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本編
道中
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「ああ、今日こそ素敵な殿方とお近づきになるわ!」
そう意気込んでいるのはマルガリータだ。馬車に揺られながらも、その瞳に轟々と燃え盛る炎のような熱を込めて。
「あまり肩の力を入れすぎて下品な行いをしないよう気をつけなさい。品格が大事だよ、マルガリータ」
「もちろんわかっていますわ、お母様」
マルガリータは澄ました顔で扇を開き、緩やかに顔を扇ぐ。
「あと、男性から話しかけられるのなら話は別だけど、自分から男性に話しかけに行こうとするんじゃないよ。話しかけたい方がいるなら私が取り次ぐからね」
「わかっていますわよ」
憤慨した様子で、顔を扇ぐ扇の勢いが増した。沸点の低いマルガリータには品格という言葉はかなり位が高いもののようにマーガレットは思っていた。
「あと、マーガレットも」
二人の会話など人ごとのようにそっちのけで、窓の外だけを見ていたマーガレットは突然呼ばれた自分の名に反応するのが少し遅れた。
「あっ、はい。なんでしょうかお母様」
「今日はマーガレットにも殿方を取り次ぐつもりだから、ちゃんと気合いを入れるんだよ。あのカインとか言う騎士に——」
「大丈夫ですわお母様。心配をおかけいたしました」
マーガレットは微笑みながらイザベラをたしなめた。
「私のこのドレス姿を見て、幻滅されたカイン様とはもう何もありませんわ」
マーガレットの言葉に、疑いの色を乗せて視線を向ける。そんな視線から逃れることも隠れることもせず、マーガレットは真っ直ぐ見つめてこう言った。
「いくらか弁解したのですが、カイン様はお許しにはなりませんでした」
マーガレットは一瞬目を伏せた後、再びイザベラと向き合った。
「たかがドレスごときで、あのように気分を害されるような方など、こちらから願い下げです。やはりお母様のおっしゃる通り、騎士などダメですわね」
ため息をつきながら、マーガレットは吐き捨てるようにそう言った。
これだけ言ってもイザベラはまだ疑うような目でマーガレットを見ていたが、やがてそれも消え、手に持つ扇をパタリと閉じた。
「まぁなんにせよ、マーガレットが騎士を諦めたのならいいことだ。公爵家の方もたくさんお見かけしたからね。しっかり頑張りなさい」
「はい、そのつもりです」
マーガレットの言葉を聞いて、隣に座るマルガリータが「ふんっ」と鼻を鳴らした。意気込んでいる様子が気に入らないのか、マーガレットのことをライバルのように感じての反応なのか。どちらにしてもマーガレットからすれば面倒な話だった。
騎士との恋愛をしてると知れば、楽しんでイザベラへ告げ口し、かと言ってやめれば自分のシェアが減るとでも言いたげに文句を言う。実姉はマルガリータだが、マーガレットからすれば本当の姉妹はリュセットなのだと思えずにはいられなかった。
「そう言えば、昨夜黄褐色のドレスを着てらしたご令嬢にトイレで居合わせたのですが——」
「黄褐色? それってエトワール家のリズイラ嬢のことかしら」
マルガリータは扇で鼻まで顔を隠しながら身を引いた。まるで臭い匂いのものが目の前にでもあると言わんばかりの反応だ。
黄褐色のドレスなど、探せばたくさんいた。国中の貴族が集まったパーティだ。マーガレットはドレスの特徴だけでは伝わらないと思っていたにも関わらず、いの一番に飛び出した名前がこれだ。その上この反応……マルガリータだけでなく、向かいに座るイザベラですら眉間に深いシワを寄せていた。
「リズイラ嬢とは、頭に孔雀の羽を幾本も刺していた……?」
マルガリータはマーガレットの反応を見て、イザベラと同じような顔を向ける。なぜマーガレットがリズイラ嬢のことを知らないのかと言いたげに。
「ちょっと、思い出したくもない相手でしたので一瞬ど忘れしてしまいましたわ」
ほほほっ、とマーガレットも扇を開いて口元を隠した。この二人の様子と昨日の会った彼女の様子からして、関係は良好ではない様子。それを逆手にとって嫌味を交えて冗談めかせてそう言うと、珍しくマルガリータが笑いながら同意した。
「あははっ、それは間違いないわね。できることであれば一生関わりたくもなければ、あんな生意気な小娘の顔など見たくもないわ」
「マルガリータ口を慎みなさい。それを決して外でいうんじゃないよ。あのご令嬢も曲がりなりにうちと同じ伯爵令嬢だからね。侯爵家との繋がりも多いから付かず離れずを保ちなさい」
「ですが絡んでくるのはあの小……オホン、リズイラ令嬢の方ですのよ。人のことをすぐに小馬鹿にしようとするし、口を開けば私を辱めようとするのですわ」
マルガリータのセリフはまるでマルガリータがリュセットにしている光景を聞いているようだ。リズイラ令嬢の昨日の態度を見ていて、きっとマルガリータもリズイラ令嬢も、どちらも同じように蔑み合っているのだろうとマーガレットは推測した。
そして、以前であればその中にマーガレットも入っていたのだろうと……。マーガレットもマルガリータと同じく悪役令嬢。口は悪く、性格も歪んでいる。それがシンデレラの悪姉というものだ。
「マルガリータの言ってることはもちろん分かってるよ。リズイラ嬢の母親も相当な毒だからね」
イザベラは目を鋭く尖らせた。イザベラとリズイラ令嬢の関係もマルガリータとリズイラ令嬢と変わらない環境なのだろうと簡単に想像がつく。
「さぁ、とにかくもう城だ。美しく上品な令嬢として振る舞うんだよ、二人とも」
マルガリータは何も言わず、ただ扇で顔を扇ぎながら目を細めてお城を見やる。そんな細めた瞳の奥では、闘魂を赤々と燃やしながら。
そう意気込んでいるのはマルガリータだ。馬車に揺られながらも、その瞳に轟々と燃え盛る炎のような熱を込めて。
「あまり肩の力を入れすぎて下品な行いをしないよう気をつけなさい。品格が大事だよ、マルガリータ」
「もちろんわかっていますわ、お母様」
マルガリータは澄ました顔で扇を開き、緩やかに顔を扇ぐ。
「あと、男性から話しかけられるのなら話は別だけど、自分から男性に話しかけに行こうとするんじゃないよ。話しかけたい方がいるなら私が取り次ぐからね」
「わかっていますわよ」
憤慨した様子で、顔を扇ぐ扇の勢いが増した。沸点の低いマルガリータには品格という言葉はかなり位が高いもののようにマーガレットは思っていた。
「あと、マーガレットも」
二人の会話など人ごとのようにそっちのけで、窓の外だけを見ていたマーガレットは突然呼ばれた自分の名に反応するのが少し遅れた。
「あっ、はい。なんでしょうかお母様」
「今日はマーガレットにも殿方を取り次ぐつもりだから、ちゃんと気合いを入れるんだよ。あのカインとか言う騎士に——」
「大丈夫ですわお母様。心配をおかけいたしました」
マーガレットは微笑みながらイザベラをたしなめた。
「私のこのドレス姿を見て、幻滅されたカイン様とはもう何もありませんわ」
マーガレットの言葉に、疑いの色を乗せて視線を向ける。そんな視線から逃れることも隠れることもせず、マーガレットは真っ直ぐ見つめてこう言った。
「いくらか弁解したのですが、カイン様はお許しにはなりませんでした」
マーガレットは一瞬目を伏せた後、再びイザベラと向き合った。
「たかがドレスごときで、あのように気分を害されるような方など、こちらから願い下げです。やはりお母様のおっしゃる通り、騎士などダメですわね」
ため息をつきながら、マーガレットは吐き捨てるようにそう言った。
これだけ言ってもイザベラはまだ疑うような目でマーガレットを見ていたが、やがてそれも消え、手に持つ扇をパタリと閉じた。
「まぁなんにせよ、マーガレットが騎士を諦めたのならいいことだ。公爵家の方もたくさんお見かけしたからね。しっかり頑張りなさい」
「はい、そのつもりです」
マーガレットの言葉を聞いて、隣に座るマルガリータが「ふんっ」と鼻を鳴らした。意気込んでいる様子が気に入らないのか、マーガレットのことをライバルのように感じての反応なのか。どちらにしてもマーガレットからすれば面倒な話だった。
騎士との恋愛をしてると知れば、楽しんでイザベラへ告げ口し、かと言ってやめれば自分のシェアが減るとでも言いたげに文句を言う。実姉はマルガリータだが、マーガレットからすれば本当の姉妹はリュセットなのだと思えずにはいられなかった。
「そう言えば、昨夜黄褐色のドレスを着てらしたご令嬢にトイレで居合わせたのですが——」
「黄褐色? それってエトワール家のリズイラ嬢のことかしら」
マルガリータは扇で鼻まで顔を隠しながら身を引いた。まるで臭い匂いのものが目の前にでもあると言わんばかりの反応だ。
黄褐色のドレスなど、探せばたくさんいた。国中の貴族が集まったパーティだ。マーガレットはドレスの特徴だけでは伝わらないと思っていたにも関わらず、いの一番に飛び出した名前がこれだ。その上この反応……マルガリータだけでなく、向かいに座るイザベラですら眉間に深いシワを寄せていた。
「リズイラ嬢とは、頭に孔雀の羽を幾本も刺していた……?」
マルガリータはマーガレットの反応を見て、イザベラと同じような顔を向ける。なぜマーガレットがリズイラ嬢のことを知らないのかと言いたげに。
「ちょっと、思い出したくもない相手でしたので一瞬ど忘れしてしまいましたわ」
ほほほっ、とマーガレットも扇を開いて口元を隠した。この二人の様子と昨日の会った彼女の様子からして、関係は良好ではない様子。それを逆手にとって嫌味を交えて冗談めかせてそう言うと、珍しくマルガリータが笑いながら同意した。
「あははっ、それは間違いないわね。できることであれば一生関わりたくもなければ、あんな生意気な小娘の顔など見たくもないわ」
「マルガリータ口を慎みなさい。それを決して外でいうんじゃないよ。あのご令嬢も曲がりなりにうちと同じ伯爵令嬢だからね。侯爵家との繋がりも多いから付かず離れずを保ちなさい」
「ですが絡んでくるのはあの小……オホン、リズイラ令嬢の方ですのよ。人のことをすぐに小馬鹿にしようとするし、口を開けば私を辱めようとするのですわ」
マルガリータのセリフはまるでマルガリータがリュセットにしている光景を聞いているようだ。リズイラ令嬢の昨日の態度を見ていて、きっとマルガリータもリズイラ令嬢も、どちらも同じように蔑み合っているのだろうとマーガレットは推測した。
そして、以前であればその中にマーガレットも入っていたのだろうと……。マーガレットもマルガリータと同じく悪役令嬢。口は悪く、性格も歪んでいる。それがシンデレラの悪姉というものだ。
「マルガリータの言ってることはもちろん分かってるよ。リズイラ嬢の母親も相当な毒だからね」
イザベラは目を鋭く尖らせた。イザベラとリズイラ令嬢の関係もマルガリータとリズイラ令嬢と変わらない環境なのだろうと簡単に想像がつく。
「さぁ、とにかくもう城だ。美しく上品な令嬢として振る舞うんだよ、二人とも」
マルガリータは何も言わず、ただ扇で顔を扇ぎながら目を細めてお城を見やる。そんな細めた瞳の奥では、闘魂を赤々と燃やしながら。
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