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本編
舞踏会二日目 2
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単調なワルツ。ダンスは男性が女性をエスコートするもの。そのため、女性は男性に合わせる技術だけ持ち合わせていれば簡単な社交のダンスであれば踊ることができる。
ダンスも男性の性格が出るようで、このウィリアム公爵はどこかマーガレットを自分の思い通りに動かそうと自分勝手な感じがダンスの節々で見受けられ、マーガレットは微笑みをキープするのがやっとだった。気を抜けば眉間にシワを寄せそうになるからだ。
「ダンスが上手くないなど、とんだご謙遜だ」
「いえ、ウィリアム様がとてもお上手なのですわ。私はウィリアム様についていくのでやっとですから」
「ははっ、その上社交辞令も上手いよ」
「本心ですわ。嘘をつくのは上手くないのです」
ウィリアム公爵は気分を良くしたのか、マーガレットを抱き寄せる力がさらに加わった。それによってマーガレットは公爵の体にかなり密着するような形になった。これではむしろ踊りにくい上、身動きが取れない。
「ダンスもいいが、少しゆっくりと話がしたい。このままダンスをするフリをしてあのテラスから外へと出ようではないか」
ピクリ、とマーガレットの口角が揺らぐ。必死に貼り付けた笑顔が崩れかけたのだ。
「ウィリアム様それはいけませんわ。私の姉とこの後ダンスを踊るお約束をなさってるではございませんか」
「マルガリータ嬢であれば他の殿方と踊るだろう。私はもう少しマーガレットと話がしたい」
(私は全然したくないんだけど……)
振りほどくこともできない。ダンスはまだ続いている。その上このダンスの主導権を握っているのはウィリアム公爵の方だ。踊りながらもマーガレット達はどんどんテラスへと向かって広間の端へと移動していく。それを抵抗することも叶わない。
マーガレットがウィリアム公爵を避けたいと思ったもう一つの理由は、何かあれば相手は公爵。立場は上だ。下手なあしらい方をしては角が立つとわかっているだけに避けたかったのだ。
けれどこうなってはもうどうしようもないのだが。
「では、少しの間だけだと約束してくださいますか?」
「もちろんだとも」
マーガレットは心の中でだけため息をこぼして、ウィリアム公爵と外に出た。
夜風が涼しくマーガレットの頬を撫でる。広間の美しい旋律も夜風が優しく届けてくれる。マーガレットの背後でバタンと扉が閉まる音がして、振り返ると——。
「さぁ、少し歩きながら話しでもしよう」
ウィリアム公爵はマーガレットの腰に手を添えながら、テラスの階段を降りて庭に向かって歩き始める。
「あまり遠くへは……お母様達も私を探すかもしれませんので」
笑顔は今や引きつり笑い。マーガレットはウィリアム公爵の手をそっと腰から離そうと手を掴んだが、ビクともしない。挙げ句の果てに、こんな一言を囁かれた。
「マーガレットの方から手を繋いでくるとは、見た目によらずなかなか大胆だな」
「いえ、手を腰に回されては歩きにくいので離そうとしたのです」
「大胆なのは嫌いじゃない。だから照れることはないよ」
ウィリアム公爵はマーガレットの指に自分のものを絡めながら、ハの字のヒゲを撫で付けて微笑んでいる。その笑みはマーガレットの足元から無数の小さな虫が這いずり上がってくるような感覚を覚える、笑みだった。
庭には明りはあるが人気はない。マーガレットの腰を引き寄せられ、ウィリアム公爵の方へと体を無理矢理向けさせられる。距離も近い。公爵の胸に手を当て、両手で押し返そうとするが、全くビクともしない。挙句、その手を取られて、手のひらにキスをされた。
(……ヒィッ!)
ねちっこい瞳がマーガレットを震え上がらせる。
「あの、離していただけますか?」
「誘ってきたのはそっちだろう?」
「誘ってなど……」
ウィリアム公爵はマーガレットの顎をクイっと持ち上げて、瞳が目と鼻の先でカチ合った。顔を逸らそうとするが、力の差は歴然。マーガレットは身動きが取れない。
(……やだ、キモい! でも相手は公爵だ。ここで下手な断り方をしたら……)
頭の中では答えの出ない問答が、頭の中でぐるぐると渦を巻いている。
「私、まだその、ウィリアム様のことをよくご存知ないので……」
「それなら、この後、ゆっくり知っていけばいいよ」
鼻息荒く、執拗に攻めてくる。やはりマーガレットの直感は正しかったのだと痛感した。下心しかないこの男、肩書きだけできっと何人もの女性を食い物にしているのだろう。中にはマーガレットのように断れない女性が、泣き寝入りする羽目になる。
ウィリアム公爵の顔がまるで時計の秒針のように、少しずつ近づいてくる。
(——助けて……!)
助けの言葉も口にできないまま、マーガレットはぎゅっと目を閉じた。
ダンスも男性の性格が出るようで、このウィリアム公爵はどこかマーガレットを自分の思い通りに動かそうと自分勝手な感じがダンスの節々で見受けられ、マーガレットは微笑みをキープするのがやっとだった。気を抜けば眉間にシワを寄せそうになるからだ。
「ダンスが上手くないなど、とんだご謙遜だ」
「いえ、ウィリアム様がとてもお上手なのですわ。私はウィリアム様についていくのでやっとですから」
「ははっ、その上社交辞令も上手いよ」
「本心ですわ。嘘をつくのは上手くないのです」
ウィリアム公爵は気分を良くしたのか、マーガレットを抱き寄せる力がさらに加わった。それによってマーガレットは公爵の体にかなり密着するような形になった。これではむしろ踊りにくい上、身動きが取れない。
「ダンスもいいが、少しゆっくりと話がしたい。このままダンスをするフリをしてあのテラスから外へと出ようではないか」
ピクリ、とマーガレットの口角が揺らぐ。必死に貼り付けた笑顔が崩れかけたのだ。
「ウィリアム様それはいけませんわ。私の姉とこの後ダンスを踊るお約束をなさってるではございませんか」
「マルガリータ嬢であれば他の殿方と踊るだろう。私はもう少しマーガレットと話がしたい」
(私は全然したくないんだけど……)
振りほどくこともできない。ダンスはまだ続いている。その上このダンスの主導権を握っているのはウィリアム公爵の方だ。踊りながらもマーガレット達はどんどんテラスへと向かって広間の端へと移動していく。それを抵抗することも叶わない。
マーガレットがウィリアム公爵を避けたいと思ったもう一つの理由は、何かあれば相手は公爵。立場は上だ。下手なあしらい方をしては角が立つとわかっているだけに避けたかったのだ。
けれどこうなってはもうどうしようもないのだが。
「では、少しの間だけだと約束してくださいますか?」
「もちろんだとも」
マーガレットは心の中でだけため息をこぼして、ウィリアム公爵と外に出た。
夜風が涼しくマーガレットの頬を撫でる。広間の美しい旋律も夜風が優しく届けてくれる。マーガレットの背後でバタンと扉が閉まる音がして、振り返ると——。
「さぁ、少し歩きながら話しでもしよう」
ウィリアム公爵はマーガレットの腰に手を添えながら、テラスの階段を降りて庭に向かって歩き始める。
「あまり遠くへは……お母様達も私を探すかもしれませんので」
笑顔は今や引きつり笑い。マーガレットはウィリアム公爵の手をそっと腰から離そうと手を掴んだが、ビクともしない。挙げ句の果てに、こんな一言を囁かれた。
「マーガレットの方から手を繋いでくるとは、見た目によらずなかなか大胆だな」
「いえ、手を腰に回されては歩きにくいので離そうとしたのです」
「大胆なのは嫌いじゃない。だから照れることはないよ」
ウィリアム公爵はマーガレットの指に自分のものを絡めながら、ハの字のヒゲを撫で付けて微笑んでいる。その笑みはマーガレットの足元から無数の小さな虫が這いずり上がってくるような感覚を覚える、笑みだった。
庭には明りはあるが人気はない。マーガレットの腰を引き寄せられ、ウィリアム公爵の方へと体を無理矢理向けさせられる。距離も近い。公爵の胸に手を当て、両手で押し返そうとするが、全くビクともしない。挙句、その手を取られて、手のひらにキスをされた。
(……ヒィッ!)
ねちっこい瞳がマーガレットを震え上がらせる。
「あの、離していただけますか?」
「誘ってきたのはそっちだろう?」
「誘ってなど……」
ウィリアム公爵はマーガレットの顎をクイっと持ち上げて、瞳が目と鼻の先でカチ合った。顔を逸らそうとするが、力の差は歴然。マーガレットは身動きが取れない。
(……やだ、キモい! でも相手は公爵だ。ここで下手な断り方をしたら……)
頭の中では答えの出ない問答が、頭の中でぐるぐると渦を巻いている。
「私、まだその、ウィリアム様のことをよくご存知ないので……」
「それなら、この後、ゆっくり知っていけばいいよ」
鼻息荒く、執拗に攻めてくる。やはりマーガレットの直感は正しかったのだと痛感した。下心しかないこの男、肩書きだけできっと何人もの女性を食い物にしているのだろう。中にはマーガレットのように断れない女性が、泣き寝入りする羽目になる。
ウィリアム公爵の顔がまるで時計の秒針のように、少しずつ近づいてくる。
(——助けて……!)
助けの言葉も口にできないまま、マーガレットはぎゅっと目を閉じた。
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