103 / 114
番外編2
対面 3
しおりを挟む
「あっはっはっはっ!」
お腹を抱えて笑うアンリ王子のその様子に、部屋にいる誰もが驚いた顔で彼を見つめた。ルイ王子は特段に驚きを見せた。アンリ王子がそんな風に笑う姿を見たのは初めてのことだったからだ。
幼い頃から病弱で城の中で腫れ物にでも触るかのように育てられていたせいか、これほどまでに感情を表すことは今まで一度もなかったからだ。人をなるべく避け、接触も最低限。そんなアンリ王子が見せた初めての一面だった。
「コホン、失礼」
一度咳払いをして気持ちを整えるが、アンリ王子の目尻はまだあの笑いに引っ張られているように見える。そんな様子を見ながら、リュセットも微笑みを向けた。
「リュセット、やはりあなたは私が思っていた通り、聡明な方のようです」
アンリ王子のその言葉と態度を見て、ルイ王子はほう、と何かを感じ取った。
「なんだ、お前たちはすでに顔見知りだったのか?」
「ええ、舞踏会の日に知り合いました」
「そうか……」
ルイ王子はまじまじと二人を見つめた後、ニヤリとほくそ笑んだ。その意味が分からずリュセットが首を傾けた時、ルイ王子がこんな言葉を吐き出した。
「リュセットと言ったな。お前はどうやら俺との結婚に踏み切る気は無いようだ」
それを言うのであればルイ王子もリュセットと結婚することに前向きでは無い様子。それにも関わらずそのことには触れずにさらにこう言った。
「——ならば代わりに、アンリと結婚するというのはどうか。相手が誰であれ、申し出があれば結婚を受け入れる心構えなのだろう? ならばアンリはどうかと提案している。こやつもさっさと相手を見つけて結婚せねば不自由な身の上なのでな」
「不自由な……?」
ルイ王子の言葉の意味の全てを理解できず、リュセットは戸惑いながらも恐縮している。そんな彼女の隣に立つアンリ王子はピシャリと意見を否定した。
「こちらがダメならあちらで……などと言う言い方は女性に対して失礼ですよ」
アンリ王子はリュセットへと向き直り、困ったように眉の角を落とした。
「リュセット、我が兄の無礼をお許しください」
「いえ、私は気にしていませんわ」
微笑みを返すリュセットの表情を見て、アンリ王子もホッとしたように微笑んだ。
「ここまで来るのに長時間馬車に揺られて疲れたでしょう? お茶の用意をさせるのでこちらで少しゆっくりされてはいかがでしょう?」
アンリ王子は入口へと手を差し伸べてそう言った。リュセットは再び膝を少し折って会釈をしながら、その提案を了承する笑みを浮かべた。
リュセットはアンリ王子の後ろを追って部屋の入口へと向かう。その際に背後を何度もちらちらと見やり、ルイ王子を気にかける。が、ルイ王子は座っている椅子ごと背後の窓へと向いているため、リュセットからはルイ王子の肩より上の背面しか見えない。
「あの……ひとつだけ、私のお節介な話を聞いてくださいますか?」
部屋を去る直前、リュセットは思い切ってそう言った。ルイ王子は振り返らなければ、反応も示さない。リュセットの足は止まり、どうしたものかと考えを巡らせる。反応はなくとも、この距離でこのボリュームで言ったのだ。確実に言葉は届いているはず。
(聞くとも言われていないけれど、聞かないとも言われていない……ですわよね?)
