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本編
ガラスの靴 1
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「あら、リュセット。紅茶は皆様にお出しできたかしら?」
ちょうど廊下を抜けたあたりで、リュセットとばったり出くわした。
「あ、マーガレットお姉様。言われた通り、紅茶をみなさまにお配りしておきましたわ」
「そう、ありがとう」
マーガレットはリュセットに微笑みかけ、共に玄関へと向かう。すると玄関ではイザベラとマルガリータが姿を見せていた。
「さぁ今日はどのようなご用件でしょうか」
イザベラは白々しくもワシのように尖った鼻を持ち上げ、お城の遣いの者達を見やる。その後ろに立つマルガリータはすでに足が限界に達しかけているのか、明らかに足元がおぼつかず、顔色は痛みから真っ赤だ。
「私は城で大臣を務めるドボワチエと申す。この度上からの通達でこの靴の持ち主を探しており、靴のサイズぴったりに合う女性を王子の結婚相手とするとのことで、一軒一軒家を回りっているところだ」
「まぁ! なんと!」
イザベラはニヤリとほくそ笑んだ笑みを扇で隠し、マルガリータは今や青白い顔をして一歩前に抜きん出た。
「それは私の靴ですわ。私はあの日靴を片方なくしていましたの」
マーガレットは今や引きつり笑いをしながら、この光景を見つめている。
「それでは、一度こちらへ。靴に足を入れてもらえるかな」
使用人の男は靴にかけられていた布を外した。ガラスの靴があらわになり、差し込む日の光を受けて幾多もの輝きを放っている。
「なんと美しい……」
イザベラはぼそりと呟き、それを大臣達に聞かれまいと、再び扇で口元を隠した。マルガリータはこの靴を履いていたていで話をしていた。母親のイザベラがこの靴を見るのが初見では話の辻褄が合わなくなる。
使用人がガラスの靴を床に置き、待ってましたとばかりにマルガリータは足を入れる。白いタイツを履いた足の下には紐で縛られているせいで、肉がおかしな膨らみ方をしている。まるでハムだとマーガレットは思った。
けれどマルガリータはそれに気づき、スカートの裾をあまり上げずにそのまま靴に足を入れた。……が、当たり前だがぴったりと入るわけもない。
「おかしいですわね。ちょっと足がむくんでいるようですわ」
無理やりギュッギュッと足をねじ込もうとするが、ガラスの靴が伸びるわけもなく、入らない。
「あー、もうよい。この靴はそなたのものではないようだ」
「お待ちくださいませ! この靴は間違いなく私のものです!」
今にも倒れてしまいそうな青白い顔をしたマルガリータ。彼女はそれでも懸命に自分の靴だと主張する。ここまできたらその心意気はあっぱれなものだとマーガレットは半ば思っていた。
「そう主張するご令嬢はたくさんいるのだよ。我らはたくさんの家を回って忙しいのだ。ほれ、さっさとどいて次そこのご婦人も履いてみてくだされ」
「あら、私もですの?」
「ええ、この書面には全ての女性にと通達があるのでな」
驚いた様子でイザベラが挑もうとした時、靴を無理やり取り上げられたマルガリータは床に崩れるように倒れた。
「大丈夫ですか!?」
とっくにトイレから戻って来ていたカインがマルガリータに駆け寄る。マルガリータは完全に目を回していた。きっと強く縛った足のせいで血が止まり、貧血を起こしたのだろう。
「娘は大丈夫ですわ。申し訳ないですが、部屋はすぐそこですので連れて行ってもらえないでしょうか?」
「わかりました」
カインは了承し、旗を持っていた兵士に向かって目配せをした。
「サンド……リュセット。マルガリータの部屋を案内してちょうだい」
「わかりましたわ、お母様」
イザベラはリュセットに小さく耳打ちをしてから、部屋へと案内させた。部屋に戻ったら伸びているマルガリータの代わりに足の紐を解くように指示をしていた。
「それではご婦人、気を取り直して試していただけますかな?」
イザベラは靴を履いた、がもちろんサイズは合わない。
「この靴はかなりサイズが小さいですわね?」
「ああ、だからこそなかなかフィットする方が現れないのだよ」
首を振りながら大臣は頭を抱えた。こうやってここに来るまでに何軒の家を回ってきたのか……その疲れた様子を見るとかなりの数をすでにこなしているようだった。
「では次、そちらのご令嬢もよろしく頼む」
「はい、かしこまりました」
次にマーガレットの番が回ってきた。マーガレットは一度会釈をしたのち、ガラスの靴に足を入れる。が、もちろんマーガレットの足はガラスの靴には合わず、入らない。
「……この通り、こちらは私の靴ではありません」
マーガレットはあっさり身を引き、再びスカートの裾をつまんで持ち上げて会釈をした。
「あー、またダメなのか……」
思わずこぼした大臣の愚痴。イザベラはそんな大臣に会釈をし、労った。
「大変なお勤め、ご苦労様でございます。早くその靴に見合う女性が現れることを願っておりますわ」
これで最後とでも言いたげに。けれどこれで最後ではもちろんない。
「何を申す。もう一人のご令嬢がまだ試されておらぬではないか」
「ああ、あの子は舞踏会にも行っておりませんので履く必要もございません」
「先ほども言ったであろう。全ての女性に試すように言われているのだ。さっさと連れて参れ。こちらも時間が惜しいのでな」
有無も言わさぬ物言いに、いささかイザベラは気分を害した様子。いや、もしかするとリュセットに試すこと自体愚行と思っての態度なのかもしれない。
どちらにせよ、イザベラは顔を引きつらせながらリュセットを呼びつけた。
「リュセット、さっさと戻っておいで。あんたも靴を試しなさい」
リュセットは再び玄関に現れた。けれど、その表情はどこか強張っている。
「……大変申し訳ございませんが、私はご遠慮いたしますわ」
(……えっ?)
リュセットのスカートは膝下丈。短いスカートが上がりすぎないように、少しだけ持ち上げて会釈をした。そんな様子を見て、マーガレットは思わず開いた口が塞がらない。
ちょうど廊下を抜けたあたりで、リュセットとばったり出くわした。
「あ、マーガレットお姉様。言われた通り、紅茶をみなさまにお配りしておきましたわ」
「そう、ありがとう」
マーガレットはリュセットに微笑みかけ、共に玄関へと向かう。すると玄関ではイザベラとマルガリータが姿を見せていた。
「さぁ今日はどのようなご用件でしょうか」
イザベラは白々しくもワシのように尖った鼻を持ち上げ、お城の遣いの者達を見やる。その後ろに立つマルガリータはすでに足が限界に達しかけているのか、明らかに足元がおぼつかず、顔色は痛みから真っ赤だ。
「私は城で大臣を務めるドボワチエと申す。この度上からの通達でこの靴の持ち主を探しており、靴のサイズぴったりに合う女性を王子の結婚相手とするとのことで、一軒一軒家を回りっているところだ」
「まぁ! なんと!」
イザベラはニヤリとほくそ笑んだ笑みを扇で隠し、マルガリータは今や青白い顔をして一歩前に抜きん出た。
「それは私の靴ですわ。私はあの日靴を片方なくしていましたの」
マーガレットは今や引きつり笑いをしながら、この光景を見つめている。
「それでは、一度こちらへ。靴に足を入れてもらえるかな」
使用人の男は靴にかけられていた布を外した。ガラスの靴があらわになり、差し込む日の光を受けて幾多もの輝きを放っている。
「なんと美しい……」
イザベラはぼそりと呟き、それを大臣達に聞かれまいと、再び扇で口元を隠した。マルガリータはこの靴を履いていたていで話をしていた。母親のイザベラがこの靴を見るのが初見では話の辻褄が合わなくなる。
使用人がガラスの靴を床に置き、待ってましたとばかりにマルガリータは足を入れる。白いタイツを履いた足の下には紐で縛られているせいで、肉がおかしな膨らみ方をしている。まるでハムだとマーガレットは思った。
けれどマルガリータはそれに気づき、スカートの裾をあまり上げずにそのまま靴に足を入れた。……が、当たり前だがぴったりと入るわけもない。
「おかしいですわね。ちょっと足がむくんでいるようですわ」
無理やりギュッギュッと足をねじ込もうとするが、ガラスの靴が伸びるわけもなく、入らない。
「あー、もうよい。この靴はそなたのものではないようだ」
「お待ちくださいませ! この靴は間違いなく私のものです!」
今にも倒れてしまいそうな青白い顔をしたマルガリータ。彼女はそれでも懸命に自分の靴だと主張する。ここまできたらその心意気はあっぱれなものだとマーガレットは半ば思っていた。
「そう主張するご令嬢はたくさんいるのだよ。我らはたくさんの家を回って忙しいのだ。ほれ、さっさとどいて次そこのご婦人も履いてみてくだされ」
「あら、私もですの?」
「ええ、この書面には全ての女性にと通達があるのでな」
驚いた様子でイザベラが挑もうとした時、靴を無理やり取り上げられたマルガリータは床に崩れるように倒れた。
「大丈夫ですか!?」
とっくにトイレから戻って来ていたカインがマルガリータに駆け寄る。マルガリータは完全に目を回していた。きっと強く縛った足のせいで血が止まり、貧血を起こしたのだろう。
「娘は大丈夫ですわ。申し訳ないですが、部屋はすぐそこですので連れて行ってもらえないでしょうか?」
「わかりました」
カインは了承し、旗を持っていた兵士に向かって目配せをした。
「サンド……リュセット。マルガリータの部屋を案内してちょうだい」
「わかりましたわ、お母様」
イザベラはリュセットに小さく耳打ちをしてから、部屋へと案内させた。部屋に戻ったら伸びているマルガリータの代わりに足の紐を解くように指示をしていた。
「それではご婦人、気を取り直して試していただけますかな?」
イザベラは靴を履いた、がもちろんサイズは合わない。
「この靴はかなりサイズが小さいですわね?」
「ああ、だからこそなかなかフィットする方が現れないのだよ」
首を振りながら大臣は頭を抱えた。こうやってここに来るまでに何軒の家を回ってきたのか……その疲れた様子を見るとかなりの数をすでにこなしているようだった。
「では次、そちらのご令嬢もよろしく頼む」
「はい、かしこまりました」
次にマーガレットの番が回ってきた。マーガレットは一度会釈をしたのち、ガラスの靴に足を入れる。が、もちろんマーガレットの足はガラスの靴には合わず、入らない。
「……この通り、こちらは私の靴ではありません」
マーガレットはあっさり身を引き、再びスカートの裾をつまんで持ち上げて会釈をした。
「あー、またダメなのか……」
思わずこぼした大臣の愚痴。イザベラはそんな大臣に会釈をし、労った。
「大変なお勤め、ご苦労様でございます。早くその靴に見合う女性が現れることを願っておりますわ」
これで最後とでも言いたげに。けれどこれで最後ではもちろんない。
「何を申す。もう一人のご令嬢がまだ試されておらぬではないか」
「ああ、あの子は舞踏会にも行っておりませんので履く必要もございません」
「先ほども言ったであろう。全ての女性に試すように言われているのだ。さっさと連れて参れ。こちらも時間が惜しいのでな」
有無も言わさぬ物言いに、いささかイザベラは気分を害した様子。いや、もしかするとリュセットに試すこと自体愚行と思っての態度なのかもしれない。
どちらにせよ、イザベラは顔を引きつらせながらリュセットを呼びつけた。
「リュセット、さっさと戻っておいで。あんたも靴を試しなさい」
リュセットは再び玄関に現れた。けれど、その表情はどこか強張っている。
「……大変申し訳ございませんが、私はご遠慮いたしますわ」
(……えっ?)
リュセットのスカートは膝下丈。短いスカートが上がりすぎないように、少しだけ持ち上げて会釈をした。そんな様子を見て、マーガレットは思わず開いた口が塞がらない。
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