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番外編3
結婚披露宴 1
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*
リュセットは白い屋根のない馬車に乗り、アンリ王子と共に城下を周り、そのままお城へと戻ってきた。雅な白のウエディングドレスと輝かしいティアラを付けた様子は立派なプリンセスそのものだった。
「リュセット!」
ちょうど馬車を降り、城内へと入ったところで、マーガレットは手に抱えるほどの花束を持って、リュセットへと駆け出した。
「結婚、おめでとうリュセット」
「マーガレットお姉様。ありがとうございます」
リュセットは愛らしく微笑み、マーガレットが運んできた花束を受け取った。大輪の花束から香る華やかな香りを嗅いだリュセット。その後すぐにマーガレットへと視線を向けると、微笑んでいた表情は一気にくぐもった。
「マーガレットお姉様、泣いていらしたのでしょうか……?」
マーガレットの瞳は赤く、瞼は水分を含んで腫れている。そんな様子を見てリュセットは片手をマーガレットの手に重ね合わせた。するとマーガレットの背後からやってきたのはルイ王子だ。マーガレットから視線をスライドさせルイ王子を見た瞬間、リュセットは再び華が咲いたように満面の笑みを浮かべた。
「けれどどうやら、今回の涙は今までのものとは違ったようですわね」
「リュセット、色々とありがとう。あなたが私の知らないところで色々と動いてくれていたのでしょう?」
ルイ王子に聞いたのだ。リュセットが結婚式を祝うパレードに出ている間に、花を買いに行き、その時に全てを聞いた。リュセットはどうして結婚を承諾したのかも、そして、彼女がどうして……。
「私は気づいていましたから。マーガレットお姉様がルイ王子のことをお慕いしていることを。あの舞踏会の後もずっと元気がなかったことも」
「なんて言ったらいいのか……言葉が見つからないわ」
ルイ王子はマーガレットの肩に手を乗せてた。
「そちらも無事パレードは済んだようだな」
「はい。誰かさんが王家から退くとか言うから、こちらは大変なことになっているのですが」
リュセットの背後から現れたのはアンリ王子。アンリ王子はリュセットの肩を抱くようにそっと隣に立ち、ルイ王子を見て笑っている。
「初めまして、アンリ王子。私はリュセットの姉のマーガレットと申します」
「……?」
アンリ王子はマーガレットの自己紹介に首を傾げた。マーガレットはドレスの裾を持ち上げてきちんと挨拶をした後、にーっこりという擬音が聞こえてきそうなほどの笑みをアンリ王子に向けてこう言った。
「失礼ながらアンリ王子にそっくりな片田舎の男爵貴族の殿方を知っておりまして、彼のことはご存知ありませんでしょうか?」
「はっ!」
弾けるように笑ったのはルイ王子だ。珍しく大口を開けて笑っている様子を見やった後、アンリ王子は笑顔を崩さずにこう言った。
「残念ながら私は長らく城に篭り、あまり人と接してこない日々を送ってきました。ですのであなたのおっしゃる方を見たことはないですが、それほど似ているのであれば、是非一度お会いしてみたいものです」
「そうでしたか。この城に到着した際に別室へと案内してくださった方ですので、てっきりお城とも縁の深い方かと想像しておりましたわ」
「なるほど。でしたら王や兄上はご存知かもしれませんね。私は先ほども言った通り接する人は限られておりましたので」
「そうですか」
ほほほとマーガレットは笑い、アンリ王子もはははと笑っている。なんとも言えない異様な光景。リュセットは二人が話す内容が良くわからずただ首を傾げて二人を交互に見やるだけ。
「それよりアンリ、こんなところで油を売ってないでさっさと中に入れ。パレードが終わったのなら中で皆が待ってる。披露宴はこれからだろう」
結婚披露宴。マーガレットは何かを忘れているような、何か胸に突っかかるものを思い出していた。けれどそれが何かは思い出せずにいた。
「そうですね。兄上は出てくれないのですか?」
「いや、出るつもりはない」
「待って、私は出るわ!」
二人の間に切り込んだのはマーガレットだ。マーガレットは今回のことですっかり忘れていたが、イザベラとマルガリータがこの後どうなるのか思い出していた。
「ねぇ、いいかしら?」
マーガレットはルイ王子とアンリ王子達に向かってそう言った。するとリュセットは笑顔で首を縦に振り、ルイ王子に関しては好きにしたらいいというような反応だ。
「出たいなら出てくればいい。俺が行くとややこしいことになるから外で待っている」
ルイ王子は王位を継がないと発言したばかりだ。そんな中披露宴に出れば周りから質問責めにあうだろう。質問責めにあうだけならいいかもしれないが、今日の主役はアンリ王子とリュセットだ。二人の邪魔立てはしたくないというところが、ルイ王子の本音だった。
「ところで……披露宴ということは、二人はすでに式は挙げたの?」
マーガレットはリュセットの薬指に輝く指輪を見つけた。リュセットとアンリ王子はお互いを見つめ合った後、リュセットが微笑みながら返事を戻した。
「ええ、あの発表をする前に王族の方のみで、城内のチャペルで挙げたのです」
「そうだったの」
その言葉を聞いて、ホッとした。ということは知らない間にことが済んでいたわけではないのだと確信して。
鉄板の上で踊ることになるのか、はたまた目を突かれることになるのか……悲劇な結末がやってくるのであれば、それを阻止しなければという使命感をマーガレットはどこか感じていた。
「お姉様、披露宴は大広間で行われます。私達は準備がありますので、先に失礼致しますわ」
「ええ、私ももう少ししたら向かうわ」
マーガレットはルイ王子に向き合った。
「ところでルイ、あなたは王や王妃と話をしなくてもいいの?」
「もう十分と言うほどした。だから俺はいい」
はぁ、とため息を吐くように息を吐き出し、ほんの少し疲れた色をその表情に滲ませた。
彼はこの国の第一王子だ。いや、厳密に言えは“だった”だが。そもそも王や王妃が地位を抜けることに関してそう簡単に了承するはずもなかっただろうことはその表情からうかがえる。
王と王妃が今どう思っているのか……まさか勘当なんていう最悪なシナリオになっていなければいいけれど……と、そんな風に考えていると、やはりマーガレットの心に罪悪感がむくむくと生まれる。
そんな釈然としない気持ちの中で、マーガレットが静かにルイ王子の小指をキュッと掴んだ。
「なんだ?」
遠慮がちに触れるマーガレットにルイ王子は不思議そうな顔を彼女に向けた。けれどマーガレットは懸命に微笑みだけを返した。
(大変なのはルイで、自分ではない。傷つくのは私じゃない。罪悪感を受けるのも本来はルイなのだから、私が悲しんだり、悲しい顔をしてはいけない——)
「じゃあ、私は行ってくるわ。少ししたら隙を見て抜けてくるから」
「ああ、俺もやることがあるから城の南側に馬車小屋がある。そこで落ち合おう」
「わかったわ」
マーガレットがルイ王子の手を離そうとしたその時だった。離したはずの手が、今度はマーガレットの手を掴んで、そのままぐいっと引き寄せられた。まるで何かに吸い寄せられでもするかのように、マーガレットはルイ王子の胸の中に飛び込んでいた。
「……な、なに?」
驚いて、そんな声を上げるが、ルイ王子はただ遠くを見るような目でそっとこう言った。
「いや、なんとなく……お前がこのまま消えてしまいそうな気がした」
普段強気なルイ王子が言った弱音とも取れるその言葉に、マーガレットはそっとルイ王子の背中に手を回しながら、こう囁いた。
「大丈夫。全てはもうすぐ終わるもの」
「……どういう意味だ?」
わけがわからない様子でルイ王子はしかめっ面を向けた。そんな顔を見ながらマーガレットは笑い、皺の寄った眉間に人差し指でそれを伸ばした。
「気をつけて。眉間にシワが寄ってる。歳を取った時にその表情がそこに刻まれてしまうわよ」
「ふん、威厳が出ていいではないか」
そう言ってマーガレットの手を掴み、そっとマーガレットの唇にキスを落とした。
リュセットは白い屋根のない馬車に乗り、アンリ王子と共に城下を周り、そのままお城へと戻ってきた。雅な白のウエディングドレスと輝かしいティアラを付けた様子は立派なプリンセスそのものだった。
「リュセット!」
ちょうど馬車を降り、城内へと入ったところで、マーガレットは手に抱えるほどの花束を持って、リュセットへと駆け出した。
「結婚、おめでとうリュセット」
「マーガレットお姉様。ありがとうございます」
リュセットは愛らしく微笑み、マーガレットが運んできた花束を受け取った。大輪の花束から香る華やかな香りを嗅いだリュセット。その後すぐにマーガレットへと視線を向けると、微笑んでいた表情は一気にくぐもった。
「マーガレットお姉様、泣いていらしたのでしょうか……?」
マーガレットの瞳は赤く、瞼は水分を含んで腫れている。そんな様子を見てリュセットは片手をマーガレットの手に重ね合わせた。するとマーガレットの背後からやってきたのはルイ王子だ。マーガレットから視線をスライドさせルイ王子を見た瞬間、リュセットは再び華が咲いたように満面の笑みを浮かべた。
「けれどどうやら、今回の涙は今までのものとは違ったようですわね」
「リュセット、色々とありがとう。あなたが私の知らないところで色々と動いてくれていたのでしょう?」
ルイ王子に聞いたのだ。リュセットが結婚式を祝うパレードに出ている間に、花を買いに行き、その時に全てを聞いた。リュセットはどうして結婚を承諾したのかも、そして、彼女がどうして……。
「私は気づいていましたから。マーガレットお姉様がルイ王子のことをお慕いしていることを。あの舞踏会の後もずっと元気がなかったことも」
「なんて言ったらいいのか……言葉が見つからないわ」
ルイ王子はマーガレットの肩に手を乗せてた。
「そちらも無事パレードは済んだようだな」
「はい。誰かさんが王家から退くとか言うから、こちらは大変なことになっているのですが」
リュセットの背後から現れたのはアンリ王子。アンリ王子はリュセットの肩を抱くようにそっと隣に立ち、ルイ王子を見て笑っている。
「初めまして、アンリ王子。私はリュセットの姉のマーガレットと申します」
「……?」
アンリ王子はマーガレットの自己紹介に首を傾げた。マーガレットはドレスの裾を持ち上げてきちんと挨拶をした後、にーっこりという擬音が聞こえてきそうなほどの笑みをアンリ王子に向けてこう言った。
「失礼ながらアンリ王子にそっくりな片田舎の男爵貴族の殿方を知っておりまして、彼のことはご存知ありませんでしょうか?」
「はっ!」
弾けるように笑ったのはルイ王子だ。珍しく大口を開けて笑っている様子を見やった後、アンリ王子は笑顔を崩さずにこう言った。
「残念ながら私は長らく城に篭り、あまり人と接してこない日々を送ってきました。ですのであなたのおっしゃる方を見たことはないですが、それほど似ているのであれば、是非一度お会いしてみたいものです」
「そうでしたか。この城に到着した際に別室へと案内してくださった方ですので、てっきりお城とも縁の深い方かと想像しておりましたわ」
「なるほど。でしたら王や兄上はご存知かもしれませんね。私は先ほども言った通り接する人は限られておりましたので」
「そうですか」
ほほほとマーガレットは笑い、アンリ王子もはははと笑っている。なんとも言えない異様な光景。リュセットは二人が話す内容が良くわからずただ首を傾げて二人を交互に見やるだけ。
「それよりアンリ、こんなところで油を売ってないでさっさと中に入れ。パレードが終わったのなら中で皆が待ってる。披露宴はこれからだろう」
結婚披露宴。マーガレットは何かを忘れているような、何か胸に突っかかるものを思い出していた。けれどそれが何かは思い出せずにいた。
「そうですね。兄上は出てくれないのですか?」
「いや、出るつもりはない」
「待って、私は出るわ!」
二人の間に切り込んだのはマーガレットだ。マーガレットは今回のことですっかり忘れていたが、イザベラとマルガリータがこの後どうなるのか思い出していた。
「ねぇ、いいかしら?」
マーガレットはルイ王子とアンリ王子達に向かってそう言った。するとリュセットは笑顔で首を縦に振り、ルイ王子に関しては好きにしたらいいというような反応だ。
「出たいなら出てくればいい。俺が行くとややこしいことになるから外で待っている」
ルイ王子は王位を継がないと発言したばかりだ。そんな中披露宴に出れば周りから質問責めにあうだろう。質問責めにあうだけならいいかもしれないが、今日の主役はアンリ王子とリュセットだ。二人の邪魔立てはしたくないというところが、ルイ王子の本音だった。
「ところで……披露宴ということは、二人はすでに式は挙げたの?」
マーガレットはリュセットの薬指に輝く指輪を見つけた。リュセットとアンリ王子はお互いを見つめ合った後、リュセットが微笑みながら返事を戻した。
「ええ、あの発表をする前に王族の方のみで、城内のチャペルで挙げたのです」
「そうだったの」
その言葉を聞いて、ホッとした。ということは知らない間にことが済んでいたわけではないのだと確信して。
鉄板の上で踊ることになるのか、はたまた目を突かれることになるのか……悲劇な結末がやってくるのであれば、それを阻止しなければという使命感をマーガレットはどこか感じていた。
「お姉様、披露宴は大広間で行われます。私達は準備がありますので、先に失礼致しますわ」
「ええ、私ももう少ししたら向かうわ」
マーガレットはルイ王子に向き合った。
「ところでルイ、あなたは王や王妃と話をしなくてもいいの?」
「もう十分と言うほどした。だから俺はいい」
はぁ、とため息を吐くように息を吐き出し、ほんの少し疲れた色をその表情に滲ませた。
彼はこの国の第一王子だ。いや、厳密に言えは“だった”だが。そもそも王や王妃が地位を抜けることに関してそう簡単に了承するはずもなかっただろうことはその表情からうかがえる。
王と王妃が今どう思っているのか……まさか勘当なんていう最悪なシナリオになっていなければいいけれど……と、そんな風に考えていると、やはりマーガレットの心に罪悪感がむくむくと生まれる。
そんな釈然としない気持ちの中で、マーガレットが静かにルイ王子の小指をキュッと掴んだ。
「なんだ?」
遠慮がちに触れるマーガレットにルイ王子は不思議そうな顔を彼女に向けた。けれどマーガレットは懸命に微笑みだけを返した。
(大変なのはルイで、自分ではない。傷つくのは私じゃない。罪悪感を受けるのも本来はルイなのだから、私が悲しんだり、悲しい顔をしてはいけない——)
「じゃあ、私は行ってくるわ。少ししたら隙を見て抜けてくるから」
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「わかったわ」
マーガレットがルイ王子の手を離そうとしたその時だった。離したはずの手が、今度はマーガレットの手を掴んで、そのままぐいっと引き寄せられた。まるで何かに吸い寄せられでもするかのように、マーガレットはルイ王子の胸の中に飛び込んでいた。
「……な、なに?」
驚いて、そんな声を上げるが、ルイ王子はただ遠くを見るような目でそっとこう言った。
「いや、なんとなく……お前がこのまま消えてしまいそうな気がした」
普段強気なルイ王子が言った弱音とも取れるその言葉に、マーガレットはそっとルイ王子の背中に手を回しながら、こう囁いた。
「大丈夫。全てはもうすぐ終わるもの」
「……どういう意味だ?」
わけがわからない様子でルイ王子はしかめっ面を向けた。そんな顔を見ながらマーガレットは笑い、皺の寄った眉間に人差し指でそれを伸ばした。
「気をつけて。眉間にシワが寄ってる。歳を取った時にその表情がそこに刻まれてしまうわよ」
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