サンドリヨン 〜 シンデレラの悪役令嬢(意地悪姉役)に転生したので前職を生かしてマッサージを始めました 〜

浪速ゆう

文字の大きさ
上 下
90 / 114
本編

カウントダウン

しおりを挟む
「それではお母様、お姉様方、今までお世話になりました。行ってまいります」

 リュセットはトランクを持ち、イザベラ達に会釈をした。リュセットはどこか晴れやかな表情を見せながら、馬車に乗り込む。

「式の日程が決まったら連絡をよこすんだよ」
「はい、もちろんですわ!」

 リュセットはイザベラ、マルガリータの顔を見た後、二人の後ろで微笑みながら見つめているマーガレットへと視線を向けた。

「皆様、どうかお風邪など召されませんように」

 馬車は走り出し、リュセットは馬車の中から手を振りながら去っていく。リュセットを乗せた馬車がどんどん小さくなるにつれ、イザベラとマルガリータは早々に家の中へと引き上げるが、マーガレットだけは馬車が見えなくなるまでじっとその後ろ姿を見送った。

(これで、一つ不安な要素は消えた。あとは自分の身を案じるだけね……)


 *


 それから数日が経ち、リュセットがいなくなってからの家は悲惨なものだった。料理を作れる人間も、掃除ができる人間も、買い物ひとつにしても才がない。そのため、食事は出来合いのものを購入し、出費は自ずと嵩み、そして家の中は荒れていく。そんな荒んだ生活の中で、リュセットから一通の招待状が届いた。

「お母様! リュセットから結婚式の招待状が届きましたわ!」

 興奮した様子のマルガリータの声を聞きつけ、イザベラもマーガレットもダイニングへと集まった。

「どれ、見せてごらん」

 封じ蝋には王家の紋章が刻まれている。金色の雅な封筒を開くと、ルイ王子の誕生日と同じような厚紙を使用した招待状と、一枚の手紙が入っていた。

「……どうやら、一ヶ月後に王子とリュセットの結婚式が執り行われるようだね」

 イザベラがその案内状をテーブルの上に置き、リュセットの手紙を読んでそう言った。マーガレットは招待状を手に取った。
 一ヶ月後にリュセットとルイ王子は結婚式を挙げる。

(……リュセット、良かったね。これであなたは幸せになれるんだから)

 マーガレットは招待状の紙を指でなぞりながら、ほんのり微笑んだ。

「一ヶ月後! それではお母様、私達もそれに合わせてドレスを新調致しましょう。親族の私達が汚らしい格好はできませんわ。靴やアクセサリーも必要になりますわね」

 マルガリータは相変わらず絢爛豪華に仕上げようと考えている。主役はあくまでリュセットだと言うのに。

「そんなお金がどこにあるんだい。結婚式のドレスは買うとして、他は買わないよ」
「そんな! それではきっと周りの参列者の笑い者になりますわ!」

 マルガリータとイザベラの会話から離れるようにして、マーガレットは裏口から庭に出た。

「リュセットは元気かしら?」

 どこからともなく聞こえた声。けれどもう驚きもしない。マーガレットは声のする方を見上げることもなく、返事を戻した。

「元気でしょう。というか、それはあなたの方が知ってることだと思うのだけれど?」
「そうね。そうかもしれないわね」

 アリスはプラタナスの木から飛び降り、マーガレットの背後に立つ。そんな彼女に向かって、マーガレットは空を見上げながらこう言った。

「……以前、私がリュセットに結末を話そうとした時に声が出なくなったのは、アリス、あなたの魔法なの?」

 今日はとても天気が良い。少し暑いと感じるほどだ。きっともう、春は終わりを告げようとしているのだろう。

「いいえ、マーガレット。あれはこの世界の理り。世界の秩序があなたの言葉を縛ったのよ」
「やはり、そういうことだったのね……」

 なんとなく察しはついていた。あの日、窓の外に立つアリスを見たとき、アリスから悪意や邪魔立てしようとする様子は感じられなかったのだ。言えなかったのはこの世界がどうなるかの結末のみ。そうなると、それはこの物語自体がマーガレットに答えを言われるのをよく思わなかったのだろうと推測を立てていた。

