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本編
舞踏会二日目 5
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「マーガレットお姉様、泣いていらっしゃったのですか……?」
リュセットの言葉に、マーガレットはとっさに扇を開いて顔を隠した。泣きはらし、むくんだ瞳は暗がりの闇でも隠してはくれなかったようだ。
「違うの、これは目にゴミが入っだけで……その時に目を擦りすぎたみたいで……」
リュセットは何も言わずマーガレットの元へと駆けていき、そのまま体を抱き寄せた。マーガレットは扇から顔を覗かせることもできず、ただ黙ってリュセットに抱きしめられている。
マーガレットの気持ちが少し落ち着いた頃、リュセットは微笑みながらこう言った。
「ふふっ、マーガレットお姉様は私のことに気づいてくださったのですね。お母様もマルガリータお姉様でさえ私がリュセットだと気づかなかったというのに……」
マーガレットはそっとリュセットの体から離れ、覗くように扇から顔を出した。
「わかるわ。私には」
「さすがはマーガレットお姉様ですわね」
マーガレットの言葉にリュセットは嬉しそうに笑っている。そんな中で、リュセットはアンリの存在を一瞬とはいえ完全に忘れていたことに気づき、振り返った。けれど、アンリはすでにそこにはいない。
「……行ってしまわれましたわ」
「さっき一緒にいた方は、誰なの……?」
「アンリ様と言って……」
名前だけ言った後、リュセットは口を閉じた。よくよく考えてみるとアンリのことを何も知らないと言うことに気がついたからだ。アンリがどこの出身で、どこの貴族なのか。
「昨日私が困っている時に声をかけてくださった方なのです。とてもお優しい方ですわ」
リュセットはさっきまでアンリが立っていた場所を見つめながら、マーガレットにそう返事を戻す。けれどそれはどこか心ここにあらずといった様子だった。
「リュセット……」
「はい、お姉様」
マーガレットは扇で顔を覆うのはやめて、リュセットの肩を掴んでマーガレットへと体を向けた。
「昨夜ルイ王子と踊ったのでしょう? 王子はどうだったの? その、リュセットの好みの男性だったのかしら……?」
「お姉様もアンリ様と同じようなことを聞くのですね」
ぽつりとこぼした言葉を、マーガレットは聞き漏らした。
「えっ?」
「こっちの話です。ルイ王子はとても素敵な方でしたわ」
リュセットがにっこりと微笑みながらそう言うと、マーガレットの瞳は一瞬揺らいだ。けれど暗がりでそれはリュセットに気づかれない。マーガレットはリュセットの手を取り、歩き出した。
「リュセットこっちへ。ちょっと奥で話をしましょう」
リュセットはマーガレットに連れられるまま、お城の建物から遠のいていく。庭の中へとどんどん歩いて、足元もかなり暗い。
「どちらに行かれるのですか?」
「行けばわかるわ」
そう言って、マーガレットはどんどん進んでいく。人気のない、お城の外。庭を超えた先にある時計台だった。
「大きな時計台……近くで見ると圧巻ですわね」
リュセットは首を必死に伸ばして時計台を見上げている。そんなリュセットを背に、マーガレットは時計台へと続く階段を数歩昇ったあと、振り返ってこう言った。
「……リュセット、私はマルガリータお姉様や他の方よりもリュセットが王子様と結婚することを望むわ」
「マーガレットお姉様どうなさったのですか、急にそのようなことを言って?」
思わず戸惑いからリュセットは辺りを見渡した。そんなリュセットの手をしっかりと握りながら、マーガレットはさらに言葉をつないでいく。
「リュセットお願いがあるのだけど、いいかしら」
「なんでしょう、急に改まって……?」
リュセットが訝しげに首を小さく傾げた後、マーガレットはつん、とリュセットの足元を指してこう言った。
「そのガラスの靴を履いてみたいから、私の靴と交換してくれないかしら?」
リュセットはドレスの裾を少し持ち上げて、ガラスの靴を見た。
「いいですが……私とお姉様とでは靴のサイズが違うかと思いますわ」
「私の靴のつま先にハンカチを詰めましょう。そうすればリュセットでも履けるでしょう?」
「ですが、マーガレットお姉様がこの靴を履けませんわ」
「いいの。私は一度どうしてもその靴を履いてみたいの。履けなかっとしてももっとじっくり見て見たいの。ね? いいでしょう? 家に帰ったらきちんと返すから」
必死の様子でマーガレットが懇願している。そんな姿を見るのはあのリュセットの洋服を貸して欲しいと言っていた時以来だとリュセットは思った。ガラスの靴など珍しいもの。マーガレットが履いてみたいと思うのも致し方ないと判断したリュセットは、にっこりと笑って首を縦に振った。
「わかりましたわ、マーガレットお姉様にお貸しします」
「ありがとう」
お礼を述べたはずのマーガレットの顔は、どこか泣きそうでいて、このガラスの靴よりも脆いものに見えた。けれどそれがなぜなのかはリュセットには分からなかったが……。
リュセットの言葉に、マーガレットはとっさに扇を開いて顔を隠した。泣きはらし、むくんだ瞳は暗がりの闇でも隠してはくれなかったようだ。
「違うの、これは目にゴミが入っだけで……その時に目を擦りすぎたみたいで……」
リュセットは何も言わずマーガレットの元へと駆けていき、そのまま体を抱き寄せた。マーガレットは扇から顔を覗かせることもできず、ただ黙ってリュセットに抱きしめられている。
マーガレットの気持ちが少し落ち着いた頃、リュセットは微笑みながらこう言った。
「ふふっ、マーガレットお姉様は私のことに気づいてくださったのですね。お母様もマルガリータお姉様でさえ私がリュセットだと気づかなかったというのに……」
マーガレットはそっとリュセットの体から離れ、覗くように扇から顔を出した。
「わかるわ。私には」
「さすがはマーガレットお姉様ですわね」
マーガレットの言葉にリュセットは嬉しそうに笑っている。そんな中で、リュセットはアンリの存在を一瞬とはいえ完全に忘れていたことに気づき、振り返った。けれど、アンリはすでにそこにはいない。
「……行ってしまわれましたわ」
「さっき一緒にいた方は、誰なの……?」
「アンリ様と言って……」
名前だけ言った後、リュセットは口を閉じた。よくよく考えてみるとアンリのことを何も知らないと言うことに気がついたからだ。アンリがどこの出身で、どこの貴族なのか。
「昨日私が困っている時に声をかけてくださった方なのです。とてもお優しい方ですわ」
リュセットはさっきまでアンリが立っていた場所を見つめながら、マーガレットにそう返事を戻す。けれどそれはどこか心ここにあらずといった様子だった。
「リュセット……」
「はい、お姉様」
マーガレットは扇で顔を覆うのはやめて、リュセットの肩を掴んでマーガレットへと体を向けた。
「昨夜ルイ王子と踊ったのでしょう? 王子はどうだったの? その、リュセットの好みの男性だったのかしら……?」
「お姉様もアンリ様と同じようなことを聞くのですね」
ぽつりとこぼした言葉を、マーガレットは聞き漏らした。
「えっ?」
「こっちの話です。ルイ王子はとても素敵な方でしたわ」
リュセットがにっこりと微笑みながらそう言うと、マーガレットの瞳は一瞬揺らいだ。けれど暗がりでそれはリュセットに気づかれない。マーガレットはリュセットの手を取り、歩き出した。
「リュセットこっちへ。ちょっと奥で話をしましょう」
リュセットはマーガレットに連れられるまま、お城の建物から遠のいていく。庭の中へとどんどん歩いて、足元もかなり暗い。
「どちらに行かれるのですか?」
「行けばわかるわ」
そう言って、マーガレットはどんどん進んでいく。人気のない、お城の外。庭を超えた先にある時計台だった。
「大きな時計台……近くで見ると圧巻ですわね」
リュセットは首を必死に伸ばして時計台を見上げている。そんなリュセットを背に、マーガレットは時計台へと続く階段を数歩昇ったあと、振り返ってこう言った。
「……リュセット、私はマルガリータお姉様や他の方よりもリュセットが王子様と結婚することを望むわ」
「マーガレットお姉様どうなさったのですか、急にそのようなことを言って?」
思わず戸惑いからリュセットは辺りを見渡した。そんなリュセットの手をしっかりと握りながら、マーガレットはさらに言葉をつないでいく。
「リュセットお願いがあるのだけど、いいかしら」
「なんでしょう、急に改まって……?」
リュセットが訝しげに首を小さく傾げた後、マーガレットはつん、とリュセットの足元を指してこう言った。
「そのガラスの靴を履いてみたいから、私の靴と交換してくれないかしら?」
リュセットはドレスの裾を少し持ち上げて、ガラスの靴を見た。
「いいですが……私とお姉様とでは靴のサイズが違うかと思いますわ」
「私の靴のつま先にハンカチを詰めましょう。そうすればリュセットでも履けるでしょう?」
「ですが、マーガレットお姉様がこの靴を履けませんわ」
「いいの。私は一度どうしてもその靴を履いてみたいの。履けなかっとしてももっとじっくり見て見たいの。ね? いいでしょう? 家に帰ったらきちんと返すから」
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「わかりましたわ、マーガレットお姉様にお貸しします」
「ありがとう」
お礼を述べたはずのマーガレットの顔は、どこか泣きそうでいて、このガラスの靴よりも脆いものに見えた。けれどそれがなぜなのかはリュセットには分からなかったが……。
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