいないのに

だから
分からないふりがしたかった
ありえない事だから
信じたくなかったんだ

でも
あの日
蒼汰・・・恋したんだよね
久実さんも・・・
あの日あの時一瞬で・・・二人は恋に落ちた

それ以降
思い返したら
俺は蒼汰に久実さんの話をしても心此処にあらず
それ以外の時には
いつもと全く変わりなく過ごしていたから
きっと
久実さんと僕の、のろけのようなものが聞きたくなかったんだろうね
蒼汰の嫉妬の様な顔
はじめて見て
本気だって思った・・・
いや違うか・・・あの表情は嫉妬ではなかったかもしれない
蒼汰は大人だから・・・自分たちの気持ちが後ろめたかったからかな?

それは
今となっては僕の妄想でしかなく
本人にしか分からない事だから
どちらでもないのかもしれないけど

まあ違えなく言えるのは
二人は既に始まっていたんだよね

そうだろ?蒼汰!

あの頃から
久実さんも会えない日が多くなって
メールも返信遅くなったり・・・

信じたかった
でもできなくなっていった

だって
大親友と彼女の様子が同時におかしいんだもん

だけど
僕さ・・・蒼汰がマジで好きだったし
久実さんの事も好きだったからさ

信じようって思ってた

“これは、たまたまだ”って

たまたま
蒼汰の様子がおかしくて
たまたま
久実さんが忙しくなって
それで
僕が勝手に嫉妬してて
勘ぐっちゃって
僕は蒼汰ほど男らしく誠実じゃないから
変な方向に感じちゃってるんだって・・・

でも
高3の6月
現実を突きつけられた

メッチャ雨降ってたよな・・・あの日

蒼汰の家に呼ばれていったら
久実さんもいて

二人が・・・申し訳なさそうな顔してて

ま、僕みたいなバカ者でも
そこまで来たら目は逸らしようはなかった

そっから
蒼汰が色々と話してたけど
正直
覚えてない
聞こえてなかった

耳鳴り酷くてさ

久実さんは
ずっと蒼汰の横で泣いてたよね

でもさ
泣きたかったのは僕なんだけどね

それからしばらくは音のない世界だった

でも一つだけ
聞こえた
どんな言い回しだったかは忘れちゃったけど
二人はほぼ毎日
蒼汰の部屋で会っていて
密かに恋を・・・愛を・・・育んでいたって知って
音は消えた
映像だけは今も頭にあるから
実は
今もたまに夢に出てくる

勿論、起きた時には汗びっしょりの悪夢としてね

あの頃
とてつもなく落ちてしまい

あれから
僕は、それまでの全部を捨てて
県外へ行きました

逃げました
現実から

ちょっと笑えますよね
失恋からの逃亡なんて
でも
必死でした
自分自身で消してしまいそうな自分を
その心の置き所を探すのには
逃げるしかなかった

通信の高校を出て
大学へ行って
就職して

二人の事どころか
地元の事なんかまったく思い出したくない思いでしかなくて

はっきり言って
しばらくは黒歴史でした

消せる消しゴムがあるのなら
いくら出しても欲しいくらいの・・・

だから
大学以降の人間関係しかなくて

親からたまに
同窓会の事とか
蒼汰から手紙が来ているとか
色々聞いてはいたけど
全無視

そうやって
生きてきました

そうしなきゃ
失ってしまったものの大きさから
目を逸らせなかった
ちゃんと
逃げられなかった」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミニチュアレンカ

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
青春
電車通学をしている高校生の美雪(みゆき)には最近気になるひとがいた。乗っている間じゅう、スマホをずっと見つめている男子高校生。 いや、気になっているのは実のところ別のものである。 それは彼のスマホについている、謎のもの。 長方形で、薄くて、硬そうで、そして色のついた表面。 どうやらそれは『本』らしい。プラスチックでできた、ミニチュアの本。 スマホの中の本。 プラスチックの本。 ふたつが繋ぐ、こいのうた。

僕を待つ君、君を迎えにくる彼、そして僕と彼の話

石河 翠
現代文学
すぐに迷子になってしまうお嬢さん育ちの綾乃さん。 僕は彼女を迎えにいくと、必ず商店街のとある喫茶店に寄る羽目になる。そこでコーヒーを飲みながら、おしゃべりをするのが綾乃さんの至福の時間なのだ。コーヒーを飲み終わる頃になると、必ず「彼」が彼女を迎えに現れて……。 扉絵は、遥彼方さんのイラストをお借りしています。 この作品は、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

ブルーアワーの君

凪司工房
青春
明け方のブルーアワーにだけその交差点で出会う不思議な女性がいた。彼女に出会ってから高校生のタツヤの時間は不思議な歪みを見せ始める。

通学路

南いおり
青春
幼なじみの瀬川一華と野上哲也は中学生の頃から付き合っている。高校3年生になる直前の春休みにある事件が起こる。そのことが2人の歯車を狂わせ始めた。 私が執筆している、「通学路の秘密」の別バージョンです。

桃は食ふとも食らはるるな

虎島沙風
青春
[桃は食っても歳桃という名の桃には食われるな] 〈あらすじ〉  高校一年生の露梨紗夜(つゆなしさや)は、クラスメイトの歳桃宮龍(さいとうくろう)と犬猿の仲だ。お互いのことを殺したいぐらい嫌い合っている。  だが、紗夜が、学年イチの美少女である蒲谷瑞姫(ほたにたまき)に命を狙われていることをきっかけに、二人は瑞姫を倒すまでバディを組むことになる。  二人は傷つけ合いながらも何だかんだで協力し合い、お互いに不本意極まりないことだが心の距離を縮めていく。  ところが、歳桃が瑞姫のことを本気で好きになったと打ち明けて紗夜を裏切る。  紗夜にとって、歳桃の裏切りは予想以上に痛手だった。紗夜は、新生バディの歳桃と瑞姫の手によって、絶体絶命の窮地に陥る。  瀕死の重傷を負った自分を前にしても、眉一つ動かさない歳桃に動揺を隠しきれない紗夜。  今にも自分に止めを刺してこようとする歳桃に対して、紗夜は命乞いをせずに──。 「諦めなよ。僕たちコンビにかなう敵なんてこの世に存在しない。二人が揃った時点で君の負けは確定しているのだから」

夏の抑揚

木緒竜胆
青春
 1学期最後のホームルームが終わると、夕陽旅路は担任の蓮樹先生から不登校のクラスメイト、朝日コモリへの届け物を頼まれる。  夕陽は朝日の自宅に訪問するが、そこで出会ったのは夕陽が知っている朝日ではなく、幻想的な雰囲気を纏う少女だった。聞くと、少女は朝日コモリ当人であるが、ストレスによって姿が変わってしまったらしい。  そんな朝日と夕陽は波長が合うのか、夏休みを二人で過ごすうちに仲を深めていくが。

adolescent days

wasabi
青春
これは普通の僕が普通では無くなる話 2320年  あらゆる生活にロボット、AIが導入され人間の仕事が急速に置き換わる時代。社会は多様性が重視され、独自性が評価される時代となった。そんな時代に将来に不安を抱える僕(鈴木晴人(すずきはると))は夏休みの課題に『自分にとって特別な何かをする』という課題のレポートが出される。特別ってなんだよ…そんなことを胸に思いながら歩いていると一人の中年男性がの垂れていた…

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

処理中です...