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番外編3
結婚披露宴 6
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(アンリ王子の言うことは正しい……そしてその怒る気持ちもとてもよくわかる……だけど……)
マーガレットの気持ちはちょうどアンリ王子とマルガリータ達の間にいる気分だった。マルガリータのされたことと、リュセットに対するマルガリータ達の普段の態度。それを考えると、憤っていた感情が少しずつ鎮静されていく。
と、そんな時だった。
「……ありがとうございます」
綿毛が風に揺られて飛んでいくように、そっと。リュセットはアンリ王子の手を両手で握り返した。
「私はそのお気持ちだけで十分ですわ。ですから、私のためだと言うのであれば、どうかあのお二人を許してあげてくださいませ」
リュセットは懇願するようにそう言って、アンリ王子に向けて微笑んだ。そんなリュセットの健気な様子を見て、アンリ王子は悲しそうな表情で眉間にシワを刻んだ。
「……あなたはどうして、いつもそんな風にいられるのでしょうか? 怒りはないのですか? あなたのドレスは全て取り上げられ、売られ、新しいものは買ってもらえなかったのでしょう?」
リュセットの生活をアンリ王子はすでに聞き出していた。その時初めてアンリ王子は納得したのだ。なぜリュセットがこれほどまでに自己評価が低いのかということを。そしてそれは同時に、怒りを覚えた瞬間でもあったのだ。
そんなアンリ王子の様子を見て、リュセットは再び微笑んだ。それは安心させるような、包み込むような、そんな優しい笑みだった。
「ええ。ですが良い面もあるのです。このように美しいドレスは腰を締め付けなければ着ることができません。それはとても苦しく、時に嘔吐感に苛まれます。私は運良く、それらから解放されていたのです」
そう言ってにっこりと微笑んだリュセットは、その言葉に嘘偽りは感じられないほど穏やかな美しいものだった。
隣で微笑むリュセットのその姿を見て、アンリ王子はリュセットの手に空いた手を重ね合わせて、額をこすりつけた。
「本当にあなたと言う人は……毒すらも浄化するような、清らかさを持っている……」
そんな風に呟くアンリ王子の頭に、リュセットも額をコツンと合わせて微笑んだ。
「いいえ、私の中にも毒はあります。けれどあなたがそうして怒ってくださる気持ちに、私の心は救われたのです」
リュセットはアンリ王子を真っ直ぐ見据えて、はっきりとした口調でこう言った。
「ですが……もう私のために怒らないでください。私はあなたの怒っている姿よりも、笑っている顔を見る方がずっと幸せな気持ちになれるのです」
「リュセット……」
アンリ王子は顔を上げ、ほんのり下がっていた眉を持ち直し、微笑んだ。すると、リュセットはさらに優しい笑みをアンリ王子に向けていた。
マーガレットは何も言わず、その光景を見て、二人はこれからも大丈夫だと感じていた。一時はアンリ王子は危険な思考の人間ではないかと思ったが、リュセットがいるのなら、きっとこの先も大丈夫だと思えたからだ。
「……まぁ、確かに少しやり過ぎた感は否めませんね。お詫びにリュセットの義母親と義姉もこのお城へ移り住んでもらいましょうか」
「それは素敵ですわね! きっとお喜びになりますわ!」
間違いなく喜ぶだろう。マーガレットは確信を持ちながらそう思った。一瞬毒づきそうになる自分の感情を押さえ込みながら、マーガレットは気を取り直してきちんとした会釈を見せた。
「では、私はこれにて。ルイが待っておりますので、この辺りで帰らせていただきますわ」
「マーガレットお姉様は一緒に私達とここで過ごされないのですか?」
リュセットは悲しそうに眉を八の字に変えた。
「ええ、ルイはもう王子ではないと宣言されたから、ここにはいたくないと思うの」
「ですが……」
「そんな顔しないで、また会いにくるから。だからリュセット、幸せになってね」
マーガレットは心からそう言った。その後、満面の笑みを浮かべながら二人に向けて再び会釈をして。
「マーガレットお姉様こそ。お姉様の幸せを心から願っていますわ」
「ありがとう、リュセット。でも私のことは大丈夫だから、心配は無用よ」
リュセットは小さく首を傾げながら、マーガレットの続きの言葉を待っている。そんな彼女の姿を微笑みながら見つめて、こう言った。
「幸せが来ないなら、私から掴みに行くつもりなの。だからね、私は幸せになるに決まっているの!」
マーガレットは歯をむき出して笑った。そう言って去って行くマーガレットの後ろ姿を見つめながら、アンリ王子は独り言のようにぼそりとこう呟いた。
「いつか兄上が言っていた通り、マーガレットは変わった令嬢だな……」
そんなアンリ王子の言葉を聞いていたリュセットは、視線を変えずにこう言った。
「マーガレットお姉様はとてもお優しくて、その上たくましいのですわ」
リュセットは羨ましそうに瞳をキラキラと輝かせて、去っていったマーガレットの後ろ姿を見えなくなった後もじっと見つめていた。
*
こうして、マーガレットの本当の物語は幕を開けることになる。
