サンドリヨン 〜 シンデレラの悪役令嬢(意地悪姉役)に転生したので前職を生かしてマッサージを始めました 〜

浪速ゆう

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番外編3

結婚披露宴 5

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「……!」

 何枚かの鉄板をタイルのように地面に貼り付けられたその場所で、マーガレットは踏み出した足を再び下げた。けれどその感覚は思っていたものは違っていた。

「……あつ、くない?」

(というよりも、むしろ冷たい。それもものすごく……)

 マーガレットはハッとして顔を上げた。マルガリータが丸焦げになると思い、とっさに駆け出そうとしたのだが、マルガリータはその場に腰をついたまま、顔を真っ赤にしながらいそいそと靴を履いている。

(えと、冷たくて踊っていたということ……?)

 冷気を感じるその鉄板はきっと、氷と共に置かれてキンキンに冷やされていたのだろう。そうとも知らずに靴を脱いで踊ろうとしたマルガリータは驚いてああなっていたのだと知り、マーガレットは勢いよく大広間の前方、高みから見下ろしているアンリ王子に目を向けた。

(……根性、捻くれてる……)

 マーガレットは怒りの表情を露わにしながら、ズカズカと再びアンリ王子のいるあの場所へと向かった。
 マルガリータは顔を赤らめたまま、なんとも言えない表情でその場を後にし、イザベラはそんなマルガリータの後を追って行った。そしてマーガレットはアンリ王子の目の前に立ち、王子を見下ろした。

「……失礼を承知で申し上げますが、少々お戯れが過ぎるかと」

 マーガレットは怒っていた。イザベラとマルガリータには正直制裁が必要だと思っていたが、あんなに公衆の面前で辱めを受けるのは少々やりすぎだと思っていたのだ。
 鉄板は熱されてはいなかった。命にも体にも別状はない。が、それとこれとは別だった。

「姉は公衆の面前で辱めを受けました」
「転んでしまったようですからね。なんとも胸が痛い光景でした」

 白々しい言葉にマーガレットはさらに逆上する。

「率直に申し上げて、心を痛めていたようには見えませんでしたわ。私達はアンリ王子にの恨みを買うような、何かしたのでしょうか?」

 リュセットは口を挟もうか、どうしたらいいのかといった様子で二人を見つめている。リュセットからすればアンリ王子がイザベラやマルガリータを辱めようとしていたとは考えにくく、だからこそこの結末とマーガレットの言う言葉に戸惑っていた。

「……同じようなことをしたまでだよ。リュセットに対し、あなた達がしていたこととね」

 アンリ王子は再びにっこりと微笑んでいるが、明らかにその仮面は外れていた。
 外面と内面の違いをその言葉や態度から感じ、マーガレットはさらに言葉を戻す。

「私はリュセットを……いいえ、結局はリュセットの状況を改善できなかったのだから同じことですわね。言い訳はいたしません」

 一呼吸置いてから、マーガレットは畳み掛けるようにさらに言葉を紡いでいく。

「アンリ王子が言いたいことは分かりました。が、それでも納得できないですわ。女性を辱める行為もそう、そしてそれを実行するのが例えばリュセットならば納得もできましょう。けれどアンリ王子、あなたは話が別です。リュセットの代わりに仕返しなどという考えで起こした行動であれば、それは王子のおごりではないでしょうか?」

 そう、もしリュセットがそれを望み、リュセットがあの二人を辱めようとしたのであれば、話は別かもしれない。けれどどう見てもそうではないのはリュセットの様子を見ればよくわかる。だからこそマーガレットは憤りを感じていたのだ。
 アンリ王子がリュセットの代わりに復讐するのは絶対に違う。アンリ王子はリュセットの旦那だけれど、それをリュセットに代わって罰を下すのは上に立つ者のやることではないとマーガレットは思っていた。

「リュセットはドレスを着ずにこの城へと来た。ドレス一つも持たずに、嫁いで来た。王子に会うというのに、着飾ることもせず……あなたなら私が言っているこの意味が分かるよね? そしてそれはしなかったのではなく、できなかったのだと言うことも知っている」

 マーガレットは拳をぎゅっと掴んだ。マーガレットはアンリ王子が言いたいことがよくわかっていた。
 王子の前に立つというのに、お城に出向くというのにリュセットはドレスに袖を通すことなくやってきた。リュセットは貴族の娘だ、それなのに……間違いなくそれは、リュセットにとって恥である。
 リュセットの性格として、きっと母親の洋服が彼女にとっての一張羅でもあり、恥ずかしいなどと考えはなかったかもしれない。しかし世間一般的に言えば、それはとても恥ずかしい事であり、リュセットはそれも知っているはずだ。けれど彼女は文句の一つも言わずそんな姿でやってきたのだ。
 挙句、イザベラ達はそれを承知で彼女を送り出している。ドレスも買い与えようなどという考えもなかった。
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