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本編
贈り物と揉め事 1
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大きく息を吸い込み、肺が空気でいっぱいになるのを感じた後、肺の中にある空気を全て吐き出すように細く、長く、息を吐き出した。
「よし!」
マーガレットはネックレスのトップを握りしめて、部屋を飛び出した。
廊下を歩いてダイニングへと向かう途中、すでにマルガリータの怒り狂った声が廊下の端まで聞こえていた。まだ完全ではないマーガレットの体はダイニングへ向かうのを拒否しているが、気持ちを奮い立たせるように一歩一歩足を踏み出す。
声がどんどん近くにつれて、マルガリータだけではなくイザベラの声もクリアに届く。マーガレットが部屋に着いた時、二人は険しい剣幕でマーガレットへと視線を向けた。憔悴した体は二人の剣幕に圧倒されかけていたが、気を強く持ち、マーガレットは背筋を伸ばしてテーブルのいつもの席に腰をかけた。
「マーガレット、マルガリータから今聞いた話は本当なのかい?」
「それは、どういう話を聞かれたのでしょうか?」
マーガレットはなるべく微笑みながら、しれっとした様子で返事を戻した。するとその返答をしたのはイザベラではなく、マルガリータの方だ。
「白々しい! さっきのドレスの話に決まっているでしょ。お母様に確認したら買ってないと聞くじゃないの。一体どこから入手したのか教えなさい」
ぴしゃりと言ってのけるマルガリータは扇でマーガレットを差した。頭のてっぺんから湯気でも昇り始めるのではないかと思い始めていたその頃、マルガリータを制しながらイザベラは静かな声色で問いかける。
「マルガリータがマーガレットの新しいドレスを見たというじゃないか。それは本当かい?」
「はい」
マルガリータが再び噛みつくように口を開いたのを横目で見たイザベラは、自分の持つ扇で彼女の口を押さえた。
「マルガリータは少しお黙り。話が進まないじゃないか」
で、と言葉を続けてマーガレットへと投げる。机を痩せ細った指でトンっと叩き再び視線はマーガレットへと注がれる。
「それはどうやって得たんだい? 自分で買えるわけがないし、私はドレスを買わないと約束したばかりだろう?」
「ええ、そうですわ。あのドレスは貰ったのです」
イザベラはほぅ、と眉を上げて扇で顔を仰いだ。隣に座るマルガリータとは相反する表情だった。
「それは一体、誰からなんだい?」
「それは……」
開いた胸元についているネックレスのトップをぎゅっと掴み、心を決めたように顔を上げた。
「お城で騎士団長を務める、カイン様にいただいたのです」
さっきまでは感じの良い反応を示していたイザベラの表情が、突然くぐもった。
「騎士? マーガレット、まさかとは思うけど、騎士と付き合っているわけじゃないだろうね……?」
「いいえ、お母様。彼は……以前私が困ってるところを助けてくださった恩人です」
そして——。続けて口を開いたその時、イザベラに止められていたマルガリータが再び声を荒げた。
「マーガレット、あんたの付けてるそのネックレスも、その騎士から持ったのかしら……? それお城の紋章じゃないの」
そんなものをもらっておいて、本当に付き合っていないのか。そんな風に言いたげな物言いだった。マルガリータはマーガレットをどうにかして懲らしめたいのだろう。それが見て取れて、マーガレットは再び応戦を始めた。
「ええ、そうですわ。ですがお付き合いしているわけではございません」
テーブルに両手をつき、マーガレットは立ち上がってイザベラに向き合った。そして振り絞るようにこう言った。
「私はあのドレスと共にお城の舞踏会の招待状を受け取りました。私はカイン様と共に参加するつもりです!」
そう言い切った。
マーガレットは息を整えて、再び背筋を伸ばす。次に返ってくる言葉に対応するために。
「舞踏会の招待状? マーガレット、あんたお城に行くつもり?」
そう言ったのはマルガリータだ。疑心暗鬼な様子でマーガレットを見上げている。
「はい。招待状をいただきましたので」
「お母様、これはチャンスですわ。マーガレットがお城の舞踏会に参加するのならば、私もそれに乗じて社交の場に参加すれば素敵な殿方と出会うことができますわ!」
誘われたのはマーガレットだというのに、それに乗じようとする浅ましさがマルガリータの表情を醜いものへと変貌させる。いきり立ったマルガリータを再び制し、イザベラはスッとテーブルの上に一通の手紙を差し出した。
「マルガリータ落ち着きなさい。舞踏会の招待状はあんたにも届いているんだよ」
「お母様、なんと人が悪い! なぜそれを早くおっしゃってくださらなかったのですか」
「今朝届いたんだ。皆が揃ってから話をしようとしていたのだよ」
マルガリータは招待状を奪い去るように手に取り、中身を確認した。
「……まぁ、まぁまぁまぁ! 本物のお城からの招待状ですわ」
「少し落ち着きなさいマルガリータ。本物に決まっているだろう」
立ち上がったマルガリータが、招待状にキスをしながら、そばに立つリュセットの手を掴んで踊り始めた。普段はリュセットに触れることを嫌がる割に、今日だけは違っていた。それだけ興奮している証拠でもある。
「お城の舞踏会など、珍しいですわね」
