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番外編2
対面 3
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「あっはっはっはっ!」
お腹を抱えて笑うアンリ王子のその様子に、部屋にいる誰もが驚いた顔で彼を見つめた。ルイ王子は特段に驚きを見せた。アンリ王子がそんな風に笑う姿を見たのは初めてのことだったからだ。
幼い頃から病弱で城の中で腫れ物にでも触るかのように育てられていたせいか、これほどまでに感情を表すことは今まで一度もなかったからだ。人をなるべく避け、接触も最低限。そんなアンリ王子が見せた初めての一面だった。
「コホン、失礼」
一度咳払いをして気持ちを整えるが、アンリ王子の目尻はまだあの笑いに引っ張られているように見える。そんな様子を見ながら、リュセットも微笑みを向けた。
「リュセット、やはりあなたは私が思っていた通り、聡明な方のようです」
アンリ王子のその言葉と態度を見て、ルイ王子はほう、と何かを感じ取った。
「なんだ、お前たちはすでに顔見知りだったのか?」
「ええ、舞踏会の日に知り合いました」
「そうか……」
ルイ王子はまじまじと二人を見つめた後、ニヤリとほくそ笑んだ。その意味が分からずリュセットが首を傾けた時、ルイ王子がこんな言葉を吐き出した。
「リュセットと言ったな。お前はどうやら俺との結婚に踏み切る気は無いようだ」
それを言うのであればルイ王子もリュセットと結婚することに前向きでは無い様子。それにも関わらずそのことには触れずにさらにこう言った。
「——ならば代わりに、アンリと結婚するというのはどうか。相手が誰であれ、申し出があれば結婚を受け入れる心構えなのだろう? ならばアンリはどうかと提案している。こやつもさっさと相手を見つけて結婚せねば不自由な身の上なのでな」
「不自由な……?」
ルイ王子の言葉の意味の全てを理解できず、リュセットは戸惑いながらも恐縮している。そんな彼女の隣に立つアンリ王子はピシャリと意見を否定した。
「こちらがダメならあちらで……などと言う言い方は女性に対して失礼ですよ」
アンリ王子はリュセットへと向き直り、困ったように眉の角を落とした。
「リュセット、我が兄の無礼をお許しください」
「いえ、私は気にしていませんわ」
微笑みを返すリュセットの表情を見て、アンリ王子もホッとしたように微笑んだ。
「ここまで来るのに長時間馬車に揺られて疲れたでしょう? お茶の用意をさせるのでこちらで少しゆっくりされてはいかがでしょう?」
アンリ王子は入口へと手を差し伸べてそう言った。リュセットは再び膝を少し折って会釈をしながら、その提案を了承する笑みを浮かべた。
リュセットはアンリ王子の後ろを追って部屋の入口へと向かう。その際に背後を何度もちらちらと見やり、ルイ王子を気にかける。が、ルイ王子は座っている椅子ごと背後の窓へと向いているため、リュセットからはルイ王子の肩より上の背面しか見えない。
「あの……ひとつだけ、私のお節介な話を聞いてくださいますか?」
部屋を去る直前、リュセットは思い切ってそう言った。ルイ王子は振り返らなければ、反応も示さない。リュセットの足は止まり、どうしたものかと考えを巡らせる。反応はなくとも、この距離でこのボリュームで言ったのだ。確実に言葉は届いているはず。
(聞くとも言われていないけれど、聞かないとも言われていない……ですわよね?)
良いように解釈し、怒られた時はその時に考えようと意を決したリュセットは、再び口を開いた。
「お二人に何があったのかは分かりませんが、姉のマーガレットはきっと何かに悩んでいるのだと思います。姉は舞踏会の日、二日間とも泣いておりました。それはきっとルイ王子のことと関係しているのだと思うのです。だから——」
ルイ王子は何も言わず、ただ左手を少し上に上げた後、一度だけ前後に指を振った。それと同時に、入口に立っていたカインがリュセットの肩にそっと触れ、リュセットが部屋から出るようにと促している。
そんな様子を受けて、リュセットは開いていた口を静かに閉じた。何故ならば、リュセットでもその態度の意味が理解できたからだ。
ルイ王子のそのサインは、部屋からリュセットを連れ出せという合図なのだということを。
お腹を抱えて笑うアンリ王子のその様子に、部屋にいる誰もが驚いた顔で彼を見つめた。ルイ王子は特段に驚きを見せた。アンリ王子がそんな風に笑う姿を見たのは初めてのことだったからだ。
幼い頃から病弱で城の中で腫れ物にでも触るかのように育てられていたせいか、これほどまでに感情を表すことは今まで一度もなかったからだ。人をなるべく避け、接触も最低限。そんなアンリ王子が見せた初めての一面だった。
「コホン、失礼」
一度咳払いをして気持ちを整えるが、アンリ王子の目尻はまだあの笑いに引っ張られているように見える。そんな様子を見ながら、リュセットも微笑みを向けた。
「リュセット、やはりあなたは私が思っていた通り、聡明な方のようです」
アンリ王子のその言葉と態度を見て、ルイ王子はほう、と何かを感じ取った。
「なんだ、お前たちはすでに顔見知りだったのか?」
「ええ、舞踏会の日に知り合いました」
「そうか……」
ルイ王子はまじまじと二人を見つめた後、ニヤリとほくそ笑んだ。その意味が分からずリュセットが首を傾けた時、ルイ王子がこんな言葉を吐き出した。
「リュセットと言ったな。お前はどうやら俺との結婚に踏み切る気は無いようだ」
それを言うのであればルイ王子もリュセットと結婚することに前向きでは無い様子。それにも関わらずそのことには触れずにさらにこう言った。
「——ならば代わりに、アンリと結婚するというのはどうか。相手が誰であれ、申し出があれば結婚を受け入れる心構えなのだろう? ならばアンリはどうかと提案している。こやつもさっさと相手を見つけて結婚せねば不自由な身の上なのでな」
「不自由な……?」
ルイ王子の言葉の意味の全てを理解できず、リュセットは戸惑いながらも恐縮している。そんな彼女の隣に立つアンリ王子はピシャリと意見を否定した。
「こちらがダメならあちらで……などと言う言い方は女性に対して失礼ですよ」
アンリ王子はリュセットへと向き直り、困ったように眉の角を落とした。
「リュセット、我が兄の無礼をお許しください」
「いえ、私は気にしていませんわ」
微笑みを返すリュセットの表情を見て、アンリ王子もホッとしたように微笑んだ。
「ここまで来るのに長時間馬車に揺られて疲れたでしょう? お茶の用意をさせるのでこちらで少しゆっくりされてはいかがでしょう?」
アンリ王子は入口へと手を差し伸べてそう言った。リュセットは再び膝を少し折って会釈をしながら、その提案を了承する笑みを浮かべた。
リュセットはアンリ王子の後ろを追って部屋の入口へと向かう。その際に背後を何度もちらちらと見やり、ルイ王子を気にかける。が、ルイ王子は座っている椅子ごと背後の窓へと向いているため、リュセットからはルイ王子の肩より上の背面しか見えない。
「あの……ひとつだけ、私のお節介な話を聞いてくださいますか?」
部屋を去る直前、リュセットは思い切ってそう言った。ルイ王子は振り返らなければ、反応も示さない。リュセットの足は止まり、どうしたものかと考えを巡らせる。反応はなくとも、この距離でこのボリュームで言ったのだ。確実に言葉は届いているはず。
(聞くとも言われていないけれど、聞かないとも言われていない……ですわよね?)
良いように解釈し、怒られた時はその時に考えようと意を決したリュセットは、再び口を開いた。
「お二人に何があったのかは分かりませんが、姉のマーガレットはきっと何かに悩んでいるのだと思います。姉は舞踏会の日、二日間とも泣いておりました。それはきっとルイ王子のことと関係しているのだと思うのです。だから——」
ルイ王子は何も言わず、ただ左手を少し上に上げた後、一度だけ前後に指を振った。それと同時に、入口に立っていたカインがリュセットの肩にそっと触れ、リュセットが部屋から出るようにと促している。
そんな様子を受けて、リュセットは開いていた口を静かに閉じた。何故ならば、リュセットでもその態度の意味が理解できたからだ。
ルイ王子のそのサインは、部屋からリュセットを連れ出せという合図なのだということを。
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