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本編
舞踏会二日目 6
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「リュセットは広間へ戻って、せっかくの舞踏会を楽しんできて」
靴を交換し、リュセットの靴のつま先には裂いて小さくしたハンカチを詰めた。マーガレットはやはりサイズが合わないが、一旦靴を手に抱えて裸足で立っていた。
「マーガレットお姉様はどうなさるのですか?」
「私は疲れてしまったので、ここで休んでからお母様達と家に帰るわ」
ここで休んで……と言いながら階段に腰を下ろした。
「あ、あと、お母様達はリュセットのことに気づいていないのだから、リュセットがこの舞踏会に来たことは内緒にしましょう」
リュセットの首はコテンと、片側に傾いた。
「なぜでしょうか?」
「リュセットがここに来たと知ったら、どうやって来たのかとか、いろんなことを根掘り葉掘り聞かれて大変よ」
「確かにそうですわね……」
考え込むような表情で、唸る。
「けれどそれなら、どうしてマーガレットお姉様は私に根掘り葉掘り質問なさらないのでしょう?」
真っ当な疑問だった。だけどマーガレットはそれに答えるつもりもなく、ただ微笑みながらこう言った。
「なんでも知らない方がいいことだってある、でしょう? さぁリュセットは行って。楽しんで来てね」
「ありがとうございます」
リュセットは両手でドレスの裾を少し持ち上げながら、マーガレットへ会釈をした。会釈のあとは極上の笑顔を溢れさせて、駆けて行く。
「楽しんでいらっしゃい、リュセット」
リュセットの背中を見つめながら、小さく呟いた。すぐにリュセットの姿は見えなくなり、マーガレットは抱えたままのガラスの靴に視線を落とす。
「シンデレラだけが履ける、ガラスの靴」
マーガレットは立ち上がり、階段をゆっくりと上っていく。ある程度上ったあと振り返ると、ライトアップされているお城が綺麗に聳え立っているのが見える。そして、その下には昨日通ったあの迷路が見えた。
昨日は喜びで胸が高鳴り、お互いの気持ちを確かめ合った場所。
——ルイ王子だと知らずに。
「リュセットはルイ王子とダンスを踊るわよね……?」
さっきリュセットが話していたアンリという男の姿が、マーガレットの脳裏に一瞬広がる。
(リュセットを見かけても、マルガリータ達と同じで知らないふりをしようとしていたのに……)
リュセットがとても楽しそうに他の貴族の男性と話している姿を見たことがないマーガレットは、あの姿を見たとき、思わずリュセットに声をかけてしまっていた。
マーガレットにすら変な虫、ウィリアム公爵みたいなのが来たくらいだ。リュセットにはもっとたくさんの虫が寄ってくるだろう。そんなどこの馬の骨かわからない相手にリュセットを渡さないと思っていたら、つい声が出ていたのだ。
それが例え、運命の相手ではないにしても。それでもリュセットが他の者と楽しそうにしている姿を見ると不安になった。
——自分がこれほどまで心をすりつぶして、ルイ王子から離れようとしているのに、と……。
その時、時計はボーンと大きな音を立ててこの城内に響き渡る。それは23時の時刻を知らせる音だった。
あと一時間でリュセットの魔法は切れる。ドレスも、馬車も消えてなくなるだろう。けれどリュセットはそのあと、真実の愛を手に入れるのだ。それは時間など気にせず、消えることのないもの。
時計の音が鳴りやんだ時、それはマーガレットの魔法が切れた時。ルイ王子との恋の魔法は、これで全て終わりなのだと、マーガレットに知らせていた。
そんな風に感じ、マーガレットの枯れた瞳は再び歪み始める。
「ここに置いておけばきっと、見つけてくれるはずよね……?」
リュセットから借りたガラスの靴。プリズムに輝くこの靴を、きっと誰かが見つけて、リュセットに届けてくれるはず。
マーガレットは階段にそっと、ガラスの靴の片方だけを置き、時計の鐘が鳴り止むのを静かに聞いていた——。
靴を交換し、リュセットの靴のつま先には裂いて小さくしたハンカチを詰めた。マーガレットはやはりサイズが合わないが、一旦靴を手に抱えて裸足で立っていた。
「マーガレットお姉様はどうなさるのですか?」
「私は疲れてしまったので、ここで休んでからお母様達と家に帰るわ」
ここで休んで……と言いながら階段に腰を下ろした。
「あ、あと、お母様達はリュセットのことに気づいていないのだから、リュセットがこの舞踏会に来たことは内緒にしましょう」
リュセットの首はコテンと、片側に傾いた。
「なぜでしょうか?」
「リュセットがここに来たと知ったら、どうやって来たのかとか、いろんなことを根掘り葉掘り聞かれて大変よ」
「確かにそうですわね……」
考え込むような表情で、唸る。
「けれどそれなら、どうしてマーガレットお姉様は私に根掘り葉掘り質問なさらないのでしょう?」
真っ当な疑問だった。だけどマーガレットはそれに答えるつもりもなく、ただ微笑みながらこう言った。
「なんでも知らない方がいいことだってある、でしょう? さぁリュセットは行って。楽しんで来てね」
「ありがとうございます」
リュセットは両手でドレスの裾を少し持ち上げながら、マーガレットへ会釈をした。会釈のあとは極上の笑顔を溢れさせて、駆けて行く。
「楽しんでいらっしゃい、リュセット」
リュセットの背中を見つめながら、小さく呟いた。すぐにリュセットの姿は見えなくなり、マーガレットは抱えたままのガラスの靴に視線を落とす。
「シンデレラだけが履ける、ガラスの靴」
マーガレットは立ち上がり、階段をゆっくりと上っていく。ある程度上ったあと振り返ると、ライトアップされているお城が綺麗に聳え立っているのが見える。そして、その下には昨日通ったあの迷路が見えた。
昨日は喜びで胸が高鳴り、お互いの気持ちを確かめ合った場所。
——ルイ王子だと知らずに。
「リュセットはルイ王子とダンスを踊るわよね……?」
さっきリュセットが話していたアンリという男の姿が、マーガレットの脳裏に一瞬広がる。
(リュセットを見かけても、マルガリータ達と同じで知らないふりをしようとしていたのに……)
リュセットがとても楽しそうに他の貴族の男性と話している姿を見たことがないマーガレットは、あの姿を見たとき、思わずリュセットに声をかけてしまっていた。
マーガレットにすら変な虫、ウィリアム公爵みたいなのが来たくらいだ。リュセットにはもっとたくさんの虫が寄ってくるだろう。そんなどこの馬の骨かわからない相手にリュセットを渡さないと思っていたら、つい声が出ていたのだ。
それが例え、運命の相手ではないにしても。それでもリュセットが他の者と楽しそうにしている姿を見ると不安になった。
——自分がこれほどまで心をすりつぶして、ルイ王子から離れようとしているのに、と……。
その時、時計はボーンと大きな音を立ててこの城内に響き渡る。それは23時の時刻を知らせる音だった。
あと一時間でリュセットの魔法は切れる。ドレスも、馬車も消えてなくなるだろう。けれどリュセットはそのあと、真実の愛を手に入れるのだ。それは時間など気にせず、消えることのないもの。
時計の音が鳴りやんだ時、それはマーガレットの魔法が切れた時。ルイ王子との恋の魔法は、これで全て終わりなのだと、マーガレットに知らせていた。
そんな風に感じ、マーガレットの枯れた瞳は再び歪み始める。
「ここに置いておけばきっと、見つけてくれるはずよね……?」
リュセットから借りたガラスの靴。プリズムに輝くこの靴を、きっと誰かが見つけて、リュセットに届けてくれるはず。
マーガレットは階段にそっと、ガラスの靴の片方だけを置き、時計の鐘が鳴り止むのを静かに聞いていた——。
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