サンドリヨン 〜 シンデレラの悪役令嬢(意地悪姉役)に転生したので前職を生かしてマッサージを始めました 〜

浪速ゆう

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本編

舞踏会二日目 4

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「こんばんは。また、会いましたね」

 今夜もマーガレット達がお城へと出発してから準備をして家を出たリュセットは、またも遅れた登場となった。昨日よりも到着は早いが、入り口に人は少なく、二日目ともなると皆真っ直ぐ大広間へと向かったようだ。
 そんな中で再びであったのは、昨日出会ったあの貴族だ。

「こんばんは。またお会いしましたわね」

 リュセットはしっかりと会釈をした後、顔を上げて微笑んだ。今宵もアリスに魔法をかけてもらい綺麗に着飾ったリュセットの極上の笑顔は、誰もが虜になるほどの優美さだ。
 そんな中でこの貴族の男性は兵士や他の貴族とは違い、外見にとらわれることなく紳士的な笑顔を返した。

「これから大広間へ向かわれるのですか?」
「いえ、まだどうするか考えていたところですわ。人混みにも舞踏会にも慣れておりませんので、どうしても人の目が気になってしまって落ち着かないのです」

 リュセットは未だに周りの視線がなぜ自分に向いているのかを理解していない。この男性にも他の殿方にもその美貌を褒められたところで、全ては社交の場、リップサービスだと考えていた。

「そう言う、あなた様は……えっと……」

 そういえば、名前を聞いていなかったことに気がついた。そんなリュセットの様子に微笑みを携えて、男は会釈をしながらこう言った。

「そういえば、お互い名を名乗っていませんでしたね。私はアンリと申します」

 リュセットもアンリにならい、再び会釈を返す。

「アンリ様。私はリュセットと申します」
「リュセット。可愛らしい名ですね」

 顔を上げるとアンリの整った顔がリュセットを見つめている。昨夜共に踊った王子様と負けず劣らずの美青年。

「もしお時間あるようでしたら、少し外でお話ししませんか?」
「私は構いませんが、アンリ様は今夜も舞踏会には参加されないおつもりですか?」

 参加されないつもりなら、どうしてここに来ているのだろう。そんな素朴な疑問からの問いだった。
 アンリはリュセットに肘を差し出し、エスコートするように外に連れ出す。廊下を歩いて正面玄関とは別の出口から外へと向かいながら、アンリはリュセットの問いにこう答える。

「ええ、元々ダンスは好きではありませんから」
「ではなぜ、舞踏会へ?」
「付き合い、というものですよ」

 にっこりと微笑んだその笑顔は、どこか距離を感じる笑みだとリュセットは感じた。先ほどまではそんな風に感じなかっただけに、そんな違和感を不思議に思いながらもリュセットはアンリと外へと繰り出した。

「リュセットこそ、昨夜のダンスはいかがでしたか? 噂ではあのルイ王子とダンスを踊られたとか」

 その言葉に、リュセットは昨夜のことを思い出して瞳を輝かせた。

「それはそれは、夢のような時間でした……私が王子様と踊るなど、夢にも思っていませんでしたから。ルイ王子はとても紳士的で、ダンスの下手な私を優しくエスコートしてくださったのです」

 リュセットが夢を見るような瞳で語り、それを優しく見守るアンリ。二人は微笑み合いながら、空の星を見上げた。

「リュセットはルイ王子がお好きですか?」
「ええ、言葉はさほど話していませんが、良い方だと思いますわ」
「ではリュセット、もしルイ王子がリュセットのことを気に入れば、あなたはルイ王子と結婚したいと思いますか?」

 トロンとした夢見るような瞳で空を見上げていたリュセットは、この言葉にどんぐりのような大きな瞳をさらに見開いてアンリに視線を向けた。

「それはまた……大きな夢物語ですわね」

 リュセットはクスクスと笑いながら小さな肩を揺らした。

「夢物語などではありませんよ。王はルイ王子の花嫁候補を探しておいでです。そして昨夜あなたは唯一ルイ王子とダンスを踊られた女性です」
「それでしたらきっと今夜王子様は他の方と踊るでしょうし、そうすればきっと、私なんかよりもっと美しい方や聡明な方をお選びになりますわ」
「あなたはとても自己評価が低い。リュセットは今日ここにいる誰よりも美しく、聡明な方だと私は思います」

 リュセットは再びクスクスと笑う。アンリがあまりにも真剣な瞳でそんな冗談としか思えない言葉を言うからだった。

「そのお言葉、本当に嬉しく思います」
「私は冗談で言っているのではないのですよ」

 アンリは真剣だった。けれど、リュセットにはその言葉が本心だとはどうしても思えない。

「昨日今日お会いしただけで何がわかるのかと言われれば、お答えするのは難しですが、私はこれでも人を見る目はあると思っています」
「アンリ様はお優しいのですね」
「いえいえ、あなたほどではありません」

 言って、二人は見つめ合って微笑んだ。そんな時だった。

「リュセット……?」

 リュセットの背後から声がした。振り返って見ると、そこにいたのは——。

「マーガレットお姉様!」

 暗がりから出て来たのは、姉のマーガレットだった。マーガレットに出会った瞬間、微笑みを送った後すぐ、眉尻を落とした。
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