鏡よ鏡よ鏡くん

成瀬 慶

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鏡に映る人

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直ぐに帰るのが嫌で
適当に遠回りをしていた
夜風はまだ冷たくて
肌寒い

母が待つ家に帰りついたのは
23時を過ぎていた

遠回りしすぎたな・・・

腹減ってきた
夕飯はいらないって言ったから
何もないだろうな・・・

明日の予習
全然してない
今日は寝るの遅くなるな・・・

ちょっと後悔しながら
マンションの廊下を早歩きで進む

家の明かりは
玄関以外は消えていて
俺は静かに中に入る

???

何だこの気持ちの悪い音は!!
とっさに耳をふさぐ

まるで盛りのついた猫が喧嘩をしているような声
ギシギシと何かが揺れ動き
きしむ音

次の瞬間
俺は理解する

・・・している・・・

いつもは、声を殺しているのだろう
俺が帰りが遅いから
今日くらいは・・・ってことか?

せめて
そんな声出すの
帰らない日にしてくれよ!!

俺はまた、静かに玄関のドアを開けて
出ていく

遠くへ行きたい
できるだけ

足は勝手に
どんどん進んでいく

行くあてもないのに・・・

どのくらい歩いたのかな?

気が付くと
子供のころによく来ていた公園にいた

ココでは
夕方、暗くなるまで遊んでいた

あの頃は
こんな風になるなんて
誰も思っていなかった

母と来ていた
父も仕事は忙しかったけど
休みの日には三人でココに来たことだってあった

懐かしいな・・・

ブランコに腰かけて
少し揺れてみる

涙は出ない
泣く事ではない

だけど
この思いは何だろう?
胸の奥に
ポカリと開いた大きな穴のような・・・

「寂しいの?」

誰かに声をかけられた

俺は声の方を見る

誰もいない

あたりを見渡す

誰もいない

気のせいか・・・

「こっちだよ!」

えっ?
やっぱりいる?

少し怖くなってきた

そろそろ帰ろう・・・

そう思い立ち上がる

すると
結構大きめな声で

「こっちだって!!こっちこっち」

公衆トイレの方だった
ヤバくない?

俺は走って公園から逃げようと走り出す
けど・・・
体が逆再生のように勝手に動き始め
声のした
トイレの中に押し込まれるように入っていった

「いてぇ」祐貴

俺は強く押し倒されたような感覚で
背中を打った

まわりを見るけど
そこには誰もいない

俺は立ち上がり
出ようとするけど
扉は開かない

”ガチャガチャガチャ”

力づくで開けようとしたとき
さっきとは違い
強めの声で

「壊れるだろ!!やめろよ」

諭された?

俺はその声の方を見る

そこには全身が映る鏡があり
俺が映っているはずのそこには
俺ではない
見たことも無い
男が一人
そこに居るかのように映っていた・・・

「公衆トイレっていうのは
みんなのものだぞ!!
大切にしろよ」

その男は
怒ったような口調で
当たり前の正義を口にした

この状況が当たり前ではないのに・・・


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