48 / 114
本編
招待状 2
しおりを挟む
それはカインからの手紙と同じ筆跡で書かれていた。マーガレットは思わずドレスを持ち、姿鏡の前に立った。ドレスを体に当てながら、くるりと一回転。見たところ、サイズも丈もぴったりの様子。
「カインってば、あたしのサイズ知ってるとか、ほんと侮れないやつ……」
そう言いながらもマーガレットは、頬が綻ぶのを引き締めることができずにいた。
そんな時だった。コンコン、と部屋をノックする音が聞こえ、マーガレットは浮かれた様子で何も考えず、ただ返事を戻した。
「はい」
マーガレットの声を聞いて扉を開けたのは、リュセットだった。美しいドレスを掴んで嬉しそうに踊っているマーガレットを見た瞬間、状況が把握できていないリュセットはただ驚きの表情を見せた。
「……まぁ、なんて美しいドレスでしょうか。それはどうなさったのですか?」
幼子のように喜ぶマーガレットを見て、驚いた顔がやがて笑顔に変わっていく。ドレスを手に喜んでいる姿など、今まで一度も見たことがなかったのだ。
マルガリータのそんな様子は何度も見たことがあるが、マーガレットはあまり物に頓着していないと思っていただけに、リュセットもなんだか嬉しく感じていた。
「カインがプレゼントをしてくれたのよ! 見て!」
マーガレットから差し出された手紙を読み、カインがプレゼントしたものだと知ったリュセットは、さっきよりも嬉しそうに微笑んだ。
「そうでしたか。カイン様は紳士な方なのですね」
「ええ、お城で騎士団長を務めているみたいなの」
「まぁ、それは素晴らしいですわ」
ドレスを抱きしめながら、マーガレットの頬は緩みっぱなしだ。ドレスをもらって嬉しいと言うよりも、カインから舞踏会に誘われたことの方が何よりも嬉しいと感じていた。
「朝から騒がしいじゃない。何をそんなに……!」
騒ぎを聞きつけたマルガリータが、開け放たれたままの扉から顔を覗かせた。そしてマーガレットが握るドレスを見て、いつもの嫌味ったらしい表情から一気に怒りの表情へと変貌を遂げた。
「どういうことなのマーガレット! お母様! マーガレットにだけドレスをプレゼントなさったのですか? 私は買って貰っていないというのに!?」
マルガリータはそう叫びながらダイニングへと駆けて行った。その様子を見て、マーガレットの表情はやっと引き締まる。
「マーガレットお姉様……」
心配そうなリュセットの肩にそっと触れ、マーガレットは力強く微笑んだ。
「大丈夫よリュセット。私は一旦服を着替えるから先にダイニングへ行ってちょうだい」
リュセットはマーガレットの様子を見に来ていた。昨日熱を出して倒れたせいで気にしていたに違いない。そして体調が良くなっているのなら朝食の準備が整ったため、皆で食べようと声をかけに来ていたのだ。
「わかりました。お待ちしておりますわ」
相変わらず心配そうに眉尻を下げた顔をしたまま、リュセットは部屋を後にした。扉が閉まったのを確認してから、ドレスを手紙とともに箱の中へと片付けた。
このドレスを着て、舞踏会に行こうとするのだ。否応無しにイザベラとマルガリータにドレスをどうやって手に入れたのか聞かれるのは想像がついていた。その上舞踏会ではカインのエスコートで行こうとしているのだから、なおさらカインの存在を隠すことは不可能だ。
マーガレットはドレスを入れた箱を大切にクローゼットの中へとしまい、代わりに別のドレスを取り出してそれに着替えた。
「ふぅ」
一息ついたあと、意を決し、戦いの舞台となるダイニングへと向かった。
「カインってば、あたしのサイズ知ってるとか、ほんと侮れないやつ……」
そう言いながらもマーガレットは、頬が綻ぶのを引き締めることができずにいた。
そんな時だった。コンコン、と部屋をノックする音が聞こえ、マーガレットは浮かれた様子で何も考えず、ただ返事を戻した。
「はい」
マーガレットの声を聞いて扉を開けたのは、リュセットだった。美しいドレスを掴んで嬉しそうに踊っているマーガレットを見た瞬間、状況が把握できていないリュセットはただ驚きの表情を見せた。
「……まぁ、なんて美しいドレスでしょうか。それはどうなさったのですか?」
幼子のように喜ぶマーガレットを見て、驚いた顔がやがて笑顔に変わっていく。ドレスを手に喜んでいる姿など、今まで一度も見たことがなかったのだ。
マルガリータのそんな様子は何度も見たことがあるが、マーガレットはあまり物に頓着していないと思っていただけに、リュセットもなんだか嬉しく感じていた。
「カインがプレゼントをしてくれたのよ! 見て!」
マーガレットから差し出された手紙を読み、カインがプレゼントしたものだと知ったリュセットは、さっきよりも嬉しそうに微笑んだ。
「そうでしたか。カイン様は紳士な方なのですね」
「ええ、お城で騎士団長を務めているみたいなの」
「まぁ、それは素晴らしいですわ」
ドレスを抱きしめながら、マーガレットの頬は緩みっぱなしだ。ドレスをもらって嬉しいと言うよりも、カインから舞踏会に誘われたことの方が何よりも嬉しいと感じていた。
「朝から騒がしいじゃない。何をそんなに……!」
騒ぎを聞きつけたマルガリータが、開け放たれたままの扉から顔を覗かせた。そしてマーガレットが握るドレスを見て、いつもの嫌味ったらしい表情から一気に怒りの表情へと変貌を遂げた。
「どういうことなのマーガレット! お母様! マーガレットにだけドレスをプレゼントなさったのですか? 私は買って貰っていないというのに!?」
マルガリータはそう叫びながらダイニングへと駆けて行った。その様子を見て、マーガレットの表情はやっと引き締まる。
「マーガレットお姉様……」
心配そうなリュセットの肩にそっと触れ、マーガレットは力強く微笑んだ。
「大丈夫よリュセット。私は一旦服を着替えるから先にダイニングへ行ってちょうだい」
リュセットはマーガレットの様子を見に来ていた。昨日熱を出して倒れたせいで気にしていたに違いない。そして体調が良くなっているのなら朝食の準備が整ったため、皆で食べようと声をかけに来ていたのだ。
「わかりました。お待ちしておりますわ」
相変わらず心配そうに眉尻を下げた顔をしたまま、リュセットは部屋を後にした。扉が閉まったのを確認してから、ドレスを手紙とともに箱の中へと片付けた。
このドレスを着て、舞踏会に行こうとするのだ。否応無しにイザベラとマルガリータにドレスをどうやって手に入れたのか聞かれるのは想像がついていた。その上舞踏会ではカインのエスコートで行こうとしているのだから、なおさらカインの存在を隠すことは不可能だ。
マーガレットはドレスを入れた箱を大切にクローゼットの中へとしまい、代わりに別のドレスを取り出してそれに着替えた。
「ふぅ」
一息ついたあと、意を決し、戦いの舞台となるダイニングへと向かった。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる