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番外編2
王子の決断 2
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「アンリ」
「なんでしょうか」
フーッと背後の窓の外を見やりながら、ルイ王子は背中越しにアンリ王子に問いかける。
「お前、俺が結婚するかどうかを心配していると言ったな」
「……そうですが?」
背を向けてしまったルイ王子の表情を読むことはできない。一体何が言いたいのかと探っていると、ルイ王子は再びこんな問いをアンリ王子に投げた。
「では俺の結婚か、この国の行く末か。どちらか一方を取れと言われたら、お前ならどちらを取る?」
どちらか一方……そんな問いかけに、アンリ王子は迷いなくこう答えた。
「どちらか一方というのはあり得ませんね。兄上の結婚はこの国の将来に関わる。すなわち、兄上の結婚とこの国の行く末はイコールなのですから」
ルイ王子は反応を示さない。振り向く様子もない。そんな中でアンリ王子はさらにこう言葉を付け加える。
「……ですが、それが仮にそれが切り離せるのであれば、僕の答えは後者です。国の存続が優先ですから」
アンリ王子の返答に、ルイ王子は何も言わない。表情も読めず一体何を考えているのかとルイ王子の考えを探っている時、ルイ王子の座る椅子がくるりと回った。アンリ王子と向き合う形になったルイ王子は——ほくそ笑んでいた。
「お前はやはり、さっさと結婚して表舞台に上がれ」
ルイ王子は立ち上がり、アンリ王子の元へと向かう。そんなルイ王子の方は見もせず、アンリ王子はため息をこぼした。
「ですからそれは——」
「俺はこの家を出る」
あっさりとそう言いのけたルイ王子の言葉の意味を、噛み砕くように黙り込むアンリ王子。そんな弟の肩に手を乗せて、さらにこう言った。
「お前は17年も舞台裏にいたのだ。今度は俺が舞台裏に回る番だ」
「……兄上、正気ですか?」
ルイ王子が何を言っているのかをやっと理解できた時、リュセットは驚いたように口元を手で覆い隠した。アンリ王子は驚いた様子も見せず、ただ静かに視線だけでルイ王子を追っていた。
「それは、マーガレットの為なのでしょうか?」
「馬鹿を言うな。それはおまけだ」
アンリ王子は目を細めて、ルイ王子を見やる。
(……おまけ、ですか。おまけでもマーガレットとのことは念頭にあるというわけか)
そもそもそのおまけというのも本当なのかどうか……アンリ王子は疑問を抱いていた。
「考えていたことではある。俺よりもお前の方がこの国のことを考えている。才もある。あとは実績だけだろう」
「では僕に王位を譲ると?」
「ああ。そして俺は王子の地位も捨てる」
「……! それは本気ですか? 僕はてっきり王位継承を辞退するだけなのだと……」
ルイ王子はゆっくりと首を縦に振った。アンリ王子の驚いた表情がよほど面白かったのだろう。ルイ王子はいつも以上にしたり顔だ。
「言っただろう。俺はこの家を出ると」
「ですが……」
「騎士になってもいい。俺の剣の腕はカインの墨付だ」
最近鈍っていると言われたばかりだというのに、ルイ王子は偉そうにそう言った。
「それに商売に興味があるのでな。そっちの手はずは整っている」
「……それでは、兄上の裏舞台というのはどういうものなのでしょうか? 僕を舞台へと押し上げ、自分は舞台の袖にもいないではないですか」
「いるだろう。俺はお前の様子と国の様子を見届けるつもりだ。ただしお前とは違い、城内からではなく城外からだがな」
意表を突かれた様子で、アンリ王子は険しい顔つきをしている。
「ですが、王と王妃が承諾するはずもないでしょう。それに——」
はっとした。その瞬間に、アンリ王子の手をそっと掴み、隣で微笑みを浮かべるのはリュセットだった。
「……私も、説得するのをお手伝いいたします」
リュセットは何かを願うかのように、アンリ王子の手を自分の額に当てた。そしてそのあとすぐにルイ王子へとこう告げた。
「私にできることがあればいつでもおしゃってくださいませ。ですからどうか、姉のことをよろしくお願いいたします」
「ふん、マーガレットのことはおまけだと言っただろう。俺が王子を捨てたところで俺がマーガレットを、そしてマーガレットが俺を選ぶとも限らんだろう。マーガレットに関しては王子だからなどというのは言い訳かもしれないのだからな」
そんなルイ王子の言葉を聞いて、リュセットは再びふわりと微笑んだ。
「大丈夫ですわ。姉ならきっと、ルイ王子を選びますわ」
(そこに、気持ちがあるのならば、地位を捨てる覚悟を持つルイ王子を、きっとお姉様が無下にするはずがありませんもの……)
ルイ王子はマーガレットのことをおまけだと言うが、きっとそうではないとリュセットは思っていた。
——こうして極秘裏に王子達は動き出した。それぞれの未来を胸に……。
「なんでしょうか」
フーッと背後の窓の外を見やりながら、ルイ王子は背中越しにアンリ王子に問いかける。
「お前、俺が結婚するかどうかを心配していると言ったな」
「……そうですが?」
背を向けてしまったルイ王子の表情を読むことはできない。一体何が言いたいのかと探っていると、ルイ王子は再びこんな問いをアンリ王子に投げた。
「では俺の結婚か、この国の行く末か。どちらか一方を取れと言われたら、お前ならどちらを取る?」
どちらか一方……そんな問いかけに、アンリ王子は迷いなくこう答えた。
「どちらか一方というのはあり得ませんね。兄上の結婚はこの国の将来に関わる。すなわち、兄上の結婚とこの国の行く末はイコールなのですから」
ルイ王子は反応を示さない。振り向く様子もない。そんな中でアンリ王子はさらにこう言葉を付け加える。
「……ですが、それが仮にそれが切り離せるのであれば、僕の答えは後者です。国の存続が優先ですから」
アンリ王子の返答に、ルイ王子は何も言わない。表情も読めず一体何を考えているのかとルイ王子の考えを探っている時、ルイ王子の座る椅子がくるりと回った。アンリ王子と向き合う形になったルイ王子は——ほくそ笑んでいた。
「お前はやはり、さっさと結婚して表舞台に上がれ」
ルイ王子は立ち上がり、アンリ王子の元へと向かう。そんなルイ王子の方は見もせず、アンリ王子はため息をこぼした。
「ですからそれは——」
「俺はこの家を出る」
あっさりとそう言いのけたルイ王子の言葉の意味を、噛み砕くように黙り込むアンリ王子。そんな弟の肩に手を乗せて、さらにこう言った。
「お前は17年も舞台裏にいたのだ。今度は俺が舞台裏に回る番だ」
「……兄上、正気ですか?」
ルイ王子が何を言っているのかをやっと理解できた時、リュセットは驚いたように口元を手で覆い隠した。アンリ王子は驚いた様子も見せず、ただ静かに視線だけでルイ王子を追っていた。
「それは、マーガレットの為なのでしょうか?」
「馬鹿を言うな。それはおまけだ」
アンリ王子は目を細めて、ルイ王子を見やる。
(……おまけ、ですか。おまけでもマーガレットとのことは念頭にあるというわけか)
そもそもそのおまけというのも本当なのかどうか……アンリ王子は疑問を抱いていた。
「考えていたことではある。俺よりもお前の方がこの国のことを考えている。才もある。あとは実績だけだろう」
「では僕に王位を譲ると?」
「ああ。そして俺は王子の地位も捨てる」
「……! それは本気ですか? 僕はてっきり王位継承を辞退するだけなのだと……」
ルイ王子はゆっくりと首を縦に振った。アンリ王子の驚いた表情がよほど面白かったのだろう。ルイ王子はいつも以上にしたり顔だ。
「言っただろう。俺はこの家を出ると」
「ですが……」
「騎士になってもいい。俺の剣の腕はカインの墨付だ」
最近鈍っていると言われたばかりだというのに、ルイ王子は偉そうにそう言った。
「それに商売に興味があるのでな。そっちの手はずは整っている」
「……それでは、兄上の裏舞台というのはどういうものなのでしょうか? 僕を舞台へと押し上げ、自分は舞台の袖にもいないではないですか」
「いるだろう。俺はお前の様子と国の様子を見届けるつもりだ。ただしお前とは違い、城内からではなく城外からだがな」
意表を突かれた様子で、アンリ王子は険しい顔つきをしている。
「ですが、王と王妃が承諾するはずもないでしょう。それに——」
はっとした。その瞬間に、アンリ王子の手をそっと掴み、隣で微笑みを浮かべるのはリュセットだった。
「……私も、説得するのをお手伝いいたします」
リュセットは何かを願うかのように、アンリ王子の手を自分の額に当てた。そしてそのあとすぐにルイ王子へとこう告げた。
「私にできることがあればいつでもおしゃってくださいませ。ですからどうか、姉のことをよろしくお願いいたします」
「ふん、マーガレットのことはおまけだと言っただろう。俺が王子を捨てたところで俺がマーガレットを、そしてマーガレットが俺を選ぶとも限らんだろう。マーガレットに関しては王子だからなどというのは言い訳かもしれないのだからな」
そんなルイ王子の言葉を聞いて、リュセットは再びふわりと微笑んだ。
「大丈夫ですわ。姉ならきっと、ルイ王子を選びますわ」
(そこに、気持ちがあるのならば、地位を捨てる覚悟を持つルイ王子を、きっとお姉様が無下にするはずがありませんもの……)
ルイ王子はマーガレットのことをおまけだと言うが、きっとそうではないとリュセットは思っていた。
——こうして極秘裏に王子達は動き出した。それぞれの未来を胸に……。
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