サンドリヨン 〜 シンデレラの悪役令嬢(意地悪姉役)に転生したので前職を生かしてマッサージを始めました 〜

浪速ゆう

文字の大きさ
上 下
101 / 114
番外編2

対面 1

しおりを挟む
 ガラガラガラと音を立てながら城へと向かう馬車の中。馬車の中にはリュセットと、その向かいに大臣が座っている。大臣はやっと面倒な仕事が片付いたと言わんばかりにリラックスした表情を見せていた。リュセットが結婚を拒否したにも関わらず、それでもこの街を一軒一軒回り歩くことをしなくていいと考えるだけで気が楽になっていたのだ。
 使用人は馬車を運転し、その隣に兵士が乗り、別の馬にカインは一人乗っている。リュセットはぼうっと馬車の中からカインの姿を見た。

(あの方は前に一度会ったことがあったわ。マーガレットお姉様が家を出れなくなり、会えない理由をしたためた手紙を渡しに行った時にカイン様の代理で来たと仰っていた方……)

 代理だと言っていたにも関わらず、本来は彼がカインで、マーガレットがカインだと思っていた相手がルイ王子だった。そのことを偶然立ち聞きしてしまったリュセットは、ガラスの靴に足を通すつもりもなければ、ルイ王子と結婚するつもりももちろんなかった。

(マーガレットお姉様はどうしてルイ王子を拒絶なさるのかしら……? 舞踏会の後も泣いていらっしゃったくらいなのに……泣いていたのは好きだからではなく、ルイ王子と喧嘩をされたのかしら……? だから頑なになってしまわれた、とか?)

 いくら考えたところで、答えは出ない。だからこそリュセットは直接会って、ルイ王子と話をするつもりだったのだ。

『ルイ王子はあなたを選んでいたというのに』

 カインが言ったあの言葉が、リュセットはずっと頭から離れなかった。


  *


「さぁリュセット嬢、こちらへ」

 馬車を降りた後、大臣は意気込んで城の内部へとずかずか歩いいて行く。リュセットはあの舞踏会のひを思い返しながらあたりを見渡した。
 あの日は二日とも夜だった。あたりは真っ暗で城のライトアップの中を歩くとまるで夢の中にでもいるような感覚に陥った。そんな日のことを思い出していた。

「ルイ王子、あの靴の令嬢を探してきましたぞ」

 大臣は遠慮なく両扉を両方とも勢いよく開いた。すると部屋の中で、険しい表情をしながら仕事をしているルイ王子が、顔を上げた。と同時に、リュセットの姿が目に飛び込んできた瞬間、ルイ王子は大きく目を見開いた。

「いやー、探すのに苦労しましたぞ。家を一軒一軒回りやっとあの靴がぴったり合うご令嬢を見つけて参りました」

 鼻の下に貯えたちょび髭を指先で撫で付け、踏ん反り返った。小太りな大臣は踏ん反り返ったことでその膨らんだお腹がより目立って見える。
 大臣とリュセットの後を追うように部屋に入ってきたカインは、じっとルイ王子を見つめ、やがてその場を去った。

「ご苦労だったな。アンリのわがままに付き合わせて悪かった。父上に報告だけ済ませたら帰ってゆっくりすればいい」
「そうさせてもらいますかな」

 ポケットからハンカチを取り出し、玉の汗を拭い去りながら、大臣は「それでは」と言い残し、リュセットを置いて部屋を後にした。
 リュセットはどうしたものかと考えあぐねいている時、ルイ王子がこう言った。

「そのドレスは、お前のなのか?」

 リュセットは自分の洋服に視線を落とした時、ハッとした。王子様と対面しているにも関わらず挨拶をし損ねていたのだ。リュセットは慌ててスカートの裾を中指と人差し指で少しつまみながら、膝を曲げて挨拶を交わす。それを終えてからやっと、リュセットも口を開いた。

「はい、これは私の母が若かりし頃に着ていた形見なのです」
「そうか……」

 ルイ王子はリュセットの洋服に目を向けながら、その青い瞳には悲しみの色が滲んでいるように見えた。

「俺は以前、そのドレスと同じものを着ていた女性を知っている」
「その方は、マーガレットと言う名ではございませんか?」

 ルイ王子の神経質そうな眉がピクリと揺れた。どこでその名を知ったのかと問いたげな表情だ。リュセットはその表情を見た瞬間、頬を綻ばせてこう言った。

「マーガレットは私の姉なのです」

 ルイ王子がそれを聞いて、何か考え込むような表情を見せた。その表情からでは何を考えているかはわからない。けれどリュセットには嬉しい反応だった。

(先ほどカイン様がおっしゃっていたように、ルイ王子はきっと、まだマーガレットお姉様のことをまだ慕っていらっしゃるんだわ)

 それはこの洋服を見たときのルイ王子の表情で感じ取れた。悲しみの色と、驚きと、そして少し懐かしいようにルイ王子はリュセットのこのドレスを見つめていたからだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...