サンドリヨン 〜 シンデレラの悪役令嬢(意地悪姉役)に転生したので前職を生かしてマッサージを始めました 〜

浪速ゆう

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本編

マッサージ開始 2

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 数分後、カインは着替えて戻って来た。黒の詰襟、長袖の上着に、下は同じ素材、同じ色のロングパンツ。足の両サイドと上着のセンターにあるボタンの部分のサイドに金の刺繍が入っている。

「これでは、どうか?」

 紅茶のおかわりをしていたマーガレットは戻って来たカインの元へ足早に向かい、素材を確かめる。

「そうね、生地が少し厚いけれど、思ったよりもストレッチが効いているからいいかも。一度試してみよう。それじゃ早速、あのキルトの上にうつ伏せで寝てみて」

 カインは言われるがままにうつ伏せになろうとすると、マーガレットがさらに注文をつけた。

「寝る時、このタオルを胸の下に敷くように寝てみて。それと、この枕に額を置くように顔を下に向けて」

 黙って言われた通りにするカイン。その間にカインの寝心地を確かめるようにして腕の位置は顔の真横へと移動させた。

「枕と胸元のタオルの高さやポジションはどう?」
「ああ、悪くはない」
「それなら良かった。私が圧を加えると体が沈むだろうから、念のため両手はそこに。けど支える必要はないから。私も必要であれば腕を動かすから、何か違和感があれば教えて」
「わかった」

 カインの体の上に大きなタオルを二枚かけた。一枚は足元から腰にかけて、もう一枚は背中に。ちょうどタオルがクロスの形になるように。

「それじゃ、始めるわ。まずは体のチェックを兼ねて軽く全身を押していくわね」

 カインのつま先に膝をつくようにしてかがみ、親指で足裏の踵からつま先にかけて真ん中をゆっくりとしたスピードで押していく。

(1……2……3……4……5……)

 心の中で5秒間カウントし、親指を体から離すときは3秒カウントでゆっくりと皮膚の返りをその指で感じながら離し、テンポよくツボを刺激していく。
 次は足首を手のひら全体で覆うように圧をかけながら掴む。それをゆっくりとふくらはぎ~膝裏、そして太もも~お尻の付け根に向けて圧迫していく。

「……マーガレットにしては、なかなか積極的じゃないか」
「えっ?」

 マッサージの手順に頭を使っていたせいでカインが何を言っているのか、すぐには理解できずにいた。けれど、カインが言わんとすることに気がついたとき、思わず手を離した。

「な、変なこと言わないでよ! お尻を触ってるのもこれはマッサージで……」
「冗談だ。さっさと続けてくれ」
「……!」

(こっの、変態騎士~!)

 マーガレットはもう無遠慮にカインのお尻に触れながら、お尻の一番トップを指圧。そのあとサイドに降りて、両サイドを指圧。最後にトップから斜め上、腰とヒップの付け根より少し下あたりをグッと力一杯押した。するとカインの体はブルルと小さく揺れた。

「……なんだ、そこは」
「ツボと言ってお尻や足が疲れてるとここが効いたりするんだけど、まさか……痛かったなんて言わないわよね?」
「……」
「言わないよね。だって騎士団長様だもんね。言うわけないよねこの程度で」

 マーガレットはここぞとばかりに嫌味ったらしく言葉を放ち続ける。まるでマルガリータがマーガレットの体を乗っ取っているようなそんな光景だった。

「いつももっと大変な鍛錬をしてるんだろうし、もっと痛いことだって耐えてきてるもんね? 痛いわけないよね」
「……マーガレット、後で覚えておけ」

 うつ伏せでどもりながらそう言ったカインを無視して、マーガレットはマッサージを続けていく。今度は背中の横に膝を立てて座り、背骨の位置を指で触れて確認し、そのまま背中の背骨を挟んで両サイドを手根シュコンで指圧していく。
 肩まで上がれば、肩をつまむようにぎゅっ、ぎゅっと少し引っ張ってゆっくりと手を離した。

「うん、なんとなく掴めて来た気がする」

 感覚はなんとなくつかめたが、やはり指の力が足りない。マッサージは基本体重を使い、圧をかける。けれどその体の使い方、ポジションが完全ではない。体の使い方がうまくいったとしても、それに耐えれる指をしていない。これでは簡単に腱鞘炎になってしまう。特にカインのように男性の、さらに筋肉質な体はより圧をかけなければならないのだ。

「指を少し鍛える必要があるな。でもそれは一人の時でもできる、とすれば体のポジションと圧のかけ方を中心に練習すべきかな」
「何をぶつぶつと言っている。終わったのか?」

 カインは起き上がってもいいものかどうか考えながらチラチラとマーガレットを見ている。

「終わりなわけないでしょ。これからだからまだ寝てて」

 顔を上げたカインの頭を押さえつけた。カインの扱いも慣れてきたのか、マーガレットはいつの間にかカインに対して雑な扱いになっていた。けれどカインもそれを容認するように、何も言わず黙って再びうつ伏せになっている。
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