それはシンデレラとは別の物語として。そしてシンデレラの意地悪な姉、悪役令嬢としてではない、マーガレットが本当の意味での主役となる物語が始まる——。
マーガレットの気持ちはちょうどアンリ王子とマルガリータ達の間にいる気分だった。マルガリータのされたことと、リュセットに対するマルガリータ達の普段の態度。それを考えると、憤っていた感情が少しずつ鎮静されていく。
と、そんな時だった。
「……ありがとうございます」
綿毛が風に揺られて飛んでいくように、そっと。リュセットはアンリ王子の手を両手で握り返した。
「私はそのお気持ちだけで十分ですわ。ですから、私のためだと言うのであれば、どうかあのお二人を許してあげてくださいませ」
リュセットは懇願するようにそう言って、アンリ王子に向けて微笑んだ。そんなリュセットの健気な様子を見て、アンリ王子は悲しそうな表情で眉間にシワを刻んだ。
「……あなたはどうして、いつもそんな風にいられるのでしょうか? 怒りはないのですか? あなたのドレスは全て取り上げられ、売られ、新しいものは買ってもらえなかったのでしょう?」
リュセットの生活をアンリ王子はすでに聞き出していた。その時初めてアンリ王子は納得したのだ。なぜリュセットがこれほどまでに自己評価が低いのかということを。そしてそれは同時に、怒りを覚えた瞬間でもあったのだ。
そんなアンリ王子の様子を見て、リュセットは再び微笑んだ。それは安心させるような、包み込むような、そんな優しい笑みだった。
「ええ。ですが良い面もあるのです。このように美しいドレスは腰を締め付けなければ着ることができません。それはとても苦しく、時に嘔吐感に苛まれます。私は運良く、それらから解放されていたのです」
そう言ってにっこりと微笑んだリュセットは、その言葉に嘘偽りは感じられないほど穏やかな美しいものだった。
隣で微笑むリュセットのその姿を見て、アンリ王子はリュセットの手に空いた手を重ね合わせて、額をこすりつけた。
「本当にあなたと言う人は……毒すらも浄化するような、清らかさを持っている……」
そんな風に呟くアンリ王子の頭に、リュセットも額をコツンと合わせて微笑んだ。
「いいえ、私の中にも毒はあります。けれどあなたがそうして怒ってくださる気持ちに、私の心は救われたのです」
リュセットはアンリ王子を真っ直ぐ見据えて、はっきりとした口調でこう言った。
「ですが……もう私のために怒らないでください。私はあなたの怒っている姿よりも、笑っている顔を見る方がずっと幸せな気持ちになれるのです」
「リュセット……」
アンリ王子は顔を上げ、ほんのり下がっていた眉を持ち直し、微笑んだ。すると、リュセットはさらに優しい笑みをアンリ王子に向けていた。
マーガレットは何も言わず、その光景を見て、二人はこれからも大丈夫だと感じていた。一時はアンリ王子は危険な思考の人間ではないかと思ったが、リュセットがいるのなら、きっとこの先も大丈夫だと思えたからだ。
「……まぁ、確かに少しやり過ぎた感は否めませんね。お詫びにリュセットの義母親と義姉もこのお城へ移り住んでもらいましょうか」
「それは素敵ですわね! きっとお喜びになりますわ!」
間違いなく喜ぶだろう。マーガレットは確信を持ちながらそう思った。一瞬毒づきそうになる自分の感情を押さえ込みながら、マーガレットは気を取り直してきちんとした会釈を見せた。
「では、私はこれにて。ルイが待っておりますので、この辺りで帰らせていただきますわ」
「マーガレットお姉様は一緒に私達とここで過ごされないのですか?」
リュセットは悲しそうに眉を八の字に変えた。
「ええ、ルイはもう王子ではないと宣言されたから、ここにはいたくないと思うの」
「ですが……」
「そんな顔しないで、また会いにくるから。だからリュセット、幸せになってね」
マーガレットは心からそう言った。その後、満面の笑みを浮かべながら二人に向けて再び会釈をして。
「マーガレットお姉様こそ。お姉様の幸せを心から願っていますわ」
「ありがとう、リュセット。でも私のことは大丈夫だから、心配は無用よ」
リュセットは小さく首を傾げながら、マーガレットの続きの言葉を待っている。そんな彼女の姿を微笑みながら見つめて、こう言った。
「幸せが来ないなら、私から掴みに行くつもりなの。だからね、私は幸せになるに決まっているの!」
マーガレットは歯をむき出して笑った。そう言って去って行くマーガレットの後ろ姿を見つめながら、アンリ王子は独り言のようにぼそりとこう呟いた。
「いつか兄上が言っていた通り、マーガレットは変わった令嬢だな……」
そんなアンリ王子の言葉を聞いていたリュセットは、視線を変えずにこう言った。
「マーガレットお姉様はとてもお優しくて、その上たくましいのですわ」
リュセットは羨ましそうに瞳をキラキラと輝かせて、去っていったマーガレットの後ろ姿を見えなくなった後もじっと見つめていた。
*
こうして、マーガレットの本当の物語は幕を開けることになる。
それはシンデレラとは別の物語として。そしてシンデレラの意地悪な姉、悪役令嬢としてではない、マーガレットが本当の意味での主役となる物語が始まる——。
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