サンドリヨン 〜 シンデレラの悪役令嬢(意地悪姉役)に転生したので前職を生かしてマッサージを始めました 〜

浪速ゆう

文字の大きさ
上 下
60 / 114
本編

ルイ王子の本音 1

しおりを挟む
 ——遡ること、数時間前。

「誕生日の今日も職務をこなされ、ご立派ですね」

 年齢は若いが実力派と名高い騎士団の長を務めるカイン。窓の外を見つめながら執務の手が止まっているルイ王子にサインを貰う書類を片手に、そう聞いた。

「なんだ、わざわざ嫌味を言いにきたのか?」
「滅相も無いことにございます。以前ルイ王子から助言をいただいた件について、こちらの書類にもサインをお願いいたします」

 ルイ王子はカインから書類を奪うようにもぎ取り、それに目を通す。

「あの街の付近には賊が多いからな。警護の数を増やすのはいいことだ」

 そう言ってルイ王子はサラサラとサインを書き、書類をカインに突き返した。

「そうですね。ルイ王子が最近入れ込んでいる令嬢がいる街の付近ですからね。しっかり警護いたします」

 カインの言葉に、ルイ王子の神経質そうな眉がピクリと揺れる。

「今日はやけに突っかかるではないか。いや、カインの嫌味はいつものことか」
「ルイ王子が私の名を使いやたら滅多に城を抜け出すもので、こちらはその尻拭いで大変なのですよ」

 ルイ王子は何も言わず机の上に乗っている書類の山から一枚書類を取り、それに目を通す。

「用はそれだけか。ならばさっさと業務に戻れ」

 都合が悪くなるとすぐに話をはぐらかそうとする。カインはそんなルイ王子の人となりを知っているが故に、話を続けた。

「そういえば、先日発注しておいたドレスはどなたに送られたのでしょうか?」

 カインとルイ王子は幼少時代より知る仲だ。それもあってか、王子が気分転換で城の外に繰り出す時いつも名乗るのはカインの名前だった。王子が城を出るには基本誰かの付添が必要だが、どこに行くでもなく気ままに馬を走らせて鬱憤を晴らすように出かけるルイ王子にはそれが窮屈でもあった。そのためこっそりと城を抜け出しては、王子だとバレないように名を偽っていた。その為、ルイ王子のツケはいつもカイン宛に届くのだ。先日もカインの名義で離れた田舎に小さな家を購入していた。支払いはもちろんルイ王子が処理するが、見に覚えのない請求が届いた時には普段動じることのあまりないカインですら目を丸めた。
 その仕返しでもするように、カインはルイ王子に詰め寄った。ドレスを送った相手は多分マーガレットと言うあの街に住む令嬢だろうと踏んでいたのだが。

「ああその会話で思い出したが、今夜マーガレットを直接招待している。以前俺の代理で伝言を頼んだあの街の令嬢だ。彼女があのドレスを着てお前のことを探すだろうから、トピアリーの庭の奥で待つ俺のところまで誘導を頼んだ。マーガレットは使用人や兵士にお前のことを聞くだらろうからな」

 あっさりとルイ王子はそう告げた。ドレスを送った相手が誰なのか冷やかすつもりであったが、こうもあっさりマーガレットに渡したことを認められてしまってはカインからしては全く面白くもない結果だ。

「わざわざ直接招待なさったのですか? 王がこの国の令嬢には皆招待状を送っているというのに……?」

 どれほどその令嬢に入れ込んでいるのか。カインは思わず眉根を寄せた。それもそのはず、この王子は20歳になったこの歳まで結婚どころか婚約者すら受け入れなかった人間だ。そんな王子を見かねた王が今回の舞踏会を開いたのだ。

「ああ、何か問題があるのか?」
「いえ……」
「ならばさっさと持ち場へ戻れ。お前はやることがたくさんあるだろう」

 ルイ王子は再び書類に目を通している。そんな様子に、カインは会釈をしてからルイ王子の部屋を後にした。

(それほどまでにルイ王子の心を射止めた相手とは……一体どんな令嬢なのやら……)

 ルイ王子がカインと名乗りマーガレットからマッサージを受けていた時、一度公務が終わらずマーガレットと会う約束が守れなかった。その時にカインに言伝を頼んでいた。その時初めてルイ王子がカインの名を名乗り、その街にいる令嬢と会っていることを知ったのだ。
 言伝を受け、カインはマーガレットの街の入り口で待っていたが、やって来たのはマーガレットの妹だというリュセットだった。マーガレットもまた家から出れない理由があると聞き、手紙を預かった。そのためカインはマーガレットには一度も会えていないのだ。堅物なルイ王子の心を射止めたマーガレットという女性がどのような令嬢なのか、気にするなという方が無理な話だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...