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本編
舞踏会当日 2
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「ルイ王子が生まれた時はそれはそれは美しい王子だと囃し立てられたものさ。あまり表に出たがらない性格なのか、王位を継承するまではお見かけすることは少ないけれどね。王が統治の才をお持ちで、隣国とうまく言っているのもそのためさ。だからきっと、王子は立派な方だろうよ」
いつも何かに不平不満をこぼしていないと気が済まないような母親が、今日だけは雄弁だ。そのことだけででも王子に対して良い印象を持っていることが明らかだった。これならばリュセットはきっと将来の不安もないだろうと、マーガレットは安心していた。
「さぁ、話は終わりだよ。食事を済ませたらもう一度ダンスの復習でもしなさい。着替えと髪の結ひ上げはサンドリヨンに手伝ってもらうんだ」
「灰かぶり、私の新しいドレスにその灰をつけたら承知しませんわよ」
失礼なことを言う、醜い姉マルガリータ。曲がりなりにも実姉。バッドエンドはできることなら回避して欲しいと考えていたマーガレットだが、彼女にはバットエンドで罰が必要なのかもしれないと思った。
マルガリータの醜い言葉にイライラした感情を、このスープで流し込むようなイメージでマーガレットはそれを飲み干した。
「ではお母様。私の預けていたドレス、後ほど受け取りに参りますわ」
席を立とうとしたマーガレットに対し、イザベラはまだ食事をとりながらこう言った。
「この間買ってあげたドレスを着て行きなさい」
「それは明日の夜に着ます。今日はカイン様にいただいたもので伺いたいのですわ」
二着持っているマーガレットに不満をぶつけるようにして、マルガリータは彼女を睨みつけている。マルガリータは代わりにアクセサリーを買ってもらっていると言うのに、底なしの貪欲さだ。
「だったら二夜とも買ったドレスを着て行きなさい」
「なぜですか!」
この問答はもうやり飽きた。にも関わらず、マーガレットは怒りを抑えられずにテーブルを叩いた。
「私は今日までちゃんと言い付けも守りました。カイン様にはドレスのお礼を言いますが、あとは接しません。お母様の言う通りに他の殿方を探すつもりです」
それは嘘だ。けれどもう、嘘でも付かなければ舞踏会には連れていってもらえないかもしれない。お城まではかなりの距離があるため、馬車に乗らなければ到底行ける距離ではないのだ。
「それは良い心がけだよマーガレット。そうやってきちんと言い付けを守ってるのが私のマーガレットだ」
「でしたら……」
「けれどドレスはダメだ。それを着ていけば、周りの人はどう思う? その騎士もマーガレットに気があるからドレスなんて高価なものをよこしたのだろう? だったらマーガレットがそれを着ていけばその騎士はどう思う? わかるね?」
イザベラは食事をしていた手を止め、テーブルの上で両手を組んでマーガレットを真っ直ぐ見ている。
「それでは……約束が違います……」
「これはマーガレットのためなんだよ」
マーガレットは歯を食いしばりイザベラを睨みつけた。そのままドレスの裾を持ち上げて、イザベラの部屋へと駆け出した——その背中に向かってイザベラはこう言った。
「そんなに急いで探しに行っても、ドレスはとっくに売ってもうこの家には無いんだよ」
いきり立っていたマーガレットの気持ちが、一気に冷めていくのを感じる。走り出した足もピタリと止まっていた。
「今、なんと……? なんと言ったのですか……?」
聞き間違えかと思い。マーガレットは恐る恐る振り返った。聞き間違いであってほしいと、そう願って。
けれど現実は残酷なものだった。
「あのドレスは売ってしまったよ。あんたのドレスを買うためにね」
マルガリータはざまあ無いと言いたげに声を殺して笑っている。イザベラは再びスプーンを手に取り、食事の続きを取り始めた。
けれどそんな状況はどうでもよかった。マーガレットの目の前は真っ暗な闇が広がっていた……。
いつも何かに不平不満をこぼしていないと気が済まないような母親が、今日だけは雄弁だ。そのことだけででも王子に対して良い印象を持っていることが明らかだった。これならばリュセットはきっと将来の不安もないだろうと、マーガレットは安心していた。
「さぁ、話は終わりだよ。食事を済ませたらもう一度ダンスの復習でもしなさい。着替えと髪の結ひ上げはサンドリヨンに手伝ってもらうんだ」
「灰かぶり、私の新しいドレスにその灰をつけたら承知しませんわよ」
失礼なことを言う、醜い姉マルガリータ。曲がりなりにも実姉。バッドエンドはできることなら回避して欲しいと考えていたマーガレットだが、彼女にはバットエンドで罰が必要なのかもしれないと思った。
マルガリータの醜い言葉にイライラした感情を、このスープで流し込むようなイメージでマーガレットはそれを飲み干した。
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「この間買ってあげたドレスを着て行きなさい」
「それは明日の夜に着ます。今日はカイン様にいただいたもので伺いたいのですわ」
二着持っているマーガレットに不満をぶつけるようにして、マルガリータは彼女を睨みつけている。マルガリータは代わりにアクセサリーを買ってもらっていると言うのに、底なしの貪欲さだ。
「だったら二夜とも買ったドレスを着て行きなさい」
「なぜですか!」
この問答はもうやり飽きた。にも関わらず、マーガレットは怒りを抑えられずにテーブルを叩いた。
「私は今日までちゃんと言い付けも守りました。カイン様にはドレスのお礼を言いますが、あとは接しません。お母様の言う通りに他の殿方を探すつもりです」
それは嘘だ。けれどもう、嘘でも付かなければ舞踏会には連れていってもらえないかもしれない。お城まではかなりの距離があるため、馬車に乗らなければ到底行ける距離ではないのだ。
「それは良い心がけだよマーガレット。そうやってきちんと言い付けを守ってるのが私のマーガレットだ」
「でしたら……」
「けれどドレスはダメだ。それを着ていけば、周りの人はどう思う? その騎士もマーガレットに気があるからドレスなんて高価なものをよこしたのだろう? だったらマーガレットがそれを着ていけばその騎士はどう思う? わかるね?」
イザベラは食事をしていた手を止め、テーブルの上で両手を組んでマーガレットを真っ直ぐ見ている。
「それでは……約束が違います……」
「これはマーガレットのためなんだよ」
マーガレットは歯を食いしばりイザベラを睨みつけた。そのままドレスの裾を持ち上げて、イザベラの部屋へと駆け出した——その背中に向かってイザベラはこう言った。
「そんなに急いで探しに行っても、ドレスはとっくに売ってもうこの家には無いんだよ」
いきり立っていたマーガレットの気持ちが、一気に冷めていくのを感じる。走り出した足もピタリと止まっていた。
「今、なんと……? なんと言ったのですか……?」
聞き間違えかと思い。マーガレットは恐る恐る振り返った。聞き間違いであってほしいと、そう願って。
けれど現実は残酷なものだった。
「あのドレスは売ってしまったよ。あんたのドレスを買うためにね」
マルガリータはざまあ無いと言いたげに声を殺して笑っている。イザベラは再びスプーンを手に取り、食事の続きを取り始めた。
けれどそんな状況はどうでもよかった。マーガレットの目の前は真っ暗な闇が広がっていた……。
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