サンドリヨン 〜 シンデレラの悪役令嬢(意地悪姉役)に転生したので前職を生かしてマッサージを始めました 〜

浪速ゆう

文字の大きさ
上 下
77 / 114
本編

舞踏会二日目 6

しおりを挟む
「リュセットは広間へ戻って、せっかくの舞踏会を楽しんできて」

 靴を交換し、リュセットの靴のつま先には裂いて小さくしたハンカチを詰めた。マーガレットはやはりサイズが合わないが、一旦靴を手に抱えて裸足で立っていた。

「マーガレットお姉様はどうなさるのですか?」
「私は疲れてしまったので、ここで休んでからお母様達と家に帰るわ」

 ここで休んで……と言いながら階段に腰を下ろした。

「あ、あと、お母様達はリュセットのことに気づいていないのだから、リュセットがこの舞踏会に来たことは内緒にしましょう」

 リュセットの首はコテンと、片側に傾いた。

「なぜでしょうか?」
「リュセットがここに来たと知ったら、どうやって来たのかとか、いろんなことを根掘り葉掘り聞かれて大変よ」
「確かにそうですわね……」

 考え込むような表情で、唸る。

「けれどそれなら、どうしてマーガレットお姉様は私に根掘り葉掘り質問なさらないのでしょう?」

 真っ当な疑問だった。だけどマーガレットはそれに答えるつもりもなく、ただ微笑みながらこう言った。

「なんでも知らない方がいいことだってある、でしょう? さぁリュセットは行って。楽しんで来てね」
「ありがとうございます」

 リュセットは両手でドレスの裾を少し持ち上げながら、マーガレットへ会釈をした。会釈のあとは極上の笑顔を溢れさせて、駆けて行く。

「楽しんでいらっしゃい、リュセット」

 リュセットの背中を見つめながら、小さく呟いた。すぐにリュセットの姿は見えなくなり、マーガレットは抱えたままのガラスの靴に視線を落とす。

「シンデレラだけが履ける、ガラスの靴」

 マーガレットは立ち上がり、階段をゆっくりと上っていく。ある程度上ったあと振り返ると、ライトアップされているお城が綺麗に聳え立っているのが見える。そして、その下には昨日通ったあの迷路が見えた。
 昨日は喜びで胸が高鳴り、お互いの気持ちを確かめ合った場所。

 ——ルイ王子だと知らずに。

「リュセットはルイ王子とダンスを踊るわよね……?」

 さっきリュセットが話していたアンリという男の姿が、マーガレットの脳裏に一瞬広がる。

(リュセットを見かけても、マルガリータ達と同じで知らないふりをしようとしていたのに……)

 リュセットがとても楽しそうに他の貴族の男性と話している姿を見たことがないマーガレットは、あの姿を見たとき、思わずリュセットに声をかけてしまっていた。
 マーガレットにすら変な虫、ウィリアム公爵みたいなのが来たくらいだ。リュセットにはもっとたくさんの虫が寄ってくるだろう。そんなどこの馬の骨かわからない相手にリュセットを渡さないと思っていたら、つい声が出ていたのだ。
 それが例え、運命の相手ではないにしても。それでもリュセットが他の者と楽しそうにしている姿を見ると不安になった。

 ——自分がこれほどまで心をすりつぶして、ルイ王子から離れようとしているのに、と……。

 その時、時計はボーンと大きな音を立ててこの城内に響き渡る。それは23時の時刻を知らせる音だった。
 あと一時間でリュセットの魔法は切れる。ドレスも、馬車も消えてなくなるだろう。けれどリュセットはそのあと、真実の愛を手に入れるのだ。それは時間など気にせず、消えることのないもの。
 時計の音が鳴りやんだ時、それはマーガレットの魔法が切れた時。ルイ王子との恋の魔法は、これで全て終わりなのだと、マーガレットに知らせていた。
 そんな風に感じ、マーガレットの枯れた瞳は再び歪み始める。

「ここに置いておけばきっと、見つけてくれるはずよね……?」

 リュセットから借りたガラスの靴。プリズムに輝くこの靴を、きっと誰かが見つけて、リュセットに届けてくれるはず。
 マーガレットは階段にそっと、ガラスの靴の片方だけを置き、時計の鐘が鳴り止むのを静かに聞いていた——。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...