サンドリヨン 〜 シンデレラの悪役令嬢(意地悪姉役)に転生したので前職を生かしてマッサージを始めました 〜

浪速ゆう

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本編

足湯 2

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「マーガレットお姉様どうなさいました? 震えていらっしゃるようですが、お寒いのでしょうか?」
「えっ? い、いいえ、大丈夫よ。それよりもリュセット、普段から足が冷えているのね。毛細血管が拡張しているわ」

 雪のような白い肌にうっすらと浮かぶのは、毛細血管。文字通り毛のような細い血管。赤紫色をした毛糸の糸くずのような血管が、まるで足元に散っているようにリュセットのふくらはぎにうっすら浮き上がっていた。

「毛細血管……ですか?」

 言葉の意味がよくわからず、リュセットは首を傾げた。

「ええ、体の中には血液が流れているでしょう? その管を血管と言うわよね?」

 リュセットはゆっくりと首を縦に振った。それを見てからマーガレットはどう説明しようかと「んー?」と一度天井を見上げた後、こう言った。

「血管には心臓から血液が出ていく動脈と、逆に心臓に血液が戻ってくる静脈とがあるの。そして毛細血管は動脈と静脈をつなぐ血管で、動脈と静脈に比べたらすごく細いものなのね。だからこそ血行が悪くなったり、何か体に不都合が起きて慢性的に血流がスムーズに流れなくなると、この血管が詰まって、拡張して、リュセットのここのように浮かんでくるのよ」

 マーガレットは説明をしながら、リュセットの足を少し持ち上げて毛細血管が浮き出ているところを指差した。けれどリュセットはその血管を見てはいるものの、話の大半はよくわかっていないのか反応が今ひとつ鈍い。
 リュセットとマーガレットはきっと相反した性格なのだろう。リュセットは家庭的で家事全般、裁縫だってそつなくこなす。けれどきっと勉強は得意なタイプには見えず、逆にマーガレットは家事全般は不得意だが勉強はそれなりに卒なくこなすタイプだ。

「寒い日や夜寝る前にこうして毎日足湯をすると良いわ。足首までかぶる程度にお湯を注いで10分くらいすると体の芯から温まってぐっすり眠れるでしょうし」
「それは良い案ですわね。これでしたら裁縫をしながらでもできますし」

 その時、ふとある考えが頭をよぎり、マーガレットはリュセットの足を掴んでこう言った。

「そうだわリュセット。刺繍を教えてくれるお礼に、私が足裏のマッサージをしてあげるわ」

 マッサージと聞いて、リュセットの体が少し強張った。前回肩を触られた時の痛みが脳裏をよぎったのだろう。その様子を見てマーガレットは思わず笑ってしまった。

「大丈夫よリュセット。足裏をするのであればオイルを使用するから痛くないわ。ちゃんと加減もするし、膝下までオイルで流すから血行にも良いわよ」

 これは練習もできて一石二鳥ではないか。マーガレットはいつになく張り切っていた。そんな様子が手に取るように見て取れて、リュセットも断るに断れなくなってしまった。

「では、お手柔らかにお願いたします」

 遠慮がちに微笑んだリュセットに、マーガレットは全力の笑顔で答えた。

「もちろんよ!」

 けれどマーガレットには一つ疑問があった。

「けれど問題はオイルね。マッサージするのに良いオイルなんて家にあったかしら?」
「オリーブオイルならありますわ」
「オリーブオイルね……」

 腕を組みながら「うーん」と唸ってみせる。マーガレットは頭の中でマッサージができるのかどうか想像していたのだ。

「そうね、それならばオイルが軽すぎずマッサージがしやすくて良いかもしれないわね。早速試して見ましょう」

 善は急げと言わんばかりにマーガレットが立ち上がり、部屋を出て行こうとするので、慌ててリュセットがマーガレットのドレスの裾を引っ張り食い止めた。

「お待ちくださいマーガレットお姉様。先に刺繍を終えてからにいたしませんか?」
「けれどせっかくリュセットの足が温もったのだから今やるのが良いと思うのだけれど?」
「でしたらせめて、紅茶を楽しんでからにいたしましょう。せっかくの温かい紅茶が冷めてしまってはもったいないですわ」

 リュセットの意見は一理ある。そう思ってマーガレットはトローリーに置いたままだった紅茶をカップに注ぎ入れた。

「そうね、まだ時間はあるものね」

 紅茶を注いだカップをリュセットに渡し、リュセットはそれを受け取りながらこう言った。

「はい、ゆっくりいたしましょう。時間は十分にありますわ」
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