「マーガレット、あなたはこの世界が好きだと言ったわよね?」
「ええ」
「では、あなたは今、幸せかしら?」
「……ええ、そうね」

 空返事とでも言うのだろうか。マーガレットはどこか心ここに在らずと言った様子で、そう返事を戻した。

「マーガレット~。マーガレット~」

 アリスは歌う。まるで小鳥が口ずさむように。

「物語の宿命はもうすぐ終わる~。あなたの運命はもうすぐやってくる~」
「……どう言う意味?」

 アリスの言う意味がよく理解できず、マーガレットはやっとアリスへと視線を向けた。けれど、アリスの姿はすでにそこにはなかった。

「マーガレット~。マーガレット~。私は祈る~。あなたの幸せと~、あなたの運命を~」

 歌声は、アリスがいなくなった後もずっとマーガレットの脳内に響いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

王女、豹妃を狩る

遠野エン
ファンタジー
ベルハイム王国の王子マルセスは身分の差を超えて農家の娘ガルナと結婚を決意。王家からは驚きと反対の声が上がるが、マルセスはガルナの自由闊達な魅力に惹かれ押し切る。彼女は結婚式で大胆不敵な豹柄のドレスをまとい、周囲をあ然とさせる。 ガルナは王子の妻としての地位を得ると、侍女や家臣たちを手の平で転がすかのように振る舞い始める。王宮に新しい風を吹かせると豪語し、次第に無茶な要求をし出すようになる。 マルセスの妹・フュリア王女はガルナの存在に潜む危険を察知し、独自に調査を開始する。ガルナは常に豹柄の服を身にまとい人々の視線を引きつけ、畏怖の念を込めて“豹妃”というあだ名で囁かれるのだった。

転生の際に抵抗したらオッサンに転生しちゃったので、神様に頼んで何とかして貰いました。

武雅
ファンタジー
突然の雷に打たれて死んでしまったらしい。 打たれた瞬間目の前が真っ白になり、視界が戻るとそこは神様が作った空間だった。 どうやら神様が落とした雷の狙いが外れ自分に直撃したらしく転生をさせてくれるとの事。 とりあえずチート能力はもらえる様なので安心してたら異世界へ転生させる方法が…。 咄嗟に抵抗をするもその結果、タイミングがズレてまさかの小汚く体形もダルンダルンの中年転生してしまった…。 夢のチートでハーレム生活を夢見ていたのに、どう考えても女の子に近づこうとしても逃げられんじゃね? ただ抵抗した事で神様の都合上、1年間はある意味最強のチート状態になったのでその間に何とかしよう。 そんな物語です。 ※本作は他の作品を作っている時に思い付き冒頭1万文字ぐらい書いて後、続きを書かず眠っていた作品を消化する一環で投稿させて頂きました。 …冒頭だけ書いた作品が溜まり過ぎたので今後も不定期でチョイチョイ消化させて頂きます。 完結まで作成しておりますので毎日投降させて頂きます。 稚作ではございますがお読み頂ければ幸いでございます。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

悪役令嬢に転生したので、剣を執って戦い抜く

秋鷺 照
ファンタジー
 断罪イベント(?)のあった夜、シャルロッテは前世の記憶を取り戻し、自分が乙女ゲームの悪役令嬢だと知った。  ゲームシナリオは絶賛進行中。自分の死まで残り約1か月。  シャルロッテは1つの結論を出す。それすなわち、「私が強くなれば良い」。  目指すのは、誰も死なないハッピーエンド。そのために、剣を執って戦い抜く。 ※なろうにも投稿しています

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...