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番外編2
対面 2
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ちょうどそんな時だった。開け放たれたままの扉をコンコン、とノックする音を聞いて、リュセットは背後を振り返った。
「失礼します」
「あなたは……!」
リュセットの驚いた顔を見て、アンリ王子は笑みを目尻とその薄い口元に乗せながらリュセットに目配せをした。
「兄上の結婚相手のご令嬢が見つかったとの報告を受けたもので、拝見しに参りました」
「結婚すると決まったわけではないだろう」
(……兄上? アンリ様はルイ王子の弟君でしたのね……)
言われてみればその髪や瞳の色は同じだ。けれどその割に似ても似つかない体格の差がある。アンリ王子はなんというか、どこか儚げな線の細さを感じる。リュセットはそんなことを考えながら、この二人の王子をまじまじと見つめていると、アンリ王子はリュセットの隣に立ち、再び微笑みを携えてこう言った。
「此の期に及んで何を言っているのですか。二十歳にもなる王子が相手を見つけていないなど、前例がないのですよ」
「ふん、古いしきたりに囚われすぎるといつか大きな決断を見誤るぞ」
「あの……!」
アンリとルイ王子のやり取りを側で聞きながら、リュセットは二人の会話に飛び込むように口を挟んだ。口を挟んだことを詫びるように、丁寧にお辞儀をしてから再び口を開いた。
「私もそのことでお話があり、参りました」
二人はピタリと会話を止め、リュセットへと視線を向けている。ルイ王子に関しては肘を机の上に立て、指を組み合わせてリュセットを食い入るように見ている。そんなルイ王子に向かってリュセットは真っ直ぐな瞳でこう言った。
「結婚に関しては辞退したいと考えております」
「それはなぜ?」
リュセットの言葉に反応を示したのはルイ王子ではなく、アンリ王子だった。アンリ王子は隣に立つリュセットへまじまじとした様子で見つめている。
「ルイ王子の心には姉の姿が映っているからですわ」
リュセットはアンリ王子に向き合い、花が咲き誇るように微笑んだ。そしてそのままルイ王子へと再び視線を戻し、こう言葉を付け加えた。
「私は姉のマーガレットがマッサージの勉強をしていることは知っていました。そしてその練習をするのに騎士のカイン様とお会いしてるということも知っていました」
背後の入り口には、アンリ王子を呼びに行き、この部屋へと戻ってきていたカインが立っている。その彼をちらりと見た後、リュセットは再びルイ王子へと視線を戻した。
「カイン様だと思っていたお相手が実はルイ王子だったと、先ほどカイン様と姉のマーガレットが話していたのを偶然聞いてしまい……」
その言葉にルイ王子は再びピクリと眉を動かした後、扉のすぐ隣に立つカインへと鋭い視線を投げた。カインは気づかないふりをしながら、リュセットの背中を見つめている。
「ルイ王子との結婚は出来ないと判断いたしました」
「それでは……兄上があなたの姉上のことを思っていなければ、あなたは兄上と結婚を承諾していた。という解釈でいいのですか? あなたの口ぶりではそのように聞こえますが……?」
アンリ王子のその問いに、リュセットはほんのり目を伏せながら、照れたようにこう言った。
「ルイ王子は素敵な方です。ダンスを踊ったあの舞踏会で、不慣れな私を優しくリードしてくださいました。言葉数は少なくとも、その態度からもそれは感じられましたから……けれど、それは相手が王子様でなくとも同じ気持ちでいます。もしも私で良いとおっしゃる方がいらっしゃるのであれば、私は嫁ぐつもりです」
リュセットの言葉を聞いて、アンリ王子はぼそりとこう呟いた。
「どうしてあなたはそれほどまでに自己評価が低いのでしょうか……?」
アンリ王子の言葉を聞き漏らしたリュセットは、顔を上げて彼を見た。けれどアンリ王子はただ微笑んでリュセットを見つめているだけだった。そんな中でルイ王子が再び口を開いた。
「結局のところ結婚を承諾に来たのか、それとも辞退しに来たのか、どっちなんだ?」
「私は、ルイ王子が姉のことをどう思っていらっしゃるのかを知りたくて参りました」
背筋を伸ばし凛と立つリュセットは、たとえ身に纏うドレスが古びたものでも華やかさに欠けていたものだとしても、その美しさが陰ることはない。
「俺はとっくにマーガレットのことなどなんとも思ってはいない」
「それは、嘘にございます」
リュセットは溢れんばかりの笑みをその顔にのせ、瞳を輝かせながらこう言った。
「私のこの服を見た時のルイ王子の顔は、今の言葉とは裏腹でした。表情や瞳とは時に口よりも雄弁なのですわ」
リュセットは普段イザベラやマルガリータに蔑まれている割に、人の気持ちを読むのには長けていた。それがイザベラやマルガリータに効力を成さないのはきっと、彼女があの二人を心から好いているからなのだろう。
「失礼します」
「あなたは……!」
リュセットの驚いた顔を見て、アンリ王子は笑みを目尻とその薄い口元に乗せながらリュセットに目配せをした。
「兄上の結婚相手のご令嬢が見つかったとの報告を受けたもので、拝見しに参りました」
「結婚すると決まったわけではないだろう」
(……兄上? アンリ様はルイ王子の弟君でしたのね……)
言われてみればその髪や瞳の色は同じだ。けれどその割に似ても似つかない体格の差がある。アンリ王子はなんというか、どこか儚げな線の細さを感じる。リュセットはそんなことを考えながら、この二人の王子をまじまじと見つめていると、アンリ王子はリュセットの隣に立ち、再び微笑みを携えてこう言った。
「此の期に及んで何を言っているのですか。二十歳にもなる王子が相手を見つけていないなど、前例がないのですよ」
「ふん、古いしきたりに囚われすぎるといつか大きな決断を見誤るぞ」
「あの……!」
アンリとルイ王子のやり取りを側で聞きながら、リュセットは二人の会話に飛び込むように口を挟んだ。口を挟んだことを詫びるように、丁寧にお辞儀をしてから再び口を開いた。
「私もそのことでお話があり、参りました」
二人はピタリと会話を止め、リュセットへと視線を向けている。ルイ王子に関しては肘を机の上に立て、指を組み合わせてリュセットを食い入るように見ている。そんなルイ王子に向かってリュセットは真っ直ぐな瞳でこう言った。
「結婚に関しては辞退したいと考えております」
「それはなぜ?」
リュセットの言葉に反応を示したのはルイ王子ではなく、アンリ王子だった。アンリ王子は隣に立つリュセットへまじまじとした様子で見つめている。
「ルイ王子の心には姉の姿が映っているからですわ」
リュセットはアンリ王子に向き合い、花が咲き誇るように微笑んだ。そしてそのままルイ王子へと再び視線を戻し、こう言葉を付け加えた。
「私は姉のマーガレットがマッサージの勉強をしていることは知っていました。そしてその練習をするのに騎士のカイン様とお会いしてるということも知っていました」
背後の入り口には、アンリ王子を呼びに行き、この部屋へと戻ってきていたカインが立っている。その彼をちらりと見た後、リュセットは再びルイ王子へと視線を戻した。
「カイン様だと思っていたお相手が実はルイ王子だったと、先ほどカイン様と姉のマーガレットが話していたのを偶然聞いてしまい……」
その言葉にルイ王子は再びピクリと眉を動かした後、扉のすぐ隣に立つカインへと鋭い視線を投げた。カインは気づかないふりをしながら、リュセットの背中を見つめている。
「ルイ王子との結婚は出来ないと判断いたしました」
「それでは……兄上があなたの姉上のことを思っていなければ、あなたは兄上と結婚を承諾していた。という解釈でいいのですか? あなたの口ぶりではそのように聞こえますが……?」
アンリ王子のその問いに、リュセットはほんのり目を伏せながら、照れたようにこう言った。
「ルイ王子は素敵な方です。ダンスを踊ったあの舞踏会で、不慣れな私を優しくリードしてくださいました。言葉数は少なくとも、その態度からもそれは感じられましたから……けれど、それは相手が王子様でなくとも同じ気持ちでいます。もしも私で良いとおっしゃる方がいらっしゃるのであれば、私は嫁ぐつもりです」
リュセットの言葉を聞いて、アンリ王子はぼそりとこう呟いた。
「どうしてあなたはそれほどまでに自己評価が低いのでしょうか……?」
アンリ王子の言葉を聞き漏らしたリュセットは、顔を上げて彼を見た。けれどアンリ王子はただ微笑んでリュセットを見つめているだけだった。そんな中でルイ王子が再び口を開いた。
「結局のところ結婚を承諾に来たのか、それとも辞退しに来たのか、どっちなんだ?」
「私は、ルイ王子が姉のことをどう思っていらっしゃるのかを知りたくて参りました」
背筋を伸ばし凛と立つリュセットは、たとえ身に纏うドレスが古びたものでも華やかさに欠けていたものだとしても、その美しさが陰ることはない。
「俺はとっくにマーガレットのことなどなんとも思ってはいない」
「それは、嘘にございます」
リュセットは溢れんばかりの笑みをその顔にのせ、瞳を輝かせながらこう言った。
「私のこの服を見た時のルイ王子の顔は、今の言葉とは裏腹でした。表情や瞳とは時に口よりも雄弁なのですわ」
リュセットは普段イザベラやマルガリータに蔑まれている割に、人の気持ちを読むのには長けていた。それがイザベラやマルガリータに効力を成さないのはきっと、彼女があの二人を心から好いているからなのだろう。
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