サンドリヨン 〜 シンデレラの悪役令嬢(意地悪姉役)に転生したので前職を生かしてマッサージを始めました 〜

浪速ゆう

文字の大きさ
上 下
82 / 114
本編

ガラスの靴 1

しおりを挟む
「あら、リュセット。紅茶は皆様にお出しできたかしら?」

 ちょうど廊下を抜けたあたりで、リュセットとばったり出くわした。

「あ、マーガレットお姉様。言われた通り、紅茶をみなさまにお配りしておきましたわ」
「そう、ありがとう」

 マーガレットはリュセットに微笑みかけ、共に玄関へと向かう。すると玄関ではイザベラとマルガリータが姿を見せていた。

「さぁ今日はどのようなご用件でしょうか」

 イザベラは白々しくもワシのように尖った鼻を持ち上げ、お城の遣いの者達を見やる。その後ろに立つマルガリータはすでに足が限界に達しかけているのか、明らかに足元がおぼつかず、顔色は痛みから真っ赤だ。

「私は城で大臣を務めるドボワチエと申す。この度上からの通達でこの靴の持ち主を探しており、靴のサイズぴったりに合う女性を王子の結婚相手とするとのことで、一軒一軒家を回りっているところだ」
「まぁ! なんと!」

 イザベラはニヤリとほくそ笑んだ笑みを扇で隠し、マルガリータは今や青白い顔をして一歩前に抜きん出た。

「それは私の靴ですわ。私はあの日靴を片方なくしていましたの」

 マーガレットは今や引きつり笑いをしながら、この光景を見つめている。

「それでは、一度こちらへ。靴に足を入れてもらえるかな」

 使用人の男は靴にかけられていた布を外した。ガラスの靴があらわになり、差し込む日の光を受けて幾多もの輝きを放っている。

「なんと美しい……」

 イザベラはぼそりと呟き、それを大臣達に聞かれまいと、再び扇で口元を隠した。マルガリータはこの靴を履いていたていで話をしていた。母親のイザベラがこの靴を見るのが初見では話の辻褄が合わなくなる。
 使用人がガラスの靴を床に置き、待ってましたとばかりにマルガリータは足を入れる。白いタイツを履いた足の下には紐で縛られているせいで、肉がおかしな膨らみ方をしている。まるでハムだとマーガレットは思った。
 けれどマルガリータはそれに気づき、スカートの裾をあまり上げずにそのまま靴に足を入れた。……が、当たり前だがぴったりと入るわけもない。

「おかしいですわね。ちょっと足がむくんでいるようですわ」

 無理やりギュッギュッと足をねじ込もうとするが、ガラスの靴が伸びるわけもなく、入らない。

「あー、もうよい。この靴はそなたのものではないようだ」
「お待ちくださいませ! この靴は間違いなく私のものです!」

 今にも倒れてしまいそうな青白い顔をしたマルガリータ。彼女はそれでも懸命に自分の靴だと主張する。ここまできたらその心意気はあっぱれなものだとマーガレットは半ば思っていた。

「そう主張するご令嬢はたくさんいるのだよ。我らはたくさんの家を回って忙しいのだ。ほれ、さっさとどいて次そこのご婦人も履いてみてくだされ」
「あら、私もですの?」
「ええ、この書面には全ての女性にと通達があるのでな」

 驚いた様子でイザベラが挑もうとした時、靴を無理やり取り上げられたマルガリータは床に崩れるように倒れた。

「大丈夫ですか!?」

 とっくにトイレから戻って来ていたカインがマルガリータに駆け寄る。マルガリータは完全に目を回していた。きっと強く縛った足のせいで血が止まり、貧血を起こしたのだろう。

「娘は大丈夫ですわ。申し訳ないですが、部屋はすぐそこですので連れて行ってもらえないでしょうか?」
「わかりました」

 カインは了承し、旗を持っていた兵士に向かって目配せをした。

「サンド……リュセット。マルガリータの部屋を案内してちょうだい」
「わかりましたわ、お母様」

 イザベラはリュセットに小さく耳打ちをしてから、部屋へと案内させた。部屋に戻ったら伸びているマルガリータの代わりに足の紐を解くように指示をしていた。

「それではご婦人、気を取り直して試していただけますかな?」

 イザベラは靴を履いた、がもちろんサイズは合わない。

「この靴はかなりサイズが小さいですわね?」
「ああ、だからこそなかなかフィットする方が現れないのだよ」

 首を振りながら大臣は頭を抱えた。こうやってここに来るまでに何軒の家を回ってきたのか……その疲れた様子を見るとかなりの数をすでにこなしているようだった。

「では次、そちらのご令嬢もよろしく頼む」
「はい、かしこまりました」

 次にマーガレットの番が回ってきた。マーガレットは一度会釈をしたのち、ガラスの靴に足を入れる。が、もちろんマーガレットの足はガラスの靴には合わず、入らない。

「……この通り、こちらは私の靴ではありません」

 マーガレットはあっさり身を引き、再びスカートの裾をつまんで持ち上げて会釈をした。

「あー、またダメなのか……」

 思わずこぼした大臣の愚痴。イザベラはそんな大臣に会釈をし、労った。

「大変なお勤め、ご苦労様でございます。早くその靴に見合う女性が現れることを願っておりますわ」

 これで最後とでも言いたげに。けれどこれで最後ではもちろんない。

「何を申す。もう一人のご令嬢がまだ試されておらぬではないか」
「ああ、あの子は舞踏会にも行っておりませんので履く必要もございません」
「先ほども言ったであろう。全ての女性に試すように言われているのだ。さっさと連れて参れ。こちらも時間が惜しいのでな」

 有無も言わさぬ物言いに、いささかイザベラは気分を害した様子。いや、もしかするとリュセットに試すこと自体愚行と思っての態度なのかもしれない。
 どちらにせよ、イザベラは顔を引きつらせながらリュセットを呼びつけた。

「リュセット、さっさと戻っておいで。あんたも靴を試しなさい」

 リュセットは再び玄関に現れた。けれど、その表情はどこか強張っている。

「……大変申し訳ございませんが、私はご遠慮いたしますわ」

(……えっ?)

 リュセットのスカートは膝下丈。短いスカートが上がりすぎないように、少しだけ持ち上げて会釈をした。そんな様子を見て、マーガレットは思わず開いた口が塞がらない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

悪役令嬢に転生したので、剣を執って戦い抜く

秋鷺 照
ファンタジー
 断罪イベント(?)のあった夜、シャルロッテは前世の記憶を取り戻し、自分が乙女ゲームの悪役令嬢だと知った。  ゲームシナリオは絶賛進行中。自分の死まで残り約1か月。  シャルロッテは1つの結論を出す。それすなわち、「私が強くなれば良い」。  目指すのは、誰も死なないハッピーエンド。そのために、剣を執って戦い抜く。 ※なろうにも投稿しています

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

処理中です...