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本編
自分らしさ
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食事を終えた後、リュセットは洗濯物を済ませてから裁縫を教えにマーガレットの部屋へと来ることになった。それまでの間、マーガレットはどういったものを刺繍するか一人で考えながら部屋の窓辺に腰を下ろした。
マーガレットの手には木製の小さな宝石箱。手のひらよりも少し大きなサイズのそれを撫でながら、ふたを開けると、中には過去にイザベラから貰ったおさがりのもや、両親から買って貰った宝石類が入っている。その中でも一番上にそっと置かれているのは、昨日カインから預かったネックレスと1大型銀貨だ。
マーガレットはカインのネックレスをそっと指に絡めるようにして持ち上げ、太陽の光にかざすようにしてペンダントトップを見やる。
「カイン……」
ため息を漏らすように思わず出たその言葉に、マーガレットは驚いた。王家の紋章を指の腹でなぞりながら、思い出していたのはカインの事だった。
「変なの。あんな嫌な出会い方したのに、今ではこんなに親しい間柄なんだもの」
それも出会ったのはつい最近のこと。出会いは最悪。それなのにーー。
『——マーガレットに何かあればと思うと、俺は心配でならない』
それは単に夜道に一人で帰らせるのは危険だと言う意味で言っただけのこと。カインにとってそれ以上もそれ以下もない言葉。そうだと分かっているけれど、マーガレットはその言葉を思い出すたびに胸の奥がムズムズとするようなくすぐったさを感じ、頬がほんのり火照り出すのを抑えることができずにいた。
「カインなら……」
一度は口にしようとした続きの言葉を、マーガレットはそっと喉の奥に留めた。
(カインなら……私の最悪な未来を変えてくれるかもしれない)
森の中で山賊に襲われていたあの時、マーガレットを助けに颯爽と現れたように。
「……自分らしくもないこと思っちゃったな」
小さく頭を左右に振って、自嘲気味に笑った。自分の未来を人に託すなど、マーガレットらしくもない。それだけ今のマーガレットは弱っているのか、それともカインと共に過ごす未来を願っているのかーー。
「久しぶりに乙女チックな私が出てしまった」
マーガレットは立ち上がって窓から離れ、そのままネックレスを宝石箱の中にしまい直し、パタンと蓋を閉じた。
カインには外すなと言われたが、これを付けているとイザベラやマルガリータに何を言われるか分からない。詮索好きなあの二人がこの紋章を見た日にはもう、カインとのことを隠すのは難しくなる。そう感じたマーガレットは家の中では宝石箱の中にしまうことにした。
引き出しの中から小さな鍵を取り出し、宝石箱の蓋についている鍵穴にそれを差し込んだ。
——カチリ。そんな小さな音を立てて、箱は眠るように静かになった。次また開けられるのをただ黙って待っているかのように。
マーガレットの手には木製の小さな宝石箱。手のひらよりも少し大きなサイズのそれを撫でながら、ふたを開けると、中には過去にイザベラから貰ったおさがりのもや、両親から買って貰った宝石類が入っている。その中でも一番上にそっと置かれているのは、昨日カインから預かったネックレスと1大型銀貨だ。
マーガレットはカインのネックレスをそっと指に絡めるようにして持ち上げ、太陽の光にかざすようにしてペンダントトップを見やる。
「カイン……」
ため息を漏らすように思わず出たその言葉に、マーガレットは驚いた。王家の紋章を指の腹でなぞりながら、思い出していたのはカインの事だった。
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『——マーガレットに何かあればと思うと、俺は心配でならない』
それは単に夜道に一人で帰らせるのは危険だと言う意味で言っただけのこと。カインにとってそれ以上もそれ以下もない言葉。そうだと分かっているけれど、マーガレットはその言葉を思い出すたびに胸の奥がムズムズとするようなくすぐったさを感じ、頬がほんのり火照り出すのを抑えることができずにいた。
「カインなら……」
一度は口にしようとした続きの言葉を、マーガレットはそっと喉の奥に留めた。
(カインなら……私の最悪な未来を変えてくれるかもしれない)
森の中で山賊に襲われていたあの時、マーガレットを助けに颯爽と現れたように。
「……自分らしくもないこと思っちゃったな」
小さく頭を左右に振って、自嘲気味に笑った。自分の未来を人に託すなど、マーガレットらしくもない。それだけ今のマーガレットは弱っているのか、それともカインと共に過ごす未来を願っているのかーー。
「久しぶりに乙女チックな私が出てしまった」
マーガレットは立ち上がって窓から離れ、そのままネックレスを宝石箱の中にしまい直し、パタンと蓋を閉じた。
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引き出しの中から小さな鍵を取り出し、宝石箱の蓋についている鍵穴にそれを差し込んだ。
——カチリ。そんな小さな音を立てて、箱は眠るように静かになった。次また開けられるのをただ黙って待っているかのように。
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