良いように解釈し、怒られた時はその時に考えようと意を決したリュセットは、再び口を開いた。
「お二人に何があったのかは分かりませんが、姉のマーガレットはきっと何かに悩んでいるのだと思います。姉は舞踏会の日、二日間とも泣いておりました。それはきっとルイ王子のことと関係しているのだと思うのです。だから——」
ルイ王子は何も言わず、ただ左手を少し上に上げた後、一度だけ前後に指を振った。それと同時に、入口に立っていたカインがリュセットの肩にそっと触れ、リュセットが部屋から出るようにと促している。
そんな様子を受けて、リュセットは開いていた口を静かに閉じた。何故ならば、リュセットでもその態度の意味が理解できたからだ。
ルイ王子のそのサインは、部屋からリュセットを連れ出せという合図なのだということを。
お腹を抱えて笑うアンリ王子のその様子に、部屋にいる誰もが驚いた顔で彼を見つめた。ルイ王子は特段に驚きを見せた。アンリ王子がそんな風に笑う姿を見たのは初めてのことだったからだ。
幼い頃から病弱で城の中で腫れ物にでも触るかのように育てられていたせいか、これほどまでに感情を表すことは今まで一度もなかったからだ。人をなるべく避け、接触も最低限。そんなアンリ王子が見せた初めての一面だった。
「コホン、失礼」
一度咳払いをして気持ちを整えるが、アンリ王子の目尻はまだあの笑いに引っ張られているように見える。そんな様子を見ながら、リュセットも微笑みを向けた。
「リュセット、やはりあなたは私が思っていた通り、聡明な方のようです」
アンリ王子のその言葉と態度を見て、ルイ王子はほう、と何かを感じ取った。
「なんだ、お前たちはすでに顔見知りだったのか?」
「ええ、舞踏会の日に知り合いました」
「そうか……」
ルイ王子はまじまじと二人を見つめた後、ニヤリとほくそ笑んだ。その意味が分からずリュセットが首を傾けた時、ルイ王子がこんな言葉を吐き出した。
「リュセットと言ったな。お前はどうやら俺との結婚に踏み切る気は無いようだ」
それを言うのであればルイ王子もリュセットと結婚することに前向きでは無い様子。それにも関わらずそのことには触れずにさらにこう言った。
「——ならば代わりに、アンリと結婚するというのはどうか。相手が誰であれ、申し出があれば結婚を受け入れる心構えなのだろう? ならばアンリはどうかと提案している。こやつもさっさと相手を見つけて結婚せねば不自由な身の上なのでな」
「不自由な……?」
ルイ王子の言葉の意味の全てを理解できず、リュセットは戸惑いながらも恐縮している。そんな彼女の隣に立つアンリ王子はピシャリと意見を否定した。
「こちらがダメならあちらで……などと言う言い方は女性に対して失礼ですよ」
アンリ王子はリュセットへと向き直り、困ったように眉の角を落とした。
「リュセット、我が兄の無礼をお許しください」
「いえ、私は気にしていませんわ」
微笑みを返すリュセットの表情を見て、アンリ王子もホッとしたように微笑んだ。
「ここまで来るのに長時間馬車に揺られて疲れたでしょう? お茶の用意をさせるのでこちらで少しゆっくりされてはいかがでしょう?」
アンリ王子は入口へと手を差し伸べてそう言った。リュセットは再び膝を少し折って会釈をしながら、その提案を了承する笑みを浮かべた。
リュセットはアンリ王子の後ろを追って部屋の入口へと向かう。その際に背後を何度もちらちらと見やり、ルイ王子を気にかける。が、ルイ王子は座っている椅子ごと背後の窓へと向いているため、リュセットからはルイ王子の肩より上の背面しか見えない。
「あの……ひとつだけ、私のお節介な話を聞いてくださいますか?」
部屋を去る直前、リュセットは思い切ってそう言った。ルイ王子は振り返らなければ、反応も示さない。リュセットの足は止まり、どうしたものかと考えを巡らせる。反応はなくとも、この距離でこのボリュームで言ったのだ。確実に言葉は届いているはず。
(聞くとも言われていないけれど、聞かないとも言われていない……ですわよね?)
良いように解釈し、怒られた時はその時に考えようと意を決したリュセットは、再び口を開いた。
「お二人に何があったのかは分かりませんが、姉のマーガレットはきっと何かに悩んでいるのだと思います。姉は舞踏会の日、二日間とも泣いておりました。それはきっとルイ王子のことと関係しているのだと思うのです。だから——」
ルイ王子は何も言わず、ただ左手を少し上に上げた後、一度だけ前後に指を振った。それと同時に、入口に立っていたカインがリュセットの肩にそっと触れ、リュセットが部屋から出るようにと促している。
そんな様子を受けて、リュセットは開いていた口を静かに閉じた。何故ならば、リュセットでもその態度の意味が理解できたからだ。
ルイ王子のそのサインは、部屋からリュセットを連れ出せという合図なのだということを。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる