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腹ペコ魔法使い 父に会う

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姉さんたちはつたない俺の話を全部うんうんと聞いてくれてたびたび「すごいじゃない。」「よく頑張ったわね。」と褒めてくれた。俺はその姉さん達からの褒め言葉だけでも今回の狩りに行ってよかったと思えたが調子に乗った俺はある願望を抱き始めていた。



(姉さんたちがこんなに褒めてくれた。ちゃんとブルフロッグだって自力で狩れた。もしかしたら母さんが俺を褒めてくれるかもしれない。)



母さんは父さんが俺を見捨てた時からほとんど俺を無視した。それはそのうち幼くして死んでしまう息子に余計な情を抱きたくなかった母さんの罪悪感からくる行動だったかもしれない。でも生き残ってしまった俺にとって母さんに無視されるのはただ悲しいだけだった。



他の兄弟に対して母さんが優しく、愛情あふれる扱いをするのを俺は知ってしまっていたからだ。母さんも父さんも忙しかったけど姉さんや兄さんたちには優しかった。それはちょっとしたことだったけど俺にとってそれは喉から手が出るほど羨ましいことだった。



例えば兄さんたちだったら畑仕事や父さんの仕事を手伝ったときに頭を撫でてもらえる。姉さん達だったら針仕事の時に楽しくおしゃべりしながら将来結婚するときの嫁入り道具の支度をしたりして母さんと仲良くできる。



俺には何もなかった。兄さんたちや姉さんたちに与えられる些細な愛情ですら俺はもらえなかった。どうしてもお腹が減って動けなくなり、うずくまっているとこが多い俺にとって空腹の辛さより、俺だけが母さんたちの中に居ないという、あの腹の底から這い上がってくるどうしようもない悲しみと悔しさが辛かった。



でもこれで俺が自分で食料を手に入れて、他の兄弟たちと同じように動けるようになればもしかしたら母さんも、父さんも俺を見てくれるかもしれない。姉さんたちの手伝いをして兄さんたちと一緒に剣の訓練をしてくれるかもしれない。



生まれたばかりの妹のために果実を取ってきてあげたりすれば母さんはもしかして俺を抱きしめてくれるかもしれない。

俺はそんなことを夢見て夕暮れの道を優しい姉さんたちに挟まれながら帰った。



屋敷に着いたが出迎えは料理長兼家令頭のエイギットだけだった。他の家族たちは忙しいのだろう。こちらに気づいたエイギットがフェルナ姉さんの背負う背負い籠を見て驚いた風にこちらを見た。





「これは…おかえりなさいませエレナ様、フェルナ様、ウォルダー様。それでそちらのブルフロッグは…。」



「ただいまもどりました。エイギット。」



「ただいま。」



「ただいまエイギット。そうよ、ウォルが狩ったのよ!たった一人で!しかも森リンゴのお土産付きでね。」



「それはそれは素晴らしい成果でございますな。」



背負い籠の中を覗き込んだエイギットはニコニコしながら俺を褒めた。エイギットを含む多くの使用人は両親に見捨てられた俺を憐れんでいて姉さんたちの食料集めにもたびたび協力していた俺を生かしてくれた大切な人たちだった。



今日森に狩りに行くと言った時もひどく心配していたがこれができるようにならないと俺は死んでしまうのでどうしようもなく、せめてと領民に声をかけてナイフや荒縄を用意してくれた。



「エイギット。今日は私も料理を作るわ。お母さまたちとは別でウォルの分を。」



「かしこまりました。」



エレナ姉さんに恭しく頭を下げるエイギットは家令頭なんだけどうちの料理長でもある。うちは人材が足りなさ過ぎて屋敷の使用人も様々な仕事を兼務しているものが多い。その中でも家令頭と料理長を兼任している使用人なんて帝国中探したってエイギットだけなんじゃないだろうか。



