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番外編2
対面 1
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ガラガラガラと音を立てながら城へと向かう馬車の中。馬車の中にはリュセットと、その向かいに大臣が座っている。大臣はやっと面倒な仕事が片付いたと言わんばかりにリラックスした表情を見せていた。リュセットが結婚を拒否したにも関わらず、それでもこの街を一軒一軒回り歩くことをしなくていいと考えるだけで気が楽になっていたのだ。
使用人は馬車を運転し、その隣に兵士が乗り、別の馬にカインは一人乗っている。リュセットはぼうっと馬車の中からカインの姿を見た。
(あの方は前に一度会ったことがあったわ。マーガレットお姉様が家を出れなくなり、会えない理由をしたためた手紙を渡しに行った時にカイン様の代理で来たと仰っていた方……)
代理だと言っていたにも関わらず、本来は彼がカインで、マーガレットがカインだと思っていた相手がルイ王子だった。そのことを偶然立ち聞きしてしまったリュセットは、ガラスの靴に足を通すつもりもなければ、ルイ王子と結婚するつもりももちろんなかった。
(マーガレットお姉様はどうしてルイ王子を拒絶なさるのかしら……? 舞踏会の後も泣いていらっしゃったくらいなのに……泣いていたのは好きだからではなく、ルイ王子と喧嘩をされたのかしら……? だから頑なになってしまわれた、とか?)
いくら考えたところで、答えは出ない。だからこそリュセットは直接会って、ルイ王子と話をするつもりだったのだ。
『ルイ王子はあなたを選んでいたというのに』
カインが言ったあの言葉が、リュセットはずっと頭から離れなかった。
*
「さぁリュセット嬢、こちらへ」
馬車を降りた後、大臣は意気込んで城の内部へとずかずか歩いいて行く。リュセットはあの舞踏会のひを思い返しながらあたりを見渡した。
あの日は二日とも夜だった。あたりは真っ暗で城のライトアップの中を歩くとまるで夢の中にでもいるような感覚に陥った。そんな日のことを思い出していた。
「ルイ王子、あの靴の令嬢を探してきましたぞ」
大臣は遠慮なく両扉を両方とも勢いよく開いた。すると部屋の中で、険しい表情をしながら仕事をしているルイ王子が、顔を上げた。と同時に、リュセットの姿が目に飛び込んできた瞬間、ルイ王子は大きく目を見開いた。
「いやー、探すのに苦労しましたぞ。家を一軒一軒回りやっとあの靴がぴったり合うご令嬢を見つけて参りました」
鼻の下に貯えたちょび髭を指先で撫で付け、踏ん反り返った。小太りな大臣は踏ん反り返ったことでその膨らんだお腹がより目立って見える。
大臣とリュセットの後を追うように部屋に入ってきたカインは、じっとルイ王子を見つめ、やがてその場を去った。
「ご苦労だったな。アンリのわがままに付き合わせて悪かった。父上に報告だけ済ませたら帰ってゆっくりすればいい」
「そうさせてもらいますかな」
ポケットからハンカチを取り出し、玉の汗を拭い去りながら、大臣は「それでは」と言い残し、リュセットを置いて部屋を後にした。
リュセットはどうしたものかと考えあぐねいている時、ルイ王子がこう言った。
「そのドレスは、お前のなのか?」
リュセットは自分の洋服に視線を落とした時、ハッとした。王子様と対面しているにも関わらず挨拶をし損ねていたのだ。リュセットは慌ててスカートの裾を中指と人差し指で少しつまみながら、膝を曲げて挨拶を交わす。それを終えてからやっと、リュセットも口を開いた。
「はい、これは私の母が若かりし頃に着ていた形見なのです」
「そうか……」
ルイ王子はリュセットの洋服に目を向けながら、その青い瞳には悲しみの色が滲んでいるように見えた。
「俺は以前、そのドレスと同じものを着ていた女性を知っている」
「その方は、マーガレットと言う名ではございませんか?」
ルイ王子の神経質そうな眉がピクリと揺れた。どこでその名を知ったのかと問いたげな表情だ。リュセットはその表情を見た瞬間、頬を綻ばせてこう言った。
