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本編
密談
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(この時のために)
リュセットの笑顔には曇りや迷いがない。だとすればそれは、リュセットの本心であり、望みだ。
(何度も練習した。何度も何度も、鏡の前で)
顎を引き、少し胸を張る。
(何度も何度も、このシーンをシュミレーションした。何度も何度も、このシーンを想像した。何度も何度も……)
小さく息を吸ってから、口元を綻ばせた。
(だから大丈夫。私は、ちゃんとリュセットを祝福できる)
「おめでとう、リュセット」
笑え、と強く念じるわけでもなく。口角を無理やり引きつるわけでもなく。マーガレットの笑顔は、心からの祝福そのものだった。
「ありがとうございます。マーガレットお姉様」
リュセットはマーガレットに向き合って、喜びをその笑みに乗せていた。
「おめでとう、灰かぶ……ではなく、リュセット。あんたはきっとそういう判断すると思ってたよ。王子様と結婚したくない令嬢などこの世にいないもの」
マルガリータが必死に取り繕う祝いの言葉を述べた。明らかにごま擦りが始まっている。その後に続いたのは、イザベラだ。
「荷物を取りに来たのだろう? 荷造り手伝っておやりなさい」
「大丈夫ですわ。持っていくものはさほどありませんもの」
イザベラが珍しくリュセットに微笑んでいる。さらに彼女の手を取るというおまけ付きだ。
「私が手伝うわ、リュセット。帰ってきたら話をする約束でしょう?」
マルガリータはどこか悔しそうな顔で、マーガレットを見ている。きっと出し抜かれたとでも思っているのだろう。そんなマルガリータのことなど視野にも入れず、マーガレットはリュセットへと歩み寄った。
するとリュセットもマーガレットからの言葉を受け取り、首を縦に振った。
「では、マーガレットお姉様にお願いいたしますわ」
リュセットとマーガレットはそのまま部屋へと足を向けた。廊下を抜けてリュセットの部屋に着いた時、マーガレットは背後を確認してから部屋に入った。イザベラとマルガリータが聞き耳立ててついて来ていないかと思ってのことだった。
部屋の中に足を踏み入れ、扉を閉めた時、リュセットがこう言葉を口にした。
「マーガレットお姉様はこれでいいのでしょうか?」
「なんの話?」
「私が王子様と結婚しても、という話ですわ」
リュセットはマーガレットを見据えている。その眼差しに、どこか強いものを感じた。
リュセットは何かを知っている。リュセットはマーガレットとルイ王子のことを知っている。……そんな風に思えて、思わず固唾を飲んだ。
「教えてくださいませ、お姉様。私はマーガレットお姉様が考えていらっしゃることが知りたいのです」
「……なんの話かさっぱりわからないのだけれど?」
「私は聞いてしまいました。お昼にお姉様がカイン様と話していた内容を」
「……!」
リュセットは揺らぐことがなく、瞳を真っ直ぐマーガレットへと向けている。それを受けて揺らいだのはマーガレットの方だった。
「お姉様がお慕いしていらっしゃった方、マッサージをしていた方は本当はカイン様ではなく、ルイ王子だったのでしょう?」
ジリジリと詰め寄られている。いつも可愛らしいリュセットが、これほど強い圧を感じたことは今までなかっただろう。背もマーガレットよりも低いというのに、今だけはリュセットの方が高いようにも見えていた。
「マーガレットお姉様、安心してください。私はマーガレットお姉様がどういう事情をお持ちなのかはわかりませんが、お姉様の意見を聞いても王子様との結婚は取り消すつもりはありません」
マーガレットの手を取り、リュセットは奥歯を噛み締めているマーガレットの顔を覗き込んだ。
「私はルイ王子にお会いして来ました。とてもお優しいお方です。私のこの服を見たとき、一瞬ですが、とても切ないお顔をされていらっしゃいましたわ」
(そうだった。このリュセットの服は、私がルイ王子にマッサージをするため一度借りたもの。同じものを着ているとなると、きっと頭の切れるルイ王子が私の存在に気づかないわけがない……)
はぁ、とため息をついた後、マーガレットは髪をかき上げながらリュセットのベッドに座った。
「リュセット、まだ時間は大丈夫かしら? 少し話が長くなるのだけれど、いい?」
「はい、大丈夫ですわ。念のため戻りが遅くなることも伝えておいたので」
リュセットはマーガレットの隣に腰を下ろし、口元に笑みを乗せた。
「信じがたい話だとは思うけれど、信じれる範囲で聞いてね」
信じてもらえるかもわからない。けれど多くのことを知ってしまったリュセットに、これ以上言い逃れはできないと悟ったマーガレットは、腹をくくって全てを打ち明ける覚悟を決めた。
「大丈夫ですわ。私はマーガレットお姉様を信じていますから」
その言葉を聞いて、マーガレットも困ったように微笑んだ。本当に真っ直ぐなシンデレラの瞳がとても純粋だったから。
「けれど約束よ。何を聞いても、私がなんと言っても、結婚を破棄するなんてことは言わないで。それが条件よ」
「わかりましたわ。それについては安心してくださいませ。私はもう王子様との結婚を辞退などするつもりは毛頭にないのですから」
マーガレットはリュセットの顔を真っ直ぐに見つめ、言葉の真偽を確かめた。そして、大きく息を吹いこみ、吐き出したと同時に、マーガレットは語り始めた——。