「エイギット、お母様やお父様は今どこに?」



「ご当主様は書斎にてバルド様と共に書類を処理しております。奥様はミレーネ様の元で刺繍をなさっておいでかと。」



「そう。じゃあエレナ姉さんはこのままキッチンに行くから代わりに私と一緒にお父様達に報告しましょう。」



両親の居場所をエイギットに確認したフェルナ姉さんは俺の頭を撫でてそう言った。父さんたちに報告する。それもそうだ。すっかり忘れていたし、好きにしていいとは言われたけど森は父のものだ。そこから採れたものに対して父さんに報告しないなんてことは出来ない。



父さんに報告しに行くことになってそわそわしている俺の横でエイギットが「それではフェルナ様。そちらの籠のものはお預かりいたしましょう。」と言ってフェルナ姉さんから背負い籠を受けとった。



「ウォル。今日の夕飯は楽しみにしていてね。姉さんが美味しい料理を作るから。」



「私も微力ながらお手伝いさせていただきます。」



笑顔のエレナ姉さんに丁寧なお辞儀をするエイギット。そうだ、森リンゴはエイギット達にも分けなくちゃ。いつもお世話になっている使用人たちにも肉を食べさせてあげたいし俺の取り分は減るけどエイギット達にもブルフロッグの肉も分けよう。



「エレナ姉さん、あの。森リンゴは姉さんたちへのお土産なんだけどエイギット達にも分けてあげて欲しいんだ。後ブルフロッグの肉も。」



「エイギット達に?」



「そんな…この籠の中にあるものはウォルダー様のものです。全てウォルダー様がお食べになってよろしいのですよ。」



驚いて首を振るエイギットに近づいて服の裾を掴む。少し引っ張ればエイギットは俺が話しやすいように膝を折ってかがんでくれた。



「エイギット達はいつもこっそり多めにご飯をくれるでしょう?俺それがすごくうれしかったんだ。だからそのお礼。これからも頑張って狩りをして自分の食べる分は自分で狩ってくるけどエイギット達にはそのたびにお世話になるから。」



まだ何もできない俺にはこれくらいしか返せないから受け取ってほしい。その思いを込めてエイギットの目を見つめるとエイギットは涙ぐんで頷いてくれた。



「分かりました。ウォルダー様のお気遣いは使用人たち全てに伝えましょう。私たちの分はありがたく頂戴しますのでウォルダー様はご夕食に出たお食事は全て召し上がっていただいて構いませんよ。」



「うん。そうする。じゃあまたね、エイギット。」



「はい。それでは失礼いたします。」



深く深くお辞儀をしたエイギットとニコニコ笑顔のエレナ姉さんに見送られ俺とフェルナ姉さんは父さんたちがいる書斎へと向かった。





フェルナ姉さんと手を繋ぎながら書斎までの道を歩く。父さんの書斎に入るのは生まれて初めてかもしれない。仕事をする邪魔だから子供たちは基本的に父さんの書斎には入らないし、俺は父さんに好きにしろと言われてからほとんど会うことが無くなっていた。



もしかしたら父さんと会話らしい会話をするのもこれが初めてかもしれない。

ドキドキしながら父さんの書斎前に立つ。隣ではフェルナ姉さんが優しく微笑んでいた。



「大丈夫よウォル。あなたは頑張ったことを言えばいいの。お父様だってウォルが頑張ったことを責めたりしないわ。」



姉さんはぎゅっと手を握ってそう言ってくれる。でも俺は不安のほうが大きかった。だって俺は父さんたちに一度いらないと判断されてしまった子供だ。そんなのが頑張っても父さんたちは認めてくれないんじゃないだろうか。

そんな俺を気にしつつも姉さんはあっさり扉をノックする。



「お父様、フェルナとウォルダーです。入室してもよろしいですか?」



姉さんのノックと名乗りのちょっとした後、父さんの低い「入りなさい。」という声が扉の向こうから聞こえた。



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