小躍りするマルガリータに付き合わされ、まるで操り人形のようにたどたどしく踊るリュセット。そんな彼女は不思議そうに小首を傾げている。それもそのはず、お城に盛大に人を呼んで行う舞踏会など久しく行われていなかったからだ。
「よし!」
マーガレットはネックレスのトップを握りしめて、部屋を飛び出した。
廊下を歩いてダイニングへと向かう途中、すでにマルガリータの怒り狂った声が廊下の端まで聞こえていた。まだ完全ではないマーガレットの体はダイニングへ向かうのを拒否しているが、気持ちを奮い立たせるように一歩一歩足を踏み出す。
声がどんどん近くにつれて、マルガリータだけではなくイザベラの声もクリアに届く。マーガレットが部屋に着いた時、二人は険しい剣幕でマーガレットへと視線を向けた。憔悴した体は二人の剣幕に圧倒されかけていたが、気を強く持ち、マーガレットは背筋を伸ばしてテーブルのいつもの席に腰をかけた。
「マーガレット、マルガリータから今聞いた話は本当なのかい?」
「それは、どういう話を聞かれたのでしょうか?」
マーガレットはなるべく微笑みながら、しれっとした様子で返事を戻した。するとその返答をしたのはイザベラではなく、マルガリータの方だ。
「白々しい! さっきのドレスの話に決まっているでしょ。お母様に確認したら買ってないと聞くじゃないの。一体どこから入手したのか教えなさい」
ぴしゃりと言ってのけるマルガリータは扇でマーガレットを差した。頭のてっぺんから湯気でも昇り始めるのではないかと思い始めていたその頃、マルガリータを制しながらイザベラは静かな声色で問いかける。
「マルガリータがマーガレットの新しいドレスを見たというじゃないか。それは本当かい?」
「はい」
マルガリータが再び噛みつくように口を開いたのを横目で見たイザベラは、自分の持つ扇で彼女の口を押さえた。
「マルガリータは少しお黙り。話が進まないじゃないか」
で、と言葉を続けてマーガレットへと投げる。机を痩せ細った指でトンっと叩き再び視線はマーガレットへと注がれる。
「それはどうやって得たんだい? 自分で買えるわけがないし、私はドレスを買わないと約束したばかりだろう?」
「ええ、そうですわ。あのドレスは貰ったのです」
イザベラはほぅ、と眉を上げて扇で顔を仰いだ。隣に座るマルガリータとは相反する表情だった。
「それは一体、誰からなんだい?」
「それは……」
開いた胸元についているネックレスのトップをぎゅっと掴み、心を決めたように顔を上げた。
「お城で騎士団長を務める、カイン様にいただいたのです」
さっきまでは感じの良い反応を示していたイザベラの表情が、突然くぐもった。
「騎士? マーガレット、まさかとは思うけど、騎士と付き合っているわけじゃないだろうね……?」
「いいえ、お母様。彼は……以前私が困ってるところを助けてくださった恩人です」
そして——。続けて口を開いたその時、イザベラに止められていたマルガリータが再び声を荒げた。
「マーガレット、あんたの付けてるそのネックレスも、その騎士から持ったのかしら……? それお城の紋章じゃないの」
そんなものをもらっておいて、本当に付き合っていないのか。そんな風に言いたげな物言いだった。マルガリータはマーガレットをどうにかして懲らしめたいのだろう。それが見て取れて、マーガレットは再び応戦を始めた。
「ええ、そうですわ。ですがお付き合いしているわけではございません」
テーブルに両手をつき、マーガレットは立ち上がってイザベラに向き合った。そして振り絞るようにこう言った。
「私はあのドレスと共にお城の舞踏会の招待状を受け取りました。私はカイン様と共に参加するつもりです!」
そう言い切った。
マーガレットは息を整えて、再び背筋を伸ばす。次に返ってくる言葉に対応するために。
「舞踏会の招待状? マーガレット、あんたお城に行くつもり?」
そう言ったのはマルガリータだ。疑心暗鬼な様子でマーガレットを見上げている。
「はい。招待状をいただきましたので」
「お母様、これはチャンスですわ。マーガレットがお城の舞踏会に参加するのならば、私もそれに乗じて社交の場に参加すれば素敵な殿方と出会うことができますわ!」
誘われたのはマーガレットだというのに、それに乗じようとする浅ましさがマルガリータの表情を醜いものへと変貌させる。いきり立ったマルガリータを再び制し、イザベラはスッとテーブルの上に一通の手紙を差し出した。
「マルガリータ落ち着きなさい。舞踏会の招待状はあんたにも届いているんだよ」
「お母様、なんと人が悪い! なぜそれを早くおっしゃってくださらなかったのですか」
「今朝届いたんだ。皆が揃ってから話をしようとしていたのだよ」
マルガリータは招待状を奪い去るように手に取り、中身を確認した。
「……まぁ、まぁまぁまぁ! 本物のお城からの招待状ですわ」
「少し落ち着きなさいマルガリータ。本物に決まっているだろう」
立ち上がったマルガリータが、招待状にキスをしながら、そばに立つリュセットの手を掴んで踊り始めた。普段はリュセットに触れることを嫌がる割に、今日だけは違っていた。それだけ興奮している証拠でもある。
「お城の舞踏会など、珍しいですわね」
小躍りするマルガリータに付き合わされ、まるで操り人形のようにたどたどしく踊るリュセット。そんな彼女は不思議そうに小首を傾げている。それもそのはず、お城に盛大に人を呼んで行う舞踏会など久しく行われていなかったからだ。
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