リュセットの笑顔には曇りや迷いがない。だとすればそれは、リュセットの本心であり、望みだ。
(何度も練習した。何度も何度も、鏡の前で)
顎を引き、少し胸を張る。
(何度も何度も、このシーンをシュミレーションした。何度も何度も、このシーンを想像した。何度も何度も……)
小さく息を吸ってから、口元を綻ばせた。
(だから大丈夫。私は、ちゃんとリュセットを祝福できる)
「おめでとう、リュセット」
笑え、と強く念じるわけでもなく。口角を無理やり引きつるわけでもなく。マーガレットの笑顔は、心からの祝福そのものだった。
「ありがとうございます。マーガレットお姉様」
リュセットはマーガレットに向き合って、喜びをその笑みに乗せていた。
「おめでとう、灰かぶ……ではなく、リュセット。あんたはきっとそういう判断すると思ってたよ。王子様と結婚したくない令嬢などこの世にいないもの」
マルガリータが必死に取り繕う祝いの言葉を述べた。明らかにごま擦りが始まっている。その後に続いたのは、イザベラだ。
「荷物を取りに来たのだろう? 荷造り手伝っておやりなさい」
「大丈夫ですわ。持っていくものはさほどありませんもの」
イザベラが珍しくリュセットに微笑んでいる。さらに彼女の手を取るというおまけ付きだ。
「私が手伝うわ、リュセット。帰ってきたら話をする約束でしょう?」
マルガリータはどこか悔しそうな顔で、マーガレットを見ている。きっと出し抜かれたとでも思っているのだろう。そんなマルガリータのことなど視野にも入れず、マーガレットはリュセットへと歩み寄った。
するとリュセットもマーガレットからの言葉を受け取り、首を縦に振った。
「では、マーガレットお姉様にお願いいたしますわ」
リュセットとマーガレットはそのまま部屋へと足を向けた。廊下を抜けてリュセットの部屋に着いた時、マーガレットは背後を確認してから部屋に入った。イザベラとマルガリータが聞き耳立ててついて来ていないかと思ってのことだった。
部屋の中に足を踏み入れ、扉を閉めた時、リュセットがこう言葉を口にした。
「マーガレットお姉様はこれでいいのでしょうか?」
「なんの話?」
「私が王子様と結婚しても、という話ですわ」
リュセットはマーガレットを見据えている。その眼差しに、どこか強いものを感じた。
リュセットは何かを知っている。リュセットはマーガレットとルイ王子のことを知っている。……そんな風に思えて、思わず固唾を飲んだ。
「教えてくださいませ、お姉様。私はマーガレットお姉様が考えていらっしゃることが知りたいのです」
「……なんの話かさっぱりわからないのだけれど?」
「私は聞いてしまいました。お昼にお姉様がカイン様と話していた内容を」
「……!」
リュセットは揺らぐことがなく、瞳を真っ直ぐマーガレットへと向けている。それを受けて揺らいだのはマーガレットの方だった。
「お姉様がお慕いしていらっしゃった方、マッサージをしていた方は本当はカイン様ではなく、ルイ王子だったのでしょう?」
ジリジリと詰め寄られている。いつも可愛らしいリュセットが、これほど強い圧を感じたことは今までなかっただろう。背もマーガレットよりも低いというのに、今だけはリュセットの方が高いようにも見えていた。
「マーガレットお姉様、安心してください。私はマーガレットお姉様がどういう事情をお持ちなのかはわかりませんが、お姉様の意見を聞いても王子様との結婚は取り消すつもりはありません」
マーガレットの手を取り、リュセットは奥歯を噛み締めているマーガレットの顔を覗き込んだ。
「私はルイ王子にお会いして来ました。とてもお優しいお方です。私のこの服を見たとき、一瞬ですが、とても切ないお顔をされていらっしゃいましたわ」
(そうだった。このリュセットの服は、私がルイ王子にマッサージをするため一度借りたもの。同じものを着ているとなると、きっと頭の切れるルイ王子が私の存在に気づかないわけがない……)
はぁ、とため息をついた後、マーガレットは髪をかき上げながらリュセットのベッドに座った。
「リュセット、まだ時間は大丈夫かしら? 少し話が長くなるのだけれど、いい?」
「はい、大丈夫ですわ。念のため戻りが遅くなることも伝えておいたので」
リュセットはマーガレットの隣に腰を下ろし、口元に笑みを乗せた。
「信じがたい話だとは思うけれど、信じれる範囲で聞いてね」
信じてもらえるかもわからない。けれど多くのことを知ってしまったリュセットに、これ以上言い逃れはできないと悟ったマーガレットは、腹をくくって全てを打ち明ける覚悟を決めた。
「大丈夫ですわ。私はマーガレットお姉様を信じていますから」
その言葉を聞いて、マーガレットも困ったように微笑んだ。本当に真っ直ぐなシンデレラの瞳がとても純粋だったから。
「けれど約束よ。何を聞いても、私がなんと言っても、結婚を破棄するなんてことは言わないで。それが条件よ」
「わかりましたわ。それについては安心してくださいませ。私はもう王子様との結婚を辞退などするつもりは毛頭にないのですから」
マーガレットはリュセットの顔を真っ直ぐに見つめ、言葉の真偽を確かめた。そして、大きく息を吹いこみ、吐き出したと同時に、マーガレットは語り始めた——。
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