サンドリヨン 〜 シンデレラの悪役令嬢(意地悪姉役)に転生したので前職を生かしてマッサージを始めました 〜

浪速ゆう

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本編

ベッドの準備 1

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「さぁ着いた。ここだ」

 幾分か馬を走らせ止まった先は、街から離れた場所にある丘の上の家だった。

「ここは……?」

 本当ならばどこへ行く気なのか馬に乗っている時に聞いておきたかった。だが、それができる状況ではなかった。

「もしかして、カイン様の……?」
「そうだな、いわば別宅みたいなものだ」

 団長とはいえ、騎士は騎士。貴族でもなければ別宅が持てるほど給与がいいとは思っていなかっただけに、マーガレットはぽかんと口を開けてまじまじと家の外見に目を向けた。
 お屋敷とまではいかないが、まるで絵本で見るような可愛らしいお家だった。赤茶色のレンガ屋根には煙突が一つ。庭には意外にも手入れが届いているようで、季節の花が咲き誇っている。

「ここなら誰にも邪魔はされず練習ができるぞ」

 そう言ってカインはスタスタと裏口に馬を留に行った。家の外塀はマーガレットの背丈より少し低く、石塀だ。一歩その石塀の中へとはいれば、美しく咲き誇る花の香りが充満している。

「マーガレット、こっちだ」

 小さな花の庭園を抜けた後、玄関口に立ち扉を開けて待っていたカイン。そのカインに誘われるようにして、家内へと入って行った。
 家の中に、見ている限りだとマーガレットとカインの二人きり。少しも警戒していないかと言われれば嘘になるが、マーガレットはカインのあの誓いを信じると決めていた。

『——この剣に誓おう、俺の言葉に嘘偽りがないことを。そして、誇りと名誉にかけて』

 カインは剣を掲げ、そう言った。そして『二言はない。信じろ』と。その力強い言葉と、揺るぐことがなく澄んだ青い瞳がマーガレットをここへと導いていた。

「寒いだろう、こっちへ来い」

 カインは上着を脱ぎ、居間にある暖炉に薪をくべた。暖炉のそばに置いてあるマッチで火をつけると、パチパチと薪がはぜる音が心地よく室内に響いた。
 マーガレットはブルル……と少し身を揺らし、両手で身体を抱きしめるようにして暖炉のそばへと向かう。カインがカーテンを開け、外の光が室内に差し込んだ。厚いカーテンで閉め切っていたせいか、室内は外よりも寒い。

「しばらく使っていなかったからな、少し埃っぽいかもしれん」
「その割に綺麗ですわね」

 小姑のようにマーガレットが窓の桟に指をツーと滑らせた。けれど埃がついている様子はない。

「ああ。一応昨日使用人をここへ送り、ある程度掃除はさせてあるからな」
「使用人……」

 騎士団長とは想像よりもお金持ちなのかもしれない。そんな風に思い始めていた頃、カインがぐっと腕を伸ばして首を回した。

「凝ってらっしゃるようですね」
「ああ、最近は机に向かう事務的な仕事が多くてな」
「鍛錬や警護だけではなく事務仕事ですか……騎士団長様は大変ですわね」

 それだけ忙しくしているのであればそれなりの給与がもらえてもおかしくはないか。そう思い、マーガレットはひとまず持っていたバスケットをソファーの上に置いた。

「それでは、どのようにいたしましょうか」
「どのようにすればいいのだ? 俺は素人だ、マーガレットの指示に従おう」
「そうですわね。初めは場所がないと思っていたので座ってマッサージをすればいいと思っていましたが……寝室はどちらにございますか? ベッドを拝見したく存じます」

 家を提供してもらえるのならば、寝転んでマッサージをするのが一番だ。そう思い、マーガレットは寝室を案内してくれるというカインの後を追って居間を後にした。

「ここがゲストルームだ。そこにベッドもあるがそれではどうだ?」

 客間は簡素なものだった。真ん中にベッドがあり、その両側にはベッドサイドボードが二つ。両方にブックライトが置かれている。他にはクローゼットが一つ置かれていた。ベッドの頭上の壁には壺の中に花が活けられた絵画が飾られ、ベッドはキングサイズのダブルベッドだ。
 マーガレットはベッドに歩み寄り、手で柔らかさを確かめる。

「他の部屋にもベッドはあるが、確認するか?」

 カインは入り口の扉に背中を預けながら、マーガレットの様子を観察しながらそう言った。

「他の部屋も同じベッドでしょうか? このベッドよりも硬いマットレスを使用しているものはございますか?」

 カインは一瞬思い出すような仕草を見せたが、すぐにこう言った。

「自分の目で確かめてみるといい。こっちだ」
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