110 / 114
番外編3
結婚披露宴 2
しおりを挟む
ルイ王子と別れたマーガレットが大広間に戻ると、そこには大勢の貴族が詰めかけていた。あの舞踏会の日を彷彿させる景色だが、それ以上に人が押し寄せている。さすがは王子の結婚式といったところだろうか。
「マーガレット! どこへ行ってたの」
マーガレットの姿を見つけたイザベラが、駆け寄ってきた。その隣にはマルガリータもいる。
「お母様、私は……」
ルイ王子とのことをどう伝えようかと思っていた矢先、部屋の中のオーケストラの奏者が音楽を奏で始めた。と、同時にそれはメインの人物がやって来る合図でもある。誰もが部屋の正面へと視線を向けた。と、同時にイザベラはマーガレットとマルガリータの手を掴んだ。
「二人とも、前へ移動するよ」
「えっ」
「リュセットは私達の家族だからね。当たり前だろう」
よくもあんな扱いをしておいて家族だと言えたものだ。と、マーガレットは呆れかえっていた。
(あれは家族というよりも、使用人だったでしょうが)
グイグイと人ごみをかき分けるように前列へと向かう二人に向かって、マーガレットはこんな言葉を聞こえるように言った。
「けれどお母様、先ほど男爵だと名乗っていたアンリ様、実は第二王子だなんて私知りませんでしたわ。そうとも知らずにお母様もマルガリータお姉様もアンリ王子とはあまり会話をなさらなかったようですが……」
あまり会話が……というよりも、無視を決め込んでいたのは間違いない。格下だと思い甘くみていた結果だ。
マーガレットはそう言った後、困ったように眉尻を下げた。けれどイザベラはめげてなどいない。
「だからこれからしっかり話をしに行くんじゃないか」
どれだけポジティブなのか、とマーガレットはさらに呆れた顔を向けた。
「ところで、マーガレット。あなたこそあのルイ王子と知り合いだったの?」
ふと思い出したように足を止めたマルガリータ。その表情は怒りと不満、そして嫉妬心に満ちている。そしてその問いにマーガレットもギクリと足を止めた。
「そうだよ。ルイ王子があんたの名を呼んでいたじゃないか」
イザベラも応戦する。表情はマルガリータとは違っているが、疑念の色がその表情からうかがえる。
「あの……その話は後にしましょう。ほら、リュセット達を見に最前列へ行かなければならないのではないでしょうか」
マルガリータはまだ言い足りないと言った様子でマーガレットを睨みつけているが、イザベラに腕を引かれ、渋々再び歩き始めた。
マーガレットはホッと肩をなでおろした。ルイ王子が王位継承権を放棄すると言ったあの時、ルイ王子はマーガレットの名を呼び、高台から降りて駆けてきた。アンリ王子の演説があったから注目は外れたものの、この二人があのことを忘れているはずがないと思っていた。だが、聞かれるとは思っていたが突然だったせいか、マーガレットも意表を突かれてしまったのだ。
ひとまず二人の目標はアンリ王子や王族と親密になること。そして、そのためにリュセットを利用しようとしていること。それが目に見えてわかる。そしてマーガレットがそんなことを考えている間に、二人は最前列へとたどり着いた。
「リュセット!」
そう声をかけたのはマルガリータだ。興奮した様子でリュセットに手を振って微笑んでいる。そんな姉達の姿を見つけたリュセットは、いつもと変わらない笑顔で手を振り返した。
「マルガリータお姉様にお母様も! 来てくださってありがとうございます」
リュセットの様子を見て、マルガリータはさらに彼女のそばへと向かう。そして舞台へと上がったかと思えば、一度アンリ王子にお辞儀をし、リュセットの隣の空いた席に座った。
それに合わせてイザベラも舞台へと上がると、アンリ王子にお辞儀をした後、微笑みながら流暢な口調で話を始めた。
「先ほどは男爵だなどと冗談をおっしゃっていたので、まさかアンリ様が王子だとは思いもよりませんでしたわ」
ほほほと笑いながら言うイザベラに、アンリ王子もにこやかに微笑みながらこう言った。
「ええ、今まで外に出ることもない生活を送っていましたので、私の存在を知らない人が多いので結婚の発表まで伏せておいたのです。どうやら世間では私は死んだことになっていたようなので」
「あら、そうでしたか。こちらこそ知らなかったとはいえ、失礼な態度をとってしまっていたのではないかと心配になっておりました」
「いえ、お気になさらず」
イザベラは再びお辞儀をして見せ、アンリ王子はといえば、はははと笑っている。そんな様子をマーガレットさめざめとした様子で、舞台に上がらずに見つめていた。マーガレットからすればとんだ茶番があの上では繰り広げられていると思っていたのだ。
(私が冗談交えて言った、王子にそっくりな男爵も知らないとか言っておいて、お母様との会話ではあっさり認めているあたり、敢えて私達の態度を確認していたんでしょうね……)
ルイ王子もマーガレットと初めに会った時は騎士団長のカインだと名乗っていた。あの兄にしてこの弟ありか……などと呆れた視線を向けていると、ちょうどアンリ王子と目が合った。
マーガレットは瞬時に口元に微笑みを乗せそのまま軽く会釈をすると、アンリ王子は微笑みながら白くて細長い人差し指をそっと口元に当てた。
「マーガレット! どこへ行ってたの」
マーガレットの姿を見つけたイザベラが、駆け寄ってきた。その隣にはマルガリータもいる。
「お母様、私は……」
ルイ王子とのことをどう伝えようかと思っていた矢先、部屋の中のオーケストラの奏者が音楽を奏で始めた。と、同時にそれはメインの人物がやって来る合図でもある。誰もが部屋の正面へと視線を向けた。と、同時にイザベラはマーガレットとマルガリータの手を掴んだ。
「二人とも、前へ移動するよ」
「えっ」
「リュセットは私達の家族だからね。当たり前だろう」
よくもあんな扱いをしておいて家族だと言えたものだ。と、マーガレットは呆れかえっていた。
(あれは家族というよりも、使用人だったでしょうが)
グイグイと人ごみをかき分けるように前列へと向かう二人に向かって、マーガレットはこんな言葉を聞こえるように言った。
「けれどお母様、先ほど男爵だと名乗っていたアンリ様、実は第二王子だなんて私知りませんでしたわ。そうとも知らずにお母様もマルガリータお姉様もアンリ王子とはあまり会話をなさらなかったようですが……」
あまり会話が……というよりも、無視を決め込んでいたのは間違いない。格下だと思い甘くみていた結果だ。
マーガレットはそう言った後、困ったように眉尻を下げた。けれどイザベラはめげてなどいない。
「だからこれからしっかり話をしに行くんじゃないか」
どれだけポジティブなのか、とマーガレットはさらに呆れた顔を向けた。
「ところで、マーガレット。あなたこそあのルイ王子と知り合いだったの?」
ふと思い出したように足を止めたマルガリータ。その表情は怒りと不満、そして嫉妬心に満ちている。そしてその問いにマーガレットもギクリと足を止めた。
「そうだよ。ルイ王子があんたの名を呼んでいたじゃないか」
イザベラも応戦する。表情はマルガリータとは違っているが、疑念の色がその表情からうかがえる。
「あの……その話は後にしましょう。ほら、リュセット達を見に最前列へ行かなければならないのではないでしょうか」
マルガリータはまだ言い足りないと言った様子でマーガレットを睨みつけているが、イザベラに腕を引かれ、渋々再び歩き始めた。
マーガレットはホッと肩をなでおろした。ルイ王子が王位継承権を放棄すると言ったあの時、ルイ王子はマーガレットの名を呼び、高台から降りて駆けてきた。アンリ王子の演説があったから注目は外れたものの、この二人があのことを忘れているはずがないと思っていた。だが、聞かれるとは思っていたが突然だったせいか、マーガレットも意表を突かれてしまったのだ。
ひとまず二人の目標はアンリ王子や王族と親密になること。そして、そのためにリュセットを利用しようとしていること。それが目に見えてわかる。そしてマーガレットがそんなことを考えている間に、二人は最前列へとたどり着いた。
「リュセット!」
そう声をかけたのはマルガリータだ。興奮した様子でリュセットに手を振って微笑んでいる。そんな姉達の姿を見つけたリュセットは、いつもと変わらない笑顔で手を振り返した。
「マルガリータお姉様にお母様も! 来てくださってありがとうございます」
リュセットの様子を見て、マルガリータはさらに彼女のそばへと向かう。そして舞台へと上がったかと思えば、一度アンリ王子にお辞儀をし、リュセットの隣の空いた席に座った。
それに合わせてイザベラも舞台へと上がると、アンリ王子にお辞儀をした後、微笑みながら流暢な口調で話を始めた。
「先ほどは男爵だなどと冗談をおっしゃっていたので、まさかアンリ様が王子だとは思いもよりませんでしたわ」
ほほほと笑いながら言うイザベラに、アンリ王子もにこやかに微笑みながらこう言った。
「ええ、今まで外に出ることもない生活を送っていましたので、私の存在を知らない人が多いので結婚の発表まで伏せておいたのです。どうやら世間では私は死んだことになっていたようなので」
「あら、そうでしたか。こちらこそ知らなかったとはいえ、失礼な態度をとってしまっていたのではないかと心配になっておりました」
「いえ、お気になさらず」
イザベラは再びお辞儀をして見せ、アンリ王子はといえば、はははと笑っている。そんな様子をマーガレットさめざめとした様子で、舞台に上がらずに見つめていた。マーガレットからすればとんだ茶番があの上では繰り広げられていると思っていたのだ。
(私が冗談交えて言った、王子にそっくりな男爵も知らないとか言っておいて、お母様との会話ではあっさり認めているあたり、敢えて私達の態度を確認していたんでしょうね……)
ルイ王子もマーガレットと初めに会った時は騎士団長のカインだと名乗っていた。あの兄にしてこの弟ありか……などと呆れた視線を向けていると、ちょうどアンリ王子と目が合った。
マーガレットは瞬時に口元に微笑みを乗せそのまま軽く会釈をすると、アンリ王子は微笑みながら白くて細長い人差し指をそっと口元に当てた。
5
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる