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番外編2
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「まだ気にされているのですか?」
アンリ王子は紅茶を一口飲んだ後、ティーカップをソーサーの上に置きながら柔らかな物腰でそう聞いた。
「えっ? あっ、いえ……」
声をかけられるまで物思いに耽っていたことにすら気づいていなかったリュセットは、慌てて笑顔を取り繕い、ティーカップを手に取った。中に入ったアールグレイの紅茶はとっくに人肌の温度にまで下がっていたことに気づき、どれくらい自分が呆けていたのかを実感し、申し訳ない気持ちが胸の内に膨らんだ。
「申し訳ありません。せっかく美味しい紅茶を淹れてくださっていたのに」
「ははっ、お気になさらず。それを淹れたのは私ではありませんから」
アンリ王子は微笑みながらそう言って、再び紅茶を一口飲んだ。
リュセットはアンリ王子に連れられて、別室で紅茶をいただいていた。白いテーブルクロスの上には焼き菓子も並べられている。甘い香りと紅茶の香りがリュセットの表情を笑顔に変えていく。
「ひとつ、スコーンをいただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんですよ。ひとつと言わずいくつでも」
リュセットがスコーンを一口大にちぎり、それを口に運んだ後、思わずその小さな口をおさえた。
「美味しい……!」
「それは良かった。あなたのその表情を見ればパティシエも喜ぶことでしょう」
「ぜひパティシエの方にお伝えくださいませ。今まで食べたどのスコーンよりも美味しいですと。特にこのベリーがゴロゴロと入っているのがすごく美味しいですわ」
ドライフルーツが入っているものを食べたことはあっても、生のまま具材に混ぜて焼かれたものを食べるのは初めてだった様子。リュセットはいたく感動し、二口目を頬張った。
そんなリュセットの様子を楽しそうに見つめ、アンリ王子は紅茶のカップをソーサーに置いた。
「ひとつ聞いても良いですか?」
微笑みが溢れんばかりのリュセットは、一旦紅茶を飲んで口に含んでいたスコーンを食べ干した。
「はい、なんでしょうか?」
「あなたのお姉様、マーガレット嬢のことです」
マーガレットの名前を聞いて、リュセットは思わず姿勢を正し直すように椅子に座る。
「率直な意見が聞きたいのですが、マーガレットは兄上のことをまだ想っていらっしゃると思いますか?」
アンリはテーブルの上で両手を合わせ、真っ直ぐリュセットを見つめている。その視線を受けて、リュセットも真っ直ぐアンリ王子を見つめながらこう言った。
「たぶん……としか、今は言えませんわ」
申し訳なさそうにリュセットは視線の先を紅茶のカップへと向けた。そこに映る自分の表情を見た後、再び顔をスッと上げ、さらに言葉を紡ぐ。
「ただ、私はマーガレットお姉様がルイ王子のことを本当に好いていらっしゃったのを知っています。二人に何があったのかは分かりません。姉もどこか心を閉ざすようにそのことに関しては頑なですし……」
「そうですか」
アンリ王子は考え込むように視線を部屋の中へと移動させた。特にどこに向けるというわけでもなく、ただ考え込むような仕草で。
「私の兄上はご覧との通り堅物です。ですから兄上の相手はそう簡単に見つけられるものでもありませんでした」
「まぁ!」
リュセットはくすくすと笑った。アンリ王子が冗談で言っているのだと思っているのだろう。だがアンリ王子はもちろん本気だった。
「私としてはリュセット、あなたさえ了承してくだされば、兄上との結婚を推し進めたいと考えています」
「……」
アンリ王子の言葉に、リュセットは再びぎこちない笑みをその顔に乗せた。どこか恐縮するような、申し訳ないといった表情だ。
「安心してください。私はあなたの意見を尊重いたします」
「……ありがとうございます」
その言葉を聞いて、リュセットはホッと小さな肩をなでおろす。そんな姿を見つめながら、アンリ王子はにこやかに話を続ける。
「それに私はあなたの姉であるマーガレットと兄上が恋仲だとも知りませんでした。ですのでもし二人がまだ想い合っているのであれば、と考えているのですが……」
「でしたらもう一度、私がマーガレットお姉様に確認してみましょう。……お姉様が素直に胸の内を打ち明けてくださるかは分かりませんが……」
リュセットは心許ないといった表情を見せながらそう言い、そんな彼女に向けてアンリ王子は微笑みを浮かべた。そしてそのまま席を立ち、リュセットの隣に立った後に彼女の手にそっと自分の手を重ねた。
「あなたなら大丈夫ですよ。私はリュセットを信じています」
リュセットはそっと乗せられた手の温もりを感じながら、隣に立つこの第二王子の顔を見上げた。
「もしダメであれば他の手を考えるまでです。兄上が結婚しなければこの国の行く末にも関わりますから、他の手を講じてでもなんとか相手を探し出します」
「本当にこの国のことを考えていらっしゃるんですわね……あ、いえ、王子様であれば当たり前かもしれませんが……」
ははっ、と笑いながらアンリ王子はリュセットの言葉を受け流した。リュセットはそんなアンリ王子を見つめながらこう言った。
「そんなにもこの国のことやルイ王子のことを考えているのであれば、本当ならばアンリ王子は私とルイ王子の結婚話を進めたい、ですわよね……もし、マーガレットお姉様とルイ王子が本当に修復できない関係なのであれば……」
言いながらリュセットは同時にこう思った。
(けれどそれを再び提案しないのは、きっとアンリ王子のお気遣いなのでしょう。姉と恋仲だった相手を、その妹に推薦するのはきっと気がひけるはずですもの……)
「まだ気にされているのですか?」
アンリ王子は紅茶を一口飲んだ後、ティーカップをソーサーの上に置きながら柔らかな物腰でそう聞いた。
「えっ? あっ、いえ……」
声をかけられるまで物思いに耽っていたことにすら気づいていなかったリュセットは、慌てて笑顔を取り繕い、ティーカップを手に取った。中に入ったアールグレイの紅茶はとっくに人肌の温度にまで下がっていたことに気づき、どれくらい自分が呆けていたのかを実感し、申し訳ない気持ちが胸の内に膨らんだ。
「申し訳ありません。せっかく美味しい紅茶を淹れてくださっていたのに」
「ははっ、お気になさらず。それを淹れたのは私ではありませんから」
アンリ王子は微笑みながらそう言って、再び紅茶を一口飲んだ。
リュセットはアンリ王子に連れられて、別室で紅茶をいただいていた。白いテーブルクロスの上には焼き菓子も並べられている。甘い香りと紅茶の香りがリュセットの表情を笑顔に変えていく。
「ひとつ、スコーンをいただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんですよ。ひとつと言わずいくつでも」
リュセットがスコーンを一口大にちぎり、それを口に運んだ後、思わずその小さな口をおさえた。
「美味しい……!」
「それは良かった。あなたのその表情を見ればパティシエも喜ぶことでしょう」
「ぜひパティシエの方にお伝えくださいませ。今まで食べたどのスコーンよりも美味しいですと。特にこのベリーがゴロゴロと入っているのがすごく美味しいですわ」
ドライフルーツが入っているものを食べたことはあっても、生のまま具材に混ぜて焼かれたものを食べるのは初めてだった様子。リュセットはいたく感動し、二口目を頬張った。
そんなリュセットの様子を楽しそうに見つめ、アンリ王子は紅茶のカップをソーサーに置いた。
「ひとつ聞いても良いですか?」
微笑みが溢れんばかりのリュセットは、一旦紅茶を飲んで口に含んでいたスコーンを食べ干した。
「はい、なんでしょうか?」
「あなたのお姉様、マーガレット嬢のことです」
マーガレットの名前を聞いて、リュセットは思わず姿勢を正し直すように椅子に座る。
「率直な意見が聞きたいのですが、マーガレットは兄上のことをまだ想っていらっしゃると思いますか?」
アンリはテーブルの上で両手を合わせ、真っ直ぐリュセットを見つめている。その視線を受けて、リュセットも真っ直ぐアンリ王子を見つめながらこう言った。
「たぶん……としか、今は言えませんわ」
申し訳なさそうにリュセットは視線の先を紅茶のカップへと向けた。そこに映る自分の表情を見た後、再び顔をスッと上げ、さらに言葉を紡ぐ。
「ただ、私はマーガレットお姉様がルイ王子のことを本当に好いていらっしゃったのを知っています。二人に何があったのかは分かりません。姉もどこか心を閉ざすようにそのことに関しては頑なですし……」
「そうですか」
アンリ王子は考え込むように視線を部屋の中へと移動させた。特にどこに向けるというわけでもなく、ただ考え込むような仕草で。
「私の兄上はご覧との通り堅物です。ですから兄上の相手はそう簡単に見つけられるものでもありませんでした」
「まぁ!」
リュセットはくすくすと笑った。アンリ王子が冗談で言っているのだと思っているのだろう。だがアンリ王子はもちろん本気だった。
「私としてはリュセット、あなたさえ了承してくだされば、兄上との結婚を推し進めたいと考えています」
「……」
アンリ王子の言葉に、リュセットは再びぎこちない笑みをその顔に乗せた。どこか恐縮するような、申し訳ないといった表情だ。
「安心してください。私はあなたの意見を尊重いたします」
「……ありがとうございます」
その言葉を聞いて、リュセットはホッと小さな肩をなでおろす。そんな姿を見つめながら、アンリ王子はにこやかに話を続ける。
「それに私はあなたの姉であるマーガレットと兄上が恋仲だとも知りませんでした。ですのでもし二人がまだ想い合っているのであれば、と考えているのですが……」
「でしたらもう一度、私がマーガレットお姉様に確認してみましょう。……お姉様が素直に胸の内を打ち明けてくださるかは分かりませんが……」
リュセットは心許ないといった表情を見せながらそう言い、そんな彼女に向けてアンリ王子は微笑みを浮かべた。そしてそのまま席を立ち、リュセットの隣に立った後に彼女の手にそっと自分の手を重ねた。
「あなたなら大丈夫ですよ。私はリュセットを信じています」
リュセットはそっと乗せられた手の温もりを感じながら、隣に立つこの第二王子の顔を見上げた。
「もしダメであれば他の手を考えるまでです。兄上が結婚しなければこの国の行く末にも関わりますから、他の手を講じてでもなんとか相手を探し出します」
「本当にこの国のことを考えていらっしゃるんですわね……あ、いえ、王子様であれば当たり前かもしれませんが……」
ははっ、と笑いながらアンリ王子はリュセットの言葉を受け流した。リュセットはそんなアンリ王子を見つめながらこう言った。
「そんなにもこの国のことやルイ王子のことを考えているのであれば、本当ならばアンリ王子は私とルイ王子の結婚話を進めたい、ですわよね……もし、マーガレットお姉様とルイ王子が本当に修復できない関係なのであれば……」
言いながらリュセットは同時にこう思った。
(けれどそれを再び提案しないのは、きっとアンリ王子のお気遣いなのでしょう。姉と恋仲だった相手を、その妹に推薦するのはきっと気がひけるはずですもの……)
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