「マーガレットは私の姉なのです」
ルイ王子がそれを聞いて、何か考え込むような表情を見せた。その表情からでは何を考えているかはわからない。けれどリュセットには嬉しい反応だった。
(先ほどカイン様がおっしゃっていたように、ルイ王子はきっと、まだマーガレットお姉様のことをまだ慕っていらっしゃるんだわ)
それはこの洋服を見たときのルイ王子の表情で感じ取れた。悲しみの色と、驚きと、そして少し懐かしいようにルイ王子はリュセットのこのドレスを見つめていたからだ。
使用人は馬車を運転し、その隣に兵士が乗り、別の馬にカインは一人乗っている。リュセットはぼうっと馬車の中からカインの姿を見た。
(あの方は前に一度会ったことがあったわ。マーガレットお姉様が家を出れなくなり、会えない理由をしたためた手紙を渡しに行った時にカイン様の代理で来たと仰っていた方……)
代理だと言っていたにも関わらず、本来は彼がカインで、マーガレットがカインだと思っていた相手がルイ王子だった。そのことを偶然立ち聞きしてしまったリュセットは、ガラスの靴に足を通すつもりもなければ、ルイ王子と結婚するつもりももちろんなかった。
(マーガレットお姉様はどうしてルイ王子を拒絶なさるのかしら……? 舞踏会の後も泣いていらっしゃったくらいなのに……泣いていたのは好きだからではなく、ルイ王子と喧嘩をされたのかしら……? だから頑なになってしまわれた、とか?)
いくら考えたところで、答えは出ない。だからこそリュセットは直接会って、ルイ王子と話をするつもりだったのだ。
『ルイ王子はあなたを選んでいたというのに』
カインが言ったあの言葉が、リュセットはずっと頭から離れなかった。
*
「さぁリュセット嬢、こちらへ」
馬車を降りた後、大臣は意気込んで城の内部へとずかずか歩いいて行く。リュセットはあの舞踏会のひを思い返しながらあたりを見渡した。
あの日は二日とも夜だった。あたりは真っ暗で城のライトアップの中を歩くとまるで夢の中にでもいるような感覚に陥った。そんな日のことを思い出していた。
「ルイ王子、あの靴の令嬢を探してきましたぞ」
大臣は遠慮なく両扉を両方とも勢いよく開いた。すると部屋の中で、険しい表情をしながら仕事をしているルイ王子が、顔を上げた。と同時に、リュセットの姿が目に飛び込んできた瞬間、ルイ王子は大きく目を見開いた。
「いやー、探すのに苦労しましたぞ。家を一軒一軒回りやっとあの靴がぴったり合うご令嬢を見つけて参りました」
鼻の下に貯えたちょび髭を指先で撫で付け、踏ん反り返った。小太りな大臣は踏ん反り返ったことでその膨らんだお腹がより目立って見える。
大臣とリュセットの後を追うように部屋に入ってきたカインは、じっとルイ王子を見つめ、やがてその場を去った。
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「そうさせてもらいますかな」
ポケットからハンカチを取り出し、玉の汗を拭い去りながら、大臣は「それでは」と言い残し、リュセットを置いて部屋を後にした。
リュセットはどうしたものかと考えあぐねいている時、ルイ王子がこう言った。
「そのドレスは、お前のなのか?」
リュセットは自分の洋服に視線を落とした時、ハッとした。王子様と対面しているにも関わらず挨拶をし損ねていたのだ。リュセットは慌ててスカートの裾を中指と人差し指で少しつまみながら、膝を曲げて挨拶を交わす。それを終えてからやっと、リュセットも口を開いた。
「はい、これは私の母が若かりし頃に着ていた形見なのです」
「そうか……」
ルイ王子はリュセットの洋服に目を向けながら、その青い瞳には悲しみの色が滲んでいるように見えた。
「俺は以前、そのドレスと同じものを着ていた女性を知っている」
「その方は、マーガレットと言う名ではございませんか?」
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