ローローとフーブー

きなこもち

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一日目 朝

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その森には不思議な生き物たちが暮らしていました。火の粉の鱗粉を散らす美しい火炎蝶や星屑の湖に住む鱗が星屑で出来ている彗星魚、時進みの泉の底に住む時渡りの大鯰。
不思議な生き物たちはそれぞれ協力したり敵対したり、各々の領分を守りながら広い森の中で暮らしていました。

そんな不思議な生き物たちが暮らしている森の中の東側。森の中でも豊かで穏やかな気候の地域の外れ。そこには立派な木が立っていました。どっしりとした大樹の根元にできたうろの中。そこに彼らは住んでいます。

ピピピと小鳥が鳴く、さわやかな朝の空気が気持ちいい秋の日。

ローローはむにむにと目をこするとぴょんと飛び跳ねて起き上がりました。ローローは丸くてつやつやの宝石みたいな見た目の生き物です。大きさはみかんくらいで、まん丸の体に鋭い黒い目、枝みたいな細い手足が生えています。眉はきりっと上がっていて気が強そうです。

起きた拍子にかぶっていた毛布がずれて真っ白な背中が見えました。隣で眠っている相方はまだ夢の中のようです。

ローローは体が小さく体が丸いので寝返りを打つとコロコロ転がってうっかりベッドから落ちてしまいます。なのでローローの寝る場所は壁際です。相方が反対側に寝ているので相方より朝起きるのが早いローローは毎朝相方の身体を乗り越えてベッドから出ないといけません。
よいしょと相方によじ登り、ふにふに柔らかい白い壁を乗り越えて朝ごはんを作りに行こうとしますが毛布の隙間からにゅっと出てきた白くて短い手がローローを捕まえます。

ローローはじたばたしてその手から逃げ出そうとしますが残念ながらローローを捕まえている寝ぼけた相方はローローの身体より二倍はあるのでなかなか脱出できません。
そもそもこの相方の体は全身モチモチで暴れても手足が埋もれてしまい、うまく足を踏ん張れないのです。

なんとか脱出したローローは身支度をしてやっとキッチンに向かいます。今日の朝ごはんは何にしよう?

ちょっと考えて冷蔵庫にうずらの卵があるのを思い出したローローは今日の朝ごはんのメインをオムレツにすることにしました。さあ、そうと決まったら朝ごはんの支度をしなくては!

ローローは小さな体でくるくると働きます。今日はオムレツなのでパンを焼こうかな。

いつも夜に作ってあるどんぐりパンの生地を取り出してころころ丸めてかまどの中に並べます。今日のパンの形は丸パン。数は二人分で10個です。相方はローローよりずっとたくさん食べるので朝からたくさん焼きます。

パン生地をこねるのは大変なのでローローが一人で暮らしていた時はたまにしか焼かなかったパンですが相方がやって来てからは毎日パンを焼くようになりました。大変だったパン生地作りも力持ちの相方がせっせせっせと毎晩こねてくれるので毎朝焼き立てパンが食べられるようになりました。

ようく焼けるようにパン生地たちをバランスよくオーブンの中に並べます。こんがり美味しく焼けますように。

パンを焼いている間に鍋にお湯を沸かしてお茶の準備です。木苺のジャムも用意して、お皿だって並べてしまいましょう。パンにつけるのはお手製のジャムに市場で買ってきたタンタン高原に住むタンタン牛のバターです。冷蔵庫からバターの器を取り出してオムレツに使う分とパンに塗る分のバターをお皿に分けます。

さあ!メインのオムレツ作りに取り掛かりましょう。フライパンにたっぷりバターを落としてくるりんくるりんと2回まわしたらバターが溶けてふわぁと幸せの匂いが広がります。

フライパンが十分温まってバターが全部溶けたら、ボウルに溶いたうずらの卵を流し込みます。しゅわわわわーっとバターと卵がぶつかって美味しそうな音が鳴ります。

卵が完全に固まる前に箸でぐるぐるかき回し、ふわっふわになったところでぽむんっとオムレツを跳ねさせます。
ぽむぽむとフライパンを揺らしてオムレツをひっくり返すと中はトロトロ、外はふかふかのオムレツが焼けました。

綺麗な黄金色のオムレツが完成!ローロー用の丸いお皿にオムレツを乗せて今度は相方の分を焼かなくては。同じようにフライパンにバターを落とします。さっきより大きなバターの欠片を溶かしたら残りの卵液を全てフライパンに。カチャカチャ、くるくる、トントントン。同じやり方でもう一つ。さっきのオムレツより大き目のふかふかオムレツが完成しました。

オムレツも完成してご機嫌なローロー。盛り付けているとパンの焼き上がる美味しそうな香りがキッチンに漂います。

オーブンを覗き込めばこんがり美味しそうに焼き色のついたパンたちがお行儀よく並んでいます。焼きすぎないうちにあつあつホカホカのどんぐりパンをオーブンの中から出して籠に盛るとテーブルの真ん中に置きます。

オムレツもパンもジャムも準備万端。さあ寝坊助な相方を起こしに行きましょう。

ぱたぱたと寝室に入ればまだ相方は眠っているようです。毛布と白い背中がゆっくりと膨らんでは沈んでいます。
ローローは勢いよくジャンプするとぼむんっ!!と相方の背中に飛び乗りました。

しばらくぽむぽむ相方の上で跳ねているとぐらりと相方が動き出します。ローローは転がり落ちそうになりましたがにゅっと相方の手が伸びてよろけるローローを捕まえました。

おはよう、とにっこり笑う相方が音にならない声で朝の挨拶をします。

「おはよう寝坊助!もうご飯は出来てるから顔洗って来い。」

ローローを抱き上げてふにゃふにゃ笑う緑の目をした真っ白なお餅のような姿の相方はやっと目が覚めたようです。この相方はフーブー。体はローローの二倍以上、大体グレープフルーツの大きさぐらいあるのですがいつも楽し気に笑っている穏やかな生き物です。全身真っ白。触るともちもちすべすべしていて、ほんのり温かいのです。手足は短く三角の形をしていますがとても力持ちです。

抱き上げていたローローを床に降ろしたフーブーは崩れた毛布を直すとローローの手をとってキッチンに向かおうとします。
鼻歌のような空気の抜ける音で歌ってご機嫌です。ローローは朝ごはんの前に先に顔を洗ってくるように言ってフーブーの背中をぷにぷに押して洗面所へ押し込みました。

秋の初めとなれば朝の水はかなり冷えています。冷たい水の感覚にびっくりしつつ顔を洗ってふわふわタオルで拭います。そろそろ冬支度の時期だなぁとフーブーはぼんやり思いました。力持ちのフーブーにはたくさんの仕事が待っています。
きちんと身支度を整えたフーブーがキッチンに入ってテーブルの上を見るとそこにはローロー特製ふわふわオムレツとカリカリふわふわもっちもちのどんぐりパンが並んでいました。ローローは沸かしていたお湯でお茶の準備をしていました。
素敵な朝ごはんです。お腹の減ったフーブーはローローの傍によってお茶のセットをテーブルに運びます。

お茶の準備が出来たらテーブルに着いてローローとフーブーは二人そろっていただきます。

お茶を一口飲んだらまずはどんぐりパンに手を伸ばします。カリカリのパンを二つに割るとドングリ粉の香ばしい香りがします。もっちもちの生地に木苺ジャムがとってもよく合っていくらでも食べられそう。ローローの作ったオムレツはふわふわとろとろで何にもつけなくたって美味しいのです。

おいしいねぇと笑うフーブーに当たり前だろう?と自慢げなローロー。

たくさんあったどんぐりパンも木苺のジャムも、大きなオムレツだって。ぺろっと全部フーブーは平らげてしまいました。そのきれいな食べっぷりに毎度のことながら感心するローロー。お腹が減ってしまうことは悲しいのでフーブーが満足するだけの料理は毎回用意してあるけど大量の食事をきれいに食べきるフーブーを見るたびにもっと作ろうかなとローローは思います。

美味しい朝ごはんをたっぷり食べたら二人一緒にごちそうさまをします。

朝ごはんを済ませたら後片付けはフーブーのお仕事です。お皿やフライパン、ジャムの瓶をフーブーが洗っている間、ローローは今日の探検の準備をします。

バスケットにサンドイッチを詰めて、水筒にはたっぷりフルーツティー。紅茶リンゴで作ったアップルパイも食べやすいように小分けにして紙で包みます。サンドイッチの量はパン一斤分。アップルパイはワンホール。大喰らいのフーブーのためにたくさん料理を詰め込みます。

洗い物が終わったらフーブーも探検の準備をします。お昼ご飯を食べるときに敷く敷物と手洗い用のむくむく石鹸。タオルにナイフ。それと塩の袋。空の大きなガラス瓶をいくつか。荒縄も一巻き分用意します。
用意した荷物を背負い籠に入れたら荷物のフーブーの準備は万端。

その籠の中にローローが準備したバスケットを入れ、保存用の冷たい箱とタオルを入れたたら準備はおしまい。フーブーはローローがすっぽり入ってしまうくらい大きい籠を背負います。

家の戸締りをローローがして玄関先で待つフーブーとローローはいつものように手を繋ぎます。
はぐれないようにしっかりと。東の森は他の森より安全だけど危険なものはあちらこちらに潜んでいます。ローローだけで探検できる場所もあるけれどフーブーが居ればもっと遠くに探検に行けます。

ローローの相方はこう見えて実はとっても強いのです。東の森にやってくるまでの、過酷な旅を今よりずっとできないことが多かったローローを抱えて乗り切ったその実力は今は主に食糧調達に使われます。
フーブーを見上げれば穏やかな目がローローを見つめます。握った手にちょっとだけ力を込めてフーブーの手をローローは引きました。

さあ今日はどこに探検に行こうかな?


真っ黒で小さなローローと真っ白で大きなフーブーは仲良く歩き